白の人生、コハクの人生
こんばんは、第30話投稿させていただきます。
今回、かなり長くなってしまいましたが楽しんでいただけたら幸いです。
思わずお茶を吹いた私を見て師匠が駆け寄って来てほっぺたをフニフニと引っ張りながら笑顔で喋る。
「全く。一ヶ月も心配させておいて人の顔を見るなりお茶を吹くとか失礼じゃないですかねぇ~。罰としてぽっぺた引っ張りの刑です」
(血色は問題ないですね。体調も良さそうです。ポーションでも治せなかった怪我を治せるとは、レインの治癒魔法はやはり優秀ですねぇ)
ほっぺをフニフニとしながら目や髪を確認してくる。
「髪の色は見事に茶色から銀になっていますねぇ~‼。目も紫色に変化してますか…髪だけなら恐怖や無理のしすぎというのも考えられますが目の色というと分かりませんねぇ~‼ものすご~く、興味が有りますねぇ~‼」
(目が魔眼に変異している?後天的な魔眼…あり得ない…この現象によって一体この子にどの様な作用が有るのか、この目がどの様な力を持っているのか早急に調べないといけませんね…)
「いや、師匠考えている事と声に出している事が逆でしょ?」
目で見えている事と師匠の言っている事の違いに思わず突っ込みを入れると頬を引っ張っていた先生の動きがピタリと止まり一瞬驚いた顔になり、頬から手を放し、人差し指を口の前に出し静かにというようなジェスチャーを師匠の分のお茶を淹れに行っているレイン先生を気にしながら取る。
「はははは、元気そうで何よりですよ。」
(声に出さずそのまま聞きなさい。心の声が見えていますね?ハイなら首を縦に振ってください)
先生の心の声にこくりと頷くと師匠は更に心の声の方で話しかけて来る。
(やはり見えていますか。これで大体この魔眼の効果が分かってきましたね…。今から言う事をよく聞いてください。貴女の目が魔眼に為っている事はまだレインも知りませんね?)
その質問にもう一度頷く。
(良いですか、貴女の目が後天的な魔眼に為ったという事はこの場にいる人間以外にバラしてはいけませんよ。後天的な魔眼というのは本来あり得ないとされているんです。この国は大丈夫でしょうが他の国に知られたらその方法を手に入れようと大変な事になります。知っている人間は少ない方が良い。レインには後で私から話します。貴女との付き合いの関係上知っていた方が良いでしょう。それに彼女は私が絶対の信頼を置いている人物の一人ですので、事の重大さをすぐに理解してくれるでしょう)
「さて、その目については、今後も要注意で早急に対策を立てるとしましょう。それでは、聞いておかなければいけない事が有ります」
「?何ですか?」
今度は声に出して聞きたいことが有ると言って来る。
あれ…?何か怒っている…・
「なぜドラゴンが現れた時に他の子達と一緒に逃げなかったのですか?」
静かな抑揚のない声で私がリスト君達と逃げなかった理由について聞いてくる。
心の声も意図的に抑えて要るのか真意が読み取れない。
「えっと…あの時はなんか色々な理由が重なって私が一緒に逃げると皆も危険になると思ったので一緒には逃げられませんでした」
実際、あのドラゴンもとい先代黄昏の魔王は私を探していたのであの行動は間違いでは無かったと思っている。
もっと言ってしまえば元々この世界の人間として生きている人達の命と転生によって第二の人生を生きている私の命とでは恐らく前者の方が命の価値的に重いのではないかと思ってしまう。
「では、なぜドラゴンと戦ったのですか?」
「えっと…一応皆が逃げる時間稼ぎの意味も有りました…」
その一言を聞くと師匠は、はぁ~っと重く溜息をつき口を開く。
「貴女は自分の命を犠牲にしても良いと思ったのですね?つまり約一年半前のイビルベアの時と何一つ変わっていないという事ですね?」
師匠のその言葉と同時にパアンっという音と共に右頬に痛みが走る。
「自分の命を軽視するのもいい加減にしなさい‼」
頬を抑えて驚いていると今までに聞いた事の無い声で師匠が怒っている。
