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山奥の洞窟

おはようございます。

第288話投稿させて頂きます。

今回は黒羽視点になります。

楽しんで頂けたら幸いです。

「うっ・・・」


 ぼんやりと意識が覚醒して暗闇から戻ってくるとわたしの体全体に痛みが走り、うめき声が漏れる。

 体の痛みにどこかが折れているのかと思い目を開けて確認するとガラスで切ったのか切り傷や打ち身の痕は有るが幸いな事に起きた出来事に比べれば軽症で済んだ様だ。


「黒羽さん・・・大丈夫?狗神さん、ネージュちゃん・・・どこ?」


 自分の体が痛みは有るが何とか動く事を確認してから近くでわたしと同じ様に倒れていた黒羽さんも切り傷などは有るが気絶しているだけで無事な事を確認し、この場に居ない狗神さんとネージュちゃんを暗闇の中、目を凝らして探す。わたし達が椅子の上に寝かされていた所を見ると狗神さん達は先に目が覚めたようだ。

 先程、観覧車で皆さんと見た化け物が追い掛けて来て周囲に居るかもしれないと思い、恐々と周囲を見渡しているとガサガサと音が聞こえて来て身を固くしていると明かりと共に安心する声が聞こえて来る。


『あるじ‼』

「シロさん。良かった目が覚めたんだね」


 私が起きたのを見て小さく嬉しそうに声を上げて私の腕の中に飛び込んで来るネージュちゃんとフワフワと浮かぶ光る球体を伴って右手に剣を持った狗神さんが森の中から現れるのを見てわたしは安堵のため息を吐き、二人に状況を確認する。


「ネージュちゃん。狗神さん。お二人も無事だったんですね。一体何が・・・」


 わたしの声は大きくなかったがそこまで言った所で狗神さんが指を口の前まで持って来てジェスチャーで静かにと伝えて来る。

 あの化け物が近くに居るのかもしれないと思い頷いて承知の意を示すと狗神さんが近づいて来てわたしの声よりさらに小声で喋る。


「詳しい事は後で、あいつも近くにいるみたいだから少し行った所に洞窟があるからそこまで移動しよう。申し訳ないけど宮城さんをお願いできるかい?」


 やはり化け物は近くにいたらしく、狗神さんの言葉に頷いてネージュちゃんに手伝って貰いながら黒羽さんを背負い狗神さんの後を付いていく。

 前方に狗神さん、後方にネージュちゃん、真ん中にわたしという順で森の中を進むと観覧車のゴンドラが有った場所からしばらく歩くと大きな洞窟が目の前に現れる。


「とりあえず、中に入ろう。一応、安全は確認して有る。ネージュ、宮城さんを寝かせる為にこれを下に敷いてあげて」


 狗神さんに促されて中に入る途中でネージュちゃんが脇をすり抜けて何処から持って来たのか大きな布を洞窟に敷く。

 ネージュちゃんが敷いてくれた布に黒羽さんを寝かせてわたしも地べたに座って一息つく。


「とりあえず、朝になるまで待ってから山を下りよう」


 そう言いながら中央に浮いていた光の球を移動させてわたしの向かい側に狗神さんも腰を下ろす。


「でも、さっきの化け物が近くにいるんですよね?」


 狗神さんの言葉に悠長にしていても大丈夫なのかと問いかけてみると彼は顔に苦笑を浮かべながら口を開く。


「この暗闇の中を無暗に気を失っている人を連れて下りるのは危険すぎるからね。あいつから奇襲される可能性も高くなるし、今は朝になるのを待つ方が得策なんだ。万が一あいつが来たら俺があいつを引き付けるから安心してくれ。ネージュ、その時はシロさんと宮城さんを連れて本来の姿で飛んで逃げてくれ」

『・・・あい』


 狗神さんの説明に私は頷き、わたしの膝の上に座っているネージュちゃんは何処か嫌そうな雰囲気で返事をする。


「アレは何なんですか?」


 あの化け物事を知って居そうな狗神さんに先程の化け物の事を訊ねると彼は今度は顔を顰めながら「恐らくだが・・・」と前置きを口にしてから答えてくれる。


「俺達が行っていた君の世界の魔物で多分、厄災と呼ばれていた類のモノだと思う。何でこっちにアイツが居るのかは分からないけど此処で潰しとかないとこっちの世界までやばい事になる。無事に朝を迎えて二人を下山させたら俺は奴の討伐に戻るよ」

