会いたかった人
あけましておめでとうございます今年もよろしくお願いします。
第295話投稿させて頂きます。
今回は黒羽視点になります。
楽しんで頂けたら幸いです。
「黒羽さん。約束。覚えていてね」
いつも見せてくれる様な笑み浮かべて私にそう言ってシロちゃんは黒い剣の柄を掴む。
シロちゃんが黒い剣を掴んだ瞬間に先程の白い剣とは違い直ぐにシロちゃんに変化が現れる。
「シロちゃん‼」
黒い剣の柄を掴んだ途端、シロちゃんの体から力が抜けてシロちゃんは地面に両膝を着く。
驚いて声をかけても反応は無く、挙句の果てに私の声で先輩と戦っていた化け物が此方の異変に気が付き、此方を向くがシロちゃんは私の声にも化け物にも反応しない。
「っ‼コイツ‼行かせるか‼」
狗神先輩が化け物の様子を見て鉄パイプを化け物へと叩きつけるが大剣で受け止められてそのまま大剣を振られて狗神先輩は吹き飛ばされて壁に叩きつけられてしまう。
狗神先輩が壁に叩きつけられたのを確認した化け物が二つの顔をニヤリと歪めて笑い私達の方へと向かって来る。
『ヤアアアアアアアア‼』
恐怖で動けないでいるとネージュちゃんの声がして小さな影が化け物へと蹴りを繰り出す。
不意打ちで放たれたネージュちゃんの蹴りを受け、化け物は数歩後ろに後退したが煩わしそうに払退ける様とするがネージュちゃんは化け物の手が当たる寸前の所で後ろに跳んで除けて何かを口にする。
『オルト・トゥレ・フロウェロー』
ネージュちゃんが何かを口にした瞬間に彼女の周りに氷で出来た矢が生成されて化け物に向かって飛んで行く。
化け物は氷の矢に当たるのを嫌ったのか大剣で矢を薙ぎ払い、その風圧でネージュちゃんが吹き飛ばされ先輩と同じ様に壁に叩きつけられてしまう。
「狗神先輩‼ネージュちゃん‼」
二人を心配して声を上げると私の声に反応してくれたのか二人が少しだけ体を動かし、二人とも生きている事が分かり安堵の息を吐く。
そんな事をしている間にも化け物は私の恐怖を煽る為かわざとの様にゆっくりと歩いて来る。
自分の邪魔をする者が居なくなったのが分かったのか二つ有る顔にニヤニヤと笑みを浮かべながら近づいて来る。
その姿を見て私は咄嗟に白い方の剣の柄を握り、地面から引き抜く為に力を込めて上へと引っ張ると白い剣はシロちゃんが抜こうとしていた時とは違いあっさりと地面から抜ける。
拍子抜けする程あっさりと抜けてしまった剣に少しだけバランスを崩しながらも何とか倒れずに剣先を化け物に向け、睨みながら化け物に向けて口を開く。
「それ以上こっちに来ないで!」
昔少しだけ姉と一緒に剣道をやっていた事は有るが離れてしまってから時間が経っている事も有り、中途半端な構えと私が恐怖から震えてしまい剣先が震えている事を見て脅威にはならないと判断されたのか化け物は歩みを止める事無く私達に近づいて来る。
「嘗めるなぁ‼」
その姿に少しだけ腹が立ち私は恐怖を振り払う様に大きな声を上げて剣を振り被り相手へと切り掛かるがあっさりと剣を受け止められ、そのまま剣ごと腕を掴まれて持ち上げられてしまう。
持ち上げられたまま何とか逃げ出そうと暴れるが腹立たしい事に相手の手は私の手を握ったままびくともせず化け物は空いている方の手で握っている大剣を振り被る。
「・・・助けて・・・お姉・・・」
数秒後に自分に向けて振るわれる大剣に恐怖から目を閉じて姉に助けを求めてしまう
「宮城さん‼」
「くろは‼」
遠くで狗神先輩とネージュちゃんが私の名前を叫ぶように呼ぶのが聞こえるがそれと同時に大剣の風切り音が迫ってくる。
「私の妹から離れろ」
恐怖に歯を食いしばっていると近くで静かにそう言う声が聞こえてきたかと思うと唐突に何か大きな物が衝突するような音と共に拘束されていた腕が解放されて体が宙に浮く感覚と共に地面へと引っ張られる。
地面に叩きつけられる痛みを覚悟していると誰かが私の事を受け止めてくれる。
恐る恐る目を開くと至近距離でシロちゃんの顔が見える。
「シロちゃん・・・?」
恐る恐る彼女に声を掛けると彼女は何時もと変わらない優しい笑みを浮かべたまま口を開く。
「クロ、ありがとう。もう安心して良いよ」
彼女が喋った事によって私は彼女がシロちゃんではないと確信してしまう。
笑みはシロちゃんと一緒だが言葉使いと雰囲気が異なる。
その事に寂しさと悲しさを感じながら私は先ほど彼女の口にした事について聞く為に口を開く。
「貴女が・・・コハク?さっき言っていた事ってどういう・・・?」
私が彼女にそう問い掛けるとコハクは少しだけ困った様に笑い口を開く。
「クロ、その事は後で話そう。今はあいつを倒して皆で生きてここを出る」
そういうと彼女は表情を引き締めて正面を見る。
彼女の視線を追って私も正面を見ると恐らく遠くに蹴り飛ばされたのか化け物が二つの顔を怒りに顔を歪ませて立ち上がる。
コハクはその姿をどこか冷めた目で見ながらポツリと言葉を漏らす。
「あの女に良いように利用されて哀れだな、ハナズオウ。だが、好き勝手に暴れた代償は取って貰うぞ」
私に話しかけてくれた時とは違いどこか冷たい声音でそう言うと剣に掛かっていた赤い液体の入った瓶を右手で握り、左手で持つ剣を密閉されている瓶の口先に当て瓶の口を切り飛ばす。
そして明らかに体に悪そうなその液体を彼女は躊躇無く一気に飲み干す。
「うっ・・・」
中身を飲み干すと彼女は少しだけ苦しそうに呻き声を上げて胸を押さえる。
それと同時に綺麗な茶色の髪が毛先から徐々に光沢の有る銀色に変わっていく。
髪の毛が全て銀色に変わると彼女は姿勢を正して黒い剣を構える。
「私の大切な人達に手を出した事をしっかり後悔させてやる」
そう言ってアメシストと同じ色の二つの瞳に強い光を宿してコハクは銀の髪を靡かせて走り出した。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




