貴方と見る月だから
おはようございます。
第306話投稿させて頂きます。
今回は和登の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
「あの、狗神君。あの時の告白に対する答えなんだけど・・・今からでも答えの変更って受け・・・」
何時もより自信なさげに小さな声でバツが悪そうに紡がれたコハクの言葉が丁度始まった花火に掻き消される。
正直、花火の音で掻き消されてしまったがコハクの言っていた事は全てでは無いが聞こえていた。向こうの世界で俺がした告白に何かを言いたいらしい・・・俺、明日、元気に異世界に行けるかな・・・?
そんな若干の不安を抱えるもコハクも花火の上がっている間は喋るつもりがないのか二人で花火を見る。
「えっと・・・コハク。言いたかった事って?」
どことなく気まずい雰囲気になりながら花火が終わるまで待ち、俺は意を決してコハクに先程の言葉の続きを催促する。
俺の言葉にコハクは少しだけ驚いた様子を見せるがゆっくりと口を開く。
「狗神君が向こうの世界で私にしてくれた告白に対する返事の変更をさせてもらいたいです・・・」
「・・・どうぞ」
コハクから発した言葉に俺は変な緊張と少しの期待を感じながらコハクの言葉を待つ。
「・・・だから」
「へ?」
恥ずかしいからか小さな声で言われた言葉に思わず聞き返すとコハクは息を大きく吸って今度ははっきりと口にする。
「貴方と見る月だから」
言った瞬間に顔を真っ赤にしてうつむいてしまったコハクの事を俺は呆然と見てしまう。
『貴方と見る月だから』、『月が綺麗』の返答で要は自分も相手の事が好きだと言う意味。
前回の告白への返答という事でつまり、コハクも俺の事を好きだと言ってくれている。
脳がフリーズを起こしながらも何とかそこまで考えて次に何とも言えない幸福感が湧き上がってくる。
「えっと、狗神君?やっぱり駄目かな・・・?むしが良すぎたよね」
「喜んで‼」
思考をしながら俺が停止していた事をNOと捉えたのかコハクが諦めモードで笑いかけて来るのを慌てて返事をしながら思わず抱きしめる。
コハクは驚いた様子で少しだけ身を固くしたがそのままおとなしく抱きしめられる。今思えば思いっきり舞い上がっていた。
「すげぇ、嬉しい・・・」
よもや誰かから告白されてここまで嬉しいと思う事が有るとは思わずコハクの事を抱きしめながら声を漏らす。
少しの間、余韻に浸っているとふと疑問が浮かんでくる何でコハクは今になって告白の返事を変えたのだろうか?
そんな疑問が浮かんできて俺は率直にコハクに訊いてみる。
「いくつか聞いても良い?」
「うん」
腕の中でコハクが頷くのを見て俺は質問をする。
ちなみに抱き締めたままなのは舞い上がっているので許してほしい。
「最初の時に告白を断られたのって俺が理由?あと何で答えを変えてくれたの?」
そんな質問をコハクに投げ掛けると彼女は俺の腕の中で少しだけ気まずそうな顔をしてゆっくりと口を開く。
「それに関しては色々と申し訳ないと言いますか・・・狗神君は悪くなくって私の都合と申しますか・・・そもそも君への好意には告白をしてもらう前に気づいていたと言いますか・・・」
何故か敬語でちょっとだけ聞き捨てならない事を歯切れ悪く言いながらぽつりぽつりと話すコハクによれば告白を断ったのは、当時は色々とコハクが正常では無かった事と自身が人を殺しすぎている事に負い目が有った為で俺に一切の非はないとの事。
因みに告白の返事を変えた事に関しては色々有ってと言って教えてくれはしなかった。
「以上が理由だけど・・・狗神君は本当に私で良いの?」
改めて返事をして抱きしめているにも関わらず不安そうにそう訊いてくるコハクの質問に答えずに俺は二つ目の質問を投げ掛ける。
「二つ目の質問。所々で下の名前で呼んでくれていたけど、俺はコハクから一本取った事無いよね?」
記憶が戻って最初の戦いの時や先程の吉川達の前での事を聞いてみるとコハクは不思議そうに首を傾げて答える。
「君は私から一本取っているよ。私がクラシア王国と帝国の連合軍へと突貫しようとするのを止めに来た時だね。あの時、君は間違いなく私から一本取っていたよ」
何故か何処かどや顔でそういうコハクに若干、頬が赤くなるのを感じながら俺は少しだけ意地悪く口を開く。
「それならもう付き合う事だし、下の名前で呼んでくれるよね?」
「・・・明日から頑張ります」
先程、吉川達の前で呼んでくれていたのは何だったのかと思いながらも焦る必要はないと思い素直に引く。
一つ一つの事に何とも言えない幸福感を感じながら体を放してポケットから月と龍に乗った少女を模ったペンダントを取り出す。
「じゃあ、これも改めて身に着けてくれるかな?」
ペンダントを見たコハクが若干バツの悪そうな顔をしてみているのを苦笑いしながら手渡すとコハクはゆっくりと受け取り、口を開く。
「・・・ありがとう。改めて大切にするね。それと私からいぬ・・・和登君に渡したい物が有るんだ」
そう言ってアイテムボックスから綺麗な箱を取り出すと俺へと差し出してくる。
「この子のお礼の品。何かを送ると言いながら渡せてなかったから」
「開けても良い?」
「もちろん」
箱を開けてみると中からアメシストの嵌った綺麗なロケットが姿を現す。中に写真も入れられる様だ。
「ちょっとした人からアドバイスを貰ってね。使って貰えると嬉しいよ」
そう言って笑うコハクを無言で携帯を出して写真に収める。
———後でプリントアウトしてロケットに収めよう。
面食らっているコハクを置いておき、家に帰ってからやることを決めてから立ち上がる。
「ありがとう。大切に使わせて貰うよ。遅くなって来たし、そろそろ帰ろうか?」
そう言って手を差し出すとゆっくりと手を握り返されてコハクが立ち上がる。
「明日からもよろしくな。コハク」
「・・・こちらこそ」
手を繋いだままゆっくりと駅へと向かって歩き、少し関係の変わった俺達は帰路へとついた。
余談だが帰り道に最後の質問で『月が綺麗』への回答が『死んでもいい』じゃなかったのかを訊いたら真顔で「私達の状態を考えると冗談じゃなくて縁起が悪いでしょ?」と言われた。
此処までの読了ありがとうございました。。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