「今回のドラゴンにしても前回のイビルベアにしても貴女は自分の命を軽く見過ぎている‼他の子達を逃がしたのはとても良い事です。ですが、その後自分が死にそうになるま…いや、二回とも実際に死んでいたでしょう。あんな風になるまで貴女が戦うのはやり過ぎです‼はっきり言って自殺願望が有るとしか思えません」
師匠の自殺願望が有るという言葉にドキリとし、思わず下を向いてしまう。そんな事は無いと言ってしまいたいが、確かに私は言っている事とやっている事に矛盾がある。
口では老衰で穏やかに死んでやると言っているにもかかわらず厄介ごとに首を突っ込み剰え自分は危険な場に残り戦うなんて事をしているのだ。
そんなんじゃ、自殺願望が有ると言われても文句が言えない。
恐らくこれらの行動の根幹には自分が転生者だという考えがある。転生者だから死んでも次が有るとかも考えてしまう。
そして、私はなんとなくこの世界に居場所が無いような気がしている。転生者故に記憶を持っており、生んでくれた両親も何となく他人な気がしてしまう。
多分、これらが私の行動の原因なのだろう…
要するに私は未だに【宮城 白】として生きており、【コハク・リステナ】としては生きていないのだ。
「恐らく未だに研究材料としか見ていないと思われている私にこんな事を言われたくないと思っているでしょう…」
先生の言葉に考え込んでいた私を見ていつもの態度から予想したであろう。言葉を掛け、一呼吸置いて少し気恥しそうに言葉を続ける。
「良いですか?私も恥ずかしいですので一回しか言いません。言っときますけど私だって人間なんです。一年半も一緒に居れば情も湧きます。要するに貴女が弟子としてとても可愛いのです」
正直その言葉に驚いた…。師匠の弟子になった直後は魔法の実験をする材料のような感覚が有ったけど最近はそんな事全然感じ無くなっていた。だが、弟子として可愛いと思っていてくれているとまでは思っていなかったのだ。
「恐らく、レインを含めた貴女の周りの人達は皆、私と同じ様な気持ちだと思いますよ?貴女は色々な人に関わっていろんな人の心にもう居るんです。貴女の居場所は此処なんです。だからもっと自分を大事にしてください」
優しくそう言う師匠の言葉を素直に嬉しく思う。
あぁ、そうか…私はもうちゃんとこの世界に居場所が出来てたんだ…
「コ、コハクさん!?大丈夫ですか?ひょっとして強く叩き過ぎましたか?」
私の顔を見て驚いた様子で師匠が私の名前を呼び心配をしている。
大丈夫ですと言おうと思った時に膝の上に置いていた左手に雫が落ちて来た。
驚いて左手で頬を触ると濡れた感触がある。私は自分でも分からない内に泣いていた。
俯いて本格的に泣き出してしまった私の頭を師匠は泣き止むまで優しく撫でてくれていた。
「色々とご迷惑をおかけしました…それと、ご心配をお掛けしてすみませんでした…」
泣き出してから数分経ち何とか泣き止んだ私は師匠に心配を掛けてしまった事を謝る。
ぶっちゃけると心配してくれた事やこの世界に居場所が有った事が嬉しくて泣いた後なのでかなり気恥ずかしい。穴があったら入りたいって奴だ…
「いえ、貴女が泣くなんて初めて見たので何か驚きました。とても珍しい物を見た気分です」
「比較的早急に速やかに忘れてください」
「フフフ、これは当分忘れられそうも有りませんねぇ~」
すっかりいつもの感じに戻り私の事をからかって来る。てか、本音だからなのか心の声が見えない。
「それと、無理はしなければいけない時は有るかもしれませんが、命を粗末するような行動は絶対にしないって約束します」
「ええ、そうしてください。貴女の居場所になっている人達のためにも、あなた自身のためにも」
「はい」
う~ん、なんか今日の師匠は大人って感じだ。
「そろそろ…入っても…大丈夫?」
(いい加減待ちくたびれたわ…良い事を言っているのは分かったけどイクス話長い)
師匠と話しているとレイン先生がお盆を持ちながらべカーテンを開き中に入ってくる。
そういえばお茶を淹れるのに出て行ってかなり時間が経っていたけどひょっとしてずっとカーテンの外に居たんですか!?
