とりあえず帰ろうか?
おはようございます。
第298話投稿させて頂きます。
今回はコハク視点になります。
楽しんで頂けたら幸いです。
「ふぅ」
敵の息の根が完全に止まったのを確認してから私は息を一つ吐いて構えを解き、剣を下げる。
いや、元に戻ったばかりで厄災の相手はキツイって・・・。
隣を見ると狗神君も疲れた様子で武器を下している。
まぁ、彼に関しては私の記憶が戻るまで碌な武器も無いのにハナズオウを抑えてくれたのだから疲労は私以上だろう。
そう思いながらクロとネージュの所へと行こうとすると後ろから声が掛けられる。
「コハクさん‼狗神先輩‼」
声の方を向くと右手に白い長剣を握り、左手でネージュと手を繋いだクロが非常に複雑そうな顔をしながら近づいてくる。
―――さて、次は説明のお時間かぁ・・・ネージュと狗神君にも謝り倒さないといけないし・・・てか、向こうに戻ったら皆に土下座しなくちゃいけないんじゃないかな・・・
唐突にやらなければいけない事や迷惑をかけた人たちの事を思い出し、私は三人から見えない位置で少しだけ何とも言えない顔をしてから気持ちを入れ替えて黒羽とネージュに声を掛ける。
「ネージュ、クロ。二人もお疲れ様。大きな怪我は無い?」
二人ともパッと見では大きな怪我は無い様に見えるが念の為と思いポーションを用意しながら二人に問い掛けると私の声を聞いたネージュが泣きそうに顔を歪めながらクロの手を放して私へと駆け寄ってくる。
「あるじ‼」
涙声でそう言いながら私の腕の中に飛び込んでくるネージュを抱きしめ、私はゆっくりと口を開く。
「本当にあるじ?ネージュの事わかる?」
ギュッと抱き着きながらそう訊いてくるネージュを安心さる様に抱きしめている手に力を入れて私は安心させる様に口を開く。
「分かるよ。ちゃんと私だよネージュ。貴女にも辛い思いをさせちゃったね・・・本当にごめんね」
そう口にするとネージュは堪えていたのか声を上げて泣き出し、私は剣を仕舞って抱き上げながら立ち上がる。
私とネージュのやり取りが一段落したと今度はクロが意を決したような顔で私へと近づいてくる。
「お疲れ様。シ・・・コハクさん。単刀直入に訊くけど貴女は私の姉、白で間違いない?」
「はっ⁉」
クロの言葉に隣にいる狗神君が何故か驚いた様な声を上げるが私は情けない所を見られたバツの悪さをごまかす様に苦笑いを浮かべながら隠す事なく素直に答える。
「思っている通りだよ。久しぶりだね。黒羽」
「へっ⁉」
私が素直に黒羽に答えると狗神君が再び驚いた様子で声を上げる。
・・・彼は一体何に驚いているのかな?
そんな疑問を考えているとクロは嬉しそうな悲しそうな驚いた様な複雑な形相で口を開く。
「やっぱりお姉なんだね。記憶は思い出したみたいだし、お姉、色々聞きたい事はあるけどまずはこれから何でボロボロの状態で家の前に倒れていたの?」
「えっとね・・・ボロボロだったのはこっちに来る前にボロ負けしたからで・・・家の前に倒れていたのは私にも解らないかなぁ・・・」
クロの質問に私は目を逸らしながら歯切れ悪く答える。
私の様子を見てクロは少しだけ納得の行っていなさそうな目を向けて来る。
―――そんな目を向けられても私にも何で家の前で倒れていたのか何て分からないんだって・・・怪我が治っている理由も含めてね・・・
「じゃあ、最後に異世界に転生した後のお姉の事を教えて」
そう言ったクロに私はネージュの頭を撫でながらとりあえず次の行動に移る為の提案をする為に口を開く。
「OK、クロが聞きたいのなら私のこれまでの事を話して聞かせるよ。でも、とりあえず今は家に帰って休まない?多分、外は大騒ぎになっているし日も登っている頃じゃないかな?」
私がそう言うとクロは携帯電話をポケットから取り出し、時間を確認する。幸いな事にシロの物もクロの物も壊れてはいなかった。
「午前六時・・・」
時間を確認してクロは疲れた様に今の時間を口にする。
―――わぁ、知らない内にやっぱり夜が明けていた・・・そりゃ、疲れるし、お腹も空く訳だ・・・
そんな事を考えながら私は再び苦笑を浮かべて口を開く。
「私は逃げも隠れもしないし、ちゃんと話すからまずは家に帰ってご飯食べて休息を摂ろう?私の話は長くなるよ?」
私がそう畳みかけるとクロはゆっくりと首を縦に振る。
恐らく、私に言われて空腹と疲れが一気に押し寄せてきたのだろう。
その姿を確認して未だに原因不明の理由で固まっている狗神君に声を掛けてこのダンジョンの出口を眼で探して外へと出る。
そのまま一時間程、出口に向けて歩き数時間ぶりに外の光景を見て私は思わず声を上げる。
「うわぁ、やっぱり騒ぎになってる・・・」
外では恐らく私達を探す為に大勢の人達が大きな声で誰かいないかと言っている。
「見つかると面倒だし、捜索してくれている人達には申し訳ないけど観覧車のゴンドラに乗っていた四名は行方不明という事にしてもらおう・・・」
数年後にはある夏の日の不思議な出来事になっているでしょう・・・そんな不謹慎な言葉を口の奥で嚙み潰してから私はネージュに向けて声を掛ける。
「ネージュ、疲れている所申し訳ないけどもうひと仕事だけしてくれないかな?私達を家まで乗せてくれる?」
「うん‼わかった‼」
私の言葉にネージュは嬉しそうに頷くと龍の姿へと戻る。
「クロ、狗神君。乗って」
ネージュに専用の鞍を着け、クロ達に乗る様に促す。
「ちょ・・・お姉。これじゃあ、目立ちすぎるよ。狗神先輩も何で直ぐに乗ってるの⁉」
私の言葉に難色を示すクロに私はネージュから一度降り、クロの手を引きながら答える。
「魔法で姿を消して飛ぶから大丈夫だよ。狗神君はもう慣れてるからね。あ、あと一応これを着ておいて」
そう言って三人分の防寒着をアイテムボックスから引っ張り出して着込む。
正直、夏場にこの格好はくそ暑いさっさと空の上に行った方が正解かも・・・
「オクタ・バニッシュ」
光の魔法でネージュ事姿を消してそれと同時にネージュに指示を出して地面から飛び立つ。
ネージュが飛び立つのとほぼ同じタイミングで後ろから何かが崩れていくような音が響き、後ろを向くと私達が逃げ込んだ洞窟が役目を終えたのか音を立てて潰れていく。
その音を聞きながら私達は長い夜を終えて帰路へと就いた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




