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お別れ

おはようございます。

第290話投稿させて頂きます。

今回は第三者視点になります。

楽しんで頂けたら幸いです。

 上の洞窟よりも不思議な光る苔のお陰で少しだけ明るい道を黒羽はシロに手を引かれて歩く。

 狭く何かが飛び出してきそうな角を恐る恐る確認し、何も居ない事に安堵の息を吐きながらも二人は上への道を探して角を曲がる。

 シロに抱き抱えられながら落ちた穴は落ちて直ぐに滑り台の様になっており、幸いな事に三人に大きな怪我は無かったが落ちてきた道は直ぐに消えてしまい三人は出口を探して歩き回る。


「ふ~」


 歩き通しだった事と極度の緊張の為にシロが息を吐くとネージュが心配そうにシロに問い掛ける。


『ルシェ?ドルイル?(あるじ?疲れた?)』

『ルー、レイシェ(ううん、大丈夫だよ)』


 自分の知らない世界の言葉でシロとネージュの二人は短い会話をしてその後は三人で黙々と代わり映えのしない道を歩く。

 そんな時間がしばらく続き、黒羽は今の様な状況でする話ではないと思いながらも意を決してシロへと問いかける。


「シロちゃん。さっきの話の続き、しても良いかな?」

「・・・良いですよ」


 黒羽の言葉にシロは少しだけ考えた様子を見せてから黒羽の言葉に頷く。

 話題を拒否されなかった事に内心でホッとしながら黒羽は先程、この可笑しな洞窟の入り口で聞けなかった問いを口にする


「さっき、狗神先輩に怖くないのかって訊かれて怖いって答えたのに何で記憶が戻る事を・・・消えちゃうかもしれない事を何で素直に受け入れちゃうの?」


 黒羽はシロと繋いでいる手に少しだけ力を入れて問い掛けるとシロも少しだけ強く黒羽の手を握り返しながら穏やかな声音で答える。


「多分、本能なんですかね・・・狗神さんに話を聞いてからわたしは『コハク』に戻らなければいけないと言っている気がするんです」

「シロちゃんは本当にそれでいいの?」


 意思ではなく本能で記憶を戻す事を望むシロに黒羽がそう問い掛けるとシロは苦笑を浮かべながら口を開く。


「きっと良くは無いんでしょうね。でも、きっと『わたし(シロ)』では駄目なんです。今のこの状況も元の世界だというところの問題もわたしでは解決できない」


 少しだけ悔しそうな顔をしてそういうシロに何も言えずにいるとシロはそのまま言葉を続ける。


「それにわたしと言う人格が元々の『コハク』という人格に統合されるだけです。恐らく、黒羽さんの事は忘れませんよ。ただ、それでもわたしの事を思ってくれるのなら・・・」


 そこまで言い、言葉を切ってシロは足を止め、黒羽の目を見ながら続きを口にする。


「黒羽さんがわたし(シロ)を憶えておいてください」

「・・・うん。約束する」


 そう言って無理に笑みを浮かべるシロに黒羽は素直に頷く。

 その顔を見てシロは安心した様に前を向き、先程よりも些か明るい声音で話を続ける。


「まぁ、狗神さんの話を聞く限り、ある日突然私が消える確率は低そうなんですけどね。恐らくですけどわたしが夢で探せと言われた『剣』が必要なんでしょうし」


 そんな会話を最後にまた無言で洞窟内を進むと今までと違い開けた空間に出る。


「すごい・・・何ここ?」

「あれは何でしょうか?」


 キラキラと光る鉱物が壁一面を覆いつくす空間に驚き、周囲を見渡していると空間の奥に何かが二本刺さっているのが見える。

 警戒しながら地面に刺さっている何かに近づくと次第にその何かが明確になってくる。


「・・・剣」


 地面に刺さっている白色と黒色の二本の剣を見て黒羽は複雑な心境でシロと剣を見る。


「思ったより。早く見つかってしまいましたね・・・」


 剣を見てシロも寂しそうにするが迷う事無く、赤い液体の入った瓶の下がった黒い剣ではなく白い剣に向けて手を伸ばそうとする。


「待って!シロちゃん‼」


 手を伸ばすシロを黒羽は慌てて止める。


「どうしました?」


 首を傾げるシロに黒羽は少しだけムッとしながら口を開く。


「その剣を触ったら記憶が戻るかもしれないんでしょう・・・」


 我儘を言っている状況ではないと分かっていながらもそう言うとシロは少しだけ笑みを浮かべて笑う。


「そうでしたね・・・でも、狗神さんが一人で戦っています。もし、これで『コハク』が戻って来るのなら迷っている時間はありません」


 そう言って白い剣の柄に手を伸ばし、引き抜こうとする。


「?」

「シロちゃん?大丈夫?」


 白い剣の柄を握って不思議そうな顔をするシロを見て黒羽も不思議そうな顔をして問い掛けるとシロは少しだけ気まずそうな顔で口を開く。


「何ともありませんね・・・しかもこの白い剣全然動かないです・・・」


 目の前の剣は探していたものでは無いのかと二人で首を傾げて黒い方の剣に触れようとすると三人の近くを何かがすごい速さで吹き飛んで来る。


「ぐっ・・・」


 驚いて目を向けると化け物と戦っていた和登が体の彼方此方に傷を付けながら壁に叩きつけられてうめき声を漏らしている。


「先輩!?大丈夫ですか!?」

「狗神さん‼」

『ワト‼』


 見た目で大丈夫そうではないと思いながらも三人は和登へと駆け寄る。

 切り傷や打撲の痕は酷いが骨や致命的な傷が無い事に三人でホッと息を吐いていると後ろから地面を踏み締める音が聞こえてくる。

 振り向くと二つの顔にニタニタと笑みを浮かべた化け物が姿を現す。


「くそ・・・三人とも逃げろ・・・」


 倒れていた和登が不思議な空間から小瓶を取り出し、中身を煽って無理矢理に起き上がり、先程と同じ空間から鉄パイプを取り出して化け物に殴りかかる。


「シロちゃん‼行こう‼」


 化け物に向かっていく和登を見ながら今度は黒羽がシロの手を引いて逃げようとするがシロはその場から動こうとしない。

 シロの方を見るとシロの視線は戦っている化け物と和登ではなく黒い剣に向けられている。

 そんなシロを心配してみているとシロはそんな黒羽に目を向けずに握っていた手をするりと抜けて黒い剣の方へと向かっていく

 黒い剣の前に立つとシロは黒羽の方を振り返りにこりと顔に笑みを浮かべる。


「黒羽さん。約束。覚えていてね」


 そう言うとシロは黒羽が何かを言う前に黒い剣の柄を掴んだ。

此処までの読了ありがとうございました。

すみません。次回以降の更新なのですがパソコンが壊れてしまったのと私の個人的な用事で今月の更新は今日で終わりになります。

更新再開は12/1の予定です。

次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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