「…レイン、ずっとそこに居たんですか?」
「ええ…貴方が…珍しく…熱血教師を…やっている…所から…ずっと…見ていたわ」
(本当に珍しい物を見られたわ。これは一生弄るネタに出来るわね)
「穴が有ったら入りたいですね…」
(なんという事でしょう。滅茶苦茶はずかしいです)
あ、師匠。穴が有ったら入りたいって気が合いますね。
「はい…お茶…」
「はぁ~、ありがとうございます。というか、冷めているじゃないですか…」
「長々と…話して…いるのが…悪い…」
(大体私だってまだゆっくり話してないのに狡い)
先生…本音が私には駄々洩れです…
そんな事を考えているとまた保健室のドアが叩かれ、リル達の声が聞こえてくる。
「すみません。コハクちゃんが起きたって聞いてきたんですけど」
「てか、何で保健室のドアに鍵が掛かってるんだよ?普通鍵なんて掛けないだろ?」
「何か理由が有ってドアの鍵を掛けているんじゃないかな?例えばコハクの健康診断をしているとか」
「とりあえず皆少し声のボリュームを落した方が良いと思う。保健室の前でそんなに騒がない方が良い」
外から皆の元気な声が聞こえてくる。皆無事そうで良かった。
ちなみにドアに鍵を掛けている理由はアラン君の言う通り身体検査が理由である。
「ちょっと…待っていて…今…開けるから…」
(今日は来客がいっぱいね)
先生が皆に声を掛けながら席を立つ
あれ?そういえば師匠はこの目の事を皆に秘密にしなさいって言っていたよね?この状況ヤバくね?私も皆の心の声とか見たくないし、見たら絶対変な行動を取る自信がある。何かいい手はないかな?
「師匠…この目不味くないですか?」
「あ~、確かに不味いですねぇ…とりあえず目隠しでもして隠しておきましょう。レインには隙を見て説明します」
そう言って師匠は近くに有った包帯を私の目に巻いていく。
「視界が不自由になりますが、我慢してくださいね。なるべく早く対策を考えますから」
包帯体を巻き終えた師匠に私は多少興奮して小声で答える。
「師匠‼この方法案外当たりかもです‼視界は奪われてないのに相手の心の声が見えなくなりました‼」
ついでにステータスも見えなくなりました。偶然にしてはラッキーだ。
てか、瞼を閉じるとちゃんと見えなくなるのに包帯巻いたぐらいだと普通に見えているなんて魔眼ってとことん変な目になったものだ…
「でも…パッと見は重傷患者ですねぇ…まぁ、仕方がないのでしばらくはそれで耐えてください」
とりあえずこの目の対策を終えたところで保健室のドアが開いて皆が保健室に入って来た。
「コハクちゃん‼大丈夫‼」
ドアが開いた瞬間そんな言葉と共にリルが飛び込んできて私に飛び付いてくる。
その後は皆が入って来て私は同級生にみっちりお説教されてしまった…
その隙に師匠はレイン先生に私の目の事を説明し、事情を理解した先生が私の目はまだ治療が完全では無いので暫らくはこのままだと説明してくれた。
後、二回ぐらいで学園編を終わらせて冒険者・魔王領編に入る予定なのでごゆるりとお待ちいただけたら幸いです。




