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わたしと一緒に・・・

おはようございます。

第293話投稿させて頂きます。

今回もシロ視点になります。

楽しんで頂けたら幸いです。

「シネ‼」

「っ‼」


 鎧の様な物を装着し、くぐもった声でそう叫んだ彼女が先程とは比べられないような速さで再びわたしの前から姿を消し、わたしは後ろから蹴り飛ばされ蹴鞠の様に地面に転がる。

 コハクの記憶からこのまま倒れているのは危険だと判断して慌てて自分が倒れた場所から離れると先程までわたしの居た場所に相手が左腕の爪を突き立て砂煙が舞う。

 あのまま倒れていたら確実にわたしの頭を叩き潰していた一撃を放った相手は間髪を入れずにわたしの方にまるで獣の様な動きで駆け出して来てわたしの方へと迫ってくるのを今度は剣で何とか受け流して相手と距離を取る。


「イマイマシイ‼」

(寂しい・・・)

「?」


 わたしに攻撃を受け流された相手は聞き取り難い声で怒り狂う彼女の言葉を聞いていると不意に左目に誰かが寂しいと言っているのが映る。

 自分の左目が訳の分からない力を持っている事は知っているがわたしと目の前の相手しかいない状態で突然に誰も思わなそうな声が見えてしまいわたしは少しだけ混乱してしまう。

 そのわたしの混乱が相手にも伝わったのか彼女は再びわたしに急接近してきて鋭利な爪の付いた左腕を振り下ろしてくる。


「‼」


 混乱してしまった所為で反応が遅れてしまい今度は受け流すのでは無く両手で剣を持って横にして相手の攻撃を防ぐ。


「くっ・・・」


 ギリギリの所で剣を盾に防ぐ事に成功したが爪を受け止めたまま立っていた場所から押し込まれる。


「ハラタダシイ・・・オマエテイドニココマデフセガレルナンテ・・・・」

(悲しい・・・)

「‼」


 彼女が近くで言葉を発し、その拍子に左目が彼女の心境を捉えて先程の声が誰の物だったのかに気が付いて驚き、再びわたしの動きが少しだけ止まり受け止めていた爪が少し押し込まれる。


「えい‼」


 押し込まれている状態から剣を押してギリギリと音を発しながら火花を散らしている爪と剣を無理矢理に引き離し、少し体制を崩した相手に向けて剣を振るうが相手は流石にわたしよりも戦闘慣れしている為、余裕を持って全て避けられてしまう。

 一時的に十分な距離を作る事が出来た為、わたしは目の前の彼女の心の声について考える。


(彼女は何に対して寂しいとか悲しいと言っているの?誰に会いたいの?それにわたしに怒りの感情が有った事に驚いていたのは何で・・・?それに、オリジンさんは、コハクはわたしを捨てたと言っていたけど彼女はわたしがコハクのなりたかった姿で彼女が捨てられたモノだと言っていた)


 彼女がわたしに言っていた事とオリジンさんの話の違いに内心で首を傾げながら剣を構えて今度はわたしから彼女に向けて切り掛かる。

 再び今度はこちらが押し込む形で鍔迫り合いに持って行きわたしは彼女の真意をもっと知る為に声を掛ける。


「お願い。貴女の事を教えて。貴女は何が寂しくて悲しいの?」


 わたしが彼女ストレートな質問をぶつけてみると彼女から先程よりも強い怒りと殺意が溢れ出し、くぐもった怒鳴り声が漏れる


「ダマレ‼ソノメデキヤスクワタシノココロヲノゾコウトスルナ!ソウカンタンニワタシノムネノウチナドカタッテタマルカ‼」

(一人は寂しい・・・悲しい・・・彼に会いたい・・・何でワタシにこの気持ちだけ残したの?ワタシは皆と一緒に居られないの?)


 口で言っている事と違い。今の姿だと感情の制御が出来ないのか彼女の心の声が左目を通して伝わって来る。

 彼女が誰に会いたいと言っているのかも彼女の言っている(狗神さん)の顔が浮かび上がり、内心で驚くのと同時に何故か気恥ずかしくなる。

 それと同時にわたしの頭には一つの疑問が浮かび上がる


 ———ひょっとしてわたしも彼女も本当は二人に分かれるはずじゃなかった・・・?