「・・・勝てるんですか?」

「多分、相打ちに持ち込めたら良い方じゃないかな。二人の荷物は回収して有るから下山したら渡すよ」


 狗神さんの言葉に思わず大きな声を上げそうになるのを狗神さんに止められる。

 この話はこれで終わりといった雰囲気の彼にわたしは別の質問を投げかける。


「そうだ。狗神さん。『けん』について何か心当たりって有りませんか?」


 最初に見ていた夢で言われた事を思い出して狗神さんにも夢の中の男の人に言われた『けん』について訊いてみると彼は顔を顰めて口を開く。


「けん?以前の君から連想出来るものなら剣、(つるぎ)の事だな・・・それがどうかしたのか?」


 首を傾げながら心当たりを教えてくれた狗神さんにわたしは今更ながら当てにならない話だと思いながら素直に答える。


「お恥ずかしい話なんですけど・・・わたしの夢の中である人にまずは剣を探しなさいと言われたんです。場所も分からないし、夢の中の事なので当てにはならないのですが・・・記憶を取り戻すのに何か役に立つかもしれないと思って・・・」


 そこまで言った所で話が途切れてしまい、わたしはこんな時に夢の中の話なんてするんじゃなかった。狗神さんに呆れられてしまったんじゃないかと不安に思っていると彼は何かを考える仕草をしてから訊き難そうに私の事を見て口を開く。


「俺からも一ついいかな?答えたくなければ答え無くて良いから」

「・・・どうぞ」


 唐突だとも思ったが聞いてばかりも悪いと思って答えると狗神さんは一つ頷いて口を開く。


「今、ここで訊く事ではないのかもしれないけど記憶が戻ったら君は消えてしまうかもしれないのに怖くないのか?」

「怖いですよ」

「じゃあ、なんで・・・?」


 訊き難そうにわたしが記憶を取り戻す事について訊いて来る狗神さんに素直に怖いと答えると彼は、悲しそうな顔をしてわたしに再び問い掛けて来る。

 わたしは少しだけ考えてからなるべく悲愴的にならない様に顔に笑みを張り付けて答え様とすると第三者の声が割って入る。


「・・・今のどういう事ですか?」


 驚いて狗神さんと二人で声の方を向くと体が痛むのか黒羽さんが顔を顰めながら体を起こしてわたし達を見ている。


「黒羽さん‼大丈夫ですか?」


 小声で黒羽さんを心配しながらネージュちゃんに膝の上から降りて貰って近寄ると彼女は離さないという様にわたしの手を掴みながら口を開く。


「大丈夫。それでシロちゃん。さっきの話はどういう事?」

「ちゃんと話しますから少し落ち着いてください」


 先程の狗神さんと話を聞かれていたのかわたしの人格が消えるという事について問い詰める彼女を落ち着かせ様と声を掛けるが黒羽さんはわたしの手を掴んだまま泣きそうな顔でわたしの言葉を待っている。

 その顔を見てわたしは息を深く吸って本当は観覧車で話そうと思っていた事を口にする。


「まだ、確定ではない事ですけど一番高い可能性の話です。元の記憶が戻ったら恐らくですけど『わたし(シロ)』という存在は消えてなくなります。本当はもっと早く言おうと思っていたんですけどこんなタイミングに為ってしまってごめんなさい。」


 わたしがそう言うと黒羽さんは、今度は明確に目に涙を溜めて口を開こうとするがそれと同時に何かが草を踏みしめるような音が辺りに響く。


「洞窟の奥に逃げろ‼」


 音と共に狗神さんが剣を構えてわたし達に指示を出す。

 目を向けると観覧車で見た時よりも何故かボロボロになっているがさっきの化け物が洞窟の前に立っている。

 わたしは黒羽さんを立たせて狗神さんの指示に従って洞窟の奥へと向けて走り出した。


此処までの読了ありがとうございました。

次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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