オリジンとの話
おはようございます。
第294話投稿させて頂きます。
今回は第三者視点になります。
楽しんで頂けたら幸いです。
ザザーと波の音が聞こえて来る砂浜に足元の覚束ない鎧姿の人影が一つ。
ゆっくりとした足取りでシロ達が戦っていた場所から離れ、そこで力尽きた様に倒れ込む。
それと同時に鎧の外装が足から徐々に解かれていき、シロと同じ青いロングスカートに白いブラウスを着た銀の髪の少女が姿を現す。
鎧が消えると少女の近くには二振りの長剣が近くに寄り添うように落ちる。
「うっ・・・」
少女がゆっくりと目を開き、苦し気に呻き声を上げるのとほぼ同時に誰かが砂を踏む音が響き、少女の近くで止まると少女に向けて声を掛ける。
「お帰りコハク。目覚めはどうかな?」
その問いかけに自身と同じ顔をした少女を少しだけ睨む様に見てからコハクはゆっくりと身を起して少女の質問に答える。
「最悪だよ・・・オリジン」
自身の足で立ち上がり、コハクは二振りの長剣を大切そうに拾い上げる
「あれぇ!?戻った途端に呼び捨て!?可愛く無い‼」
シロとは違うコハクの態度にオリジンがショックを受けた様に仰け反るのをコハクは剣を持ち直しながら呆れ様に口を開く。
「どうせ偽名でしょう。そもそも、あの子達を戦わせる様に仕組んだ貴女に敬語を使う気なんて起きない」
「酷い‼分離をした貴女を手っ取り早く戻す為に煽っただけなのに・・・よよよよよ」
口でよよよよよというオリジンにコハクは憮然とした顔で口を開く。
「口で泣きまねすんな」
シロの時とは違いフランクな様子で接して来てとうとう砂浜に人差し指で『の』の字を書き始めたオリジンにコハクは溜息を一つ吐き、ギャグに引っ張られそうな空気を変えるべく再び口を開く。
「初代黄昏の魔王。セフィド・クラリス・トワイライト」
コハクの口にした名を聞いていじけていたオリジンの動きがピタリと止まる。
「へぇ・・・貴女は私の正体が分かってたんだ」
先程までのふざけた様子を一変させて立ち上がり、オリジンはコハクの顔をしっかりと見てほほ笑む。
「過去に城に有った歴代魔王が記されている魔法書を読んで顔と名前を全員覚えたからね。それで?貴女に幾つか訊きたい事が有るのだけど答えて貰える?」
「良いよ。答えてあげられる事ならここに来たご褒美に答えてあげる」
コハクの問いにオリジンはあっさりと答える。
「まずは一つ目。どこまでが貴女の書いたシナリオだったの?」
「ここまでのほぼ全部。貴女が魔王になった事も正の感情と負の感情に分かれた事まで全部。現運命の女神である。私の書いたシナリオだよ」
先程の情けない姿が嘘の様に綺麗な笑顔を向けてくるオリジンにコハクは表情を変えずに言葉を続ける。
「二つ目。さっき言っていた様に私が二つに分かれた理由は?」
「え?私が女神ってところスルー?シロと違って塩対応過ぎない!?それは主にエリスが貴女に使った《アムネシア》の所為だね。あれを解呪するのに一度貴女という人格が消える必要があったんだよね。まぁ、分離された正の感情が負の感情よりも弱すぎた時には焦ったけど貴女が本能で肉体の方に送ってくれて助かったんだけどね。それ以外にも負の感情の方に恋心とかが残ったのも想定外だったねぇ」
「三つ目、この剣で刺さなければいけなかった理由は?」
「その剣は元々私の愛剣だよ。貴女が望んだ専用武器だね。剣の名は《アメノミナカヌシ》。その剣のスキルにクラスペディアの花護という物が有るんだ。能力の一つは心の扉を叩く事。その能力の一端を使ってあの子達を統合させたっていう事。でも、負の感情の方は想定外に残った恋心に振り回されて暴走状態で話が通じなかったからお互いに戦わせるのが一番手っ取り早かったのよ。でも、シロが負の感情の状態に気が付いて双方合意の上で人格が統合されたのは少し驚いたけどね」
そこまで聞いてコハクは一つ息を吐く。
「まだ訊きたい事は沢山有るけど皆が心配だから最後の質問。私が今の生を受けた際に
何であの家に生まれたの?」
コハクがした最後の質問にオリジンはクスリと笑い、笑みを作って答える。
「それは簡単な答えだよ。貴女は知っていると思うけど歴代魔王の中には同じ顔をしてい
る者が何人も居る。その全てが同じ魂でこの世界と向こうの世界を行き来して輪廻転生を繰り返し、あの忌々しい化け物へと身を堕とした私の肉体を消し去る為に私が用意をした私の魂の半分だ。そして、私は自分の魂の半分にあの世界では私と血縁の関係の有る所へと生まれるように魔法を掛けた。要は貴女の家族を含めて皆、私の親戚なんだよ。さ、そろそろ現実に戻る時間だよ。私にまだ質問が有るのならまた私の所へおいでその剣が有れば私の所へは簡単に来られるよ」
そう言ってオリジンが手を叩くと何処からか白い扉が現れる。
「その扉をくぐったらすぐに肉体に戻るよ。肉体に戻ったら《アメノミナカヌシ》に括り付けて有った瓶の中に入ってる私の血を飲みなさい。分離した際に失った魔王としての力を取り戻せるわ」
「かなり古いものでしょう?口にして大丈夫なの?そもそも血でしょう?」
シロの記憶の中に有った瓶に中身が血だと聞いてあからさまいやそうな顔をするコハクにオリジンは心外そうな顔をして答える。
「失礼な‼私は血の病気なんて持ってないし、瓶だって魔法が施された特殊な物だから中身は何年経っても新鮮そのものだよ‼第一に力を取り戻すにはもう一度魔王の血を摂取するしかないのだからしょうがないでしょう」
「はぁ、次に来た時にはその事も含めて質問させてもらうから・・・」
憤慨するオリジンにコハクは溜息を吐いてそういうと扉をくぐろうと歩き出す。
「あ、ちょっと待って最後にもう一つ」
そう言って扉をくぐろうとするコハクに近づき、内緒話をする様に何かを呟く。
オリジンから何かを聞いたコハクは驚いた顔でオリジンを見ると問い掛ける。
「それを信用して実行しろと?」
「信じる信じないは貴女次第だけど確実に皆を助けたいのならやってみなさいな。じゃあね。次に会える時を楽しみにしているよ」
そういうとオリジンはコハクの背を押して扉の向こうへ押しやった。
此処までの読了ありがとうございました。
次回、1/5は投稿をお休みさせて頂きます。投稿の再開は1/12になります。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