 オリジンさんの言葉と彼女の言葉と心の声で言っていた事などからそんな事を考える。

 恐らく、わたしをここから出した時に見た鎧の女性はまだコハクだったのだろう。だけど、意図せず分離したわたしをここから出した事でコハクにも何かしらの変異が起き、彼女が生まれここに取り残された事で自分が捨てられた感情だと思ったのではないだろうか?

 オリジンさんの話によるとわたしは黒羽さんに『シロ』という名前を貰ったから存在している事が出来ると言っていた。でも、彼女は見たところ名前が無いみたいだが私と違ってその存在は安定して居る様に見える。予測だがわたしが肉体の方に戻されたのも彼女が言う様に理想の自分だからではなく心の隅に捨てたが消えたら困る存在に名前を与えて安定させる為だったのではないだろうか?

 恐らく、わたしが死んでも彼女が死んでもコハクが戻って来る事は無いのだろう。だからオリジンさんは殺すではなく刺して弱らせてから融合しろと言ったのだろう。

 まぁ、恐この剣に何かあるのだろうが・・・厄介な事にわたしにはこの剣に何の力が有るのかは分からない。

 彼女を刺してそれでお終いでは無いのではないかと考えてわたしは一つの決心をする。


 ———まずは彼女に落ち着いて貰わないといけない・・・痛いかな・・・痛いだろうなぁ・・・でも、彼女を落ち着かせるにはこれしか考えつかない。皆を守る為に・・・何より彼女と一緒に皆に会う為に怖がってなんていられない


 一瞬、これから受けるであろう痛みに尻込みしそうになるが何とか自分を奮い立たせる。

 考え事をしていた為に再び彼女から蹴り飛ばされ、距離を開けられる。


「モウアキタ‼イイカゲンキエロ‼」


 彼女が思っていた以上に戦闘が長引いている事に痺れを切らしたのか彼女はそう叫ぶと再びわたしの前から姿を消し、勝負を付けに掛かる。

 一回目と二回目の時を思い出し、わたしは直ぐに後ろを向いて予想通りに彼女を視界に捉える。

 わたしが後ろを向いて反応してきた事に彼女も驚いたような様子が見えるが彼女は躊躇無く左腕の爪で突きを放ってくるのをわたしは迎撃もせずに両手を広げて迎える。

 その光景に彼女は更に驚いた様子を見せるが放たれた攻撃を止める事は出来ずにその鋭い爪がわたしの腹部を深々と突き刺すのと同時にわたしは痛みに気を失いそうになるのを何とか耐えて広げていた腕を彼女の体に回して抱きしめる様に彼女を捕まえる。


「ナニヲカンガエテイル?ナゼハンゲキヲシナカッタ?」


 心底戸惑っているような声音でそう問い掛ける彼女にわたしは口から血を吐き出しながら彼女の質問を無視して答える。


「皆を助ける為に貴女の力が必要なの」

「コタエニナッテイナイ。ワタシノチカラガヒツヨウナラバクダシテキュウシュウスレバイイ・・・」


 心底分からないといった様子でそういう彼女にわたしは苦笑を浮かべて口を開く。


「だって・・・それじゃあ、わたしも貴女も幸せにはなれないじゃない・・・それに寂しい。悲しいって泣いている人をわたしはそのままにしたくないよ・・・」


 無理矢理に体を離そうとして来る彼女を腕に力を込めて離れられない様にして言葉を続ける。


「貴女と無理矢理に融合して一つに戻ってもきっと元には戻れない。貴女が寂しいというのならわたしが一緒に居るよ」


 わたしが彼女に向かってそう言うと逃れようと力を込めていた体からゆっくりと力が抜け、ポツリと声を掛けて来る。


「ホントウニ?スベテヲステテホントウニワタシトイッショニイテクレルノ?」


 先程までの怒りや憎しみのこもった声音ではなく何処か怯える様に泣きそうにそう聞いてくる彼女にわたしは笑みを浮かべて頷き、口を開く。


「もちろん。だから、またわたしと一緒に旅をしましょう?」

「ウン・・・」


 わたしの言っている事の意味を理解したのか彼女は小さく頷くと体から力が抜けていく。

 その様子を見てわたしは彼女の体から手を放し、片手に持っている剣を両手に持ち帰ると刃を自分達に向ける様に持ち直して自分達の体を貫いた。

此処までの読了ありがとうございました。

次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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