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帝国のとある店にて

おはようございます。

第282話投稿させて頂きます。

ブックマーク・いいね、ありがとうございました。とても励みになります。

今回も第三者視点になります。

楽しんで頂けたら幸いです。

 昼間なのに閑散としている大通りを旅装の青年が周囲を見回しながら歩いている。


「どこもかしこもお通夜ムードか・・・全く現皇帝は何やってるんだ・・・」


 現皇帝のアルバルトの事を静かに非難しながらが公道を歩き、ある建物の前で足を止める。


「立ち入り禁止か・・・建物も随分荒れちまったな・・・」


 リコリス商会の店舗であった建物を見て少しだけ悲しそうにそう呟いた後で青年は建物を後にして目的地へと向かう。

 リコリス商会跡地から少し歩き『close』の看板が掛けられたドアを開けようとすると鍵は掛かっておらず不思議に思いながらもドアを開き中へと入る。


「店は今、閉店中だ。何の用で来た?嘘を吐かず答えろ」


 カランカランとドアベルが鳴るのと同時に喉元にひんやりとした鈍色に輝く金属を突き付けられドスの効いた声で脅しながら質問をされる。


「色々と言わなきゃならない事は多いけどまずは度数の強い酒を一杯くれ。前皇帝の手向けの為に」


 後ろ手でドアを閉めながらそう言うとナイフを突きつけていたこの店の店主であるヴァッシュが驚いた様子で喉元からナイフを離す。


「オメェ、ディラン派か?」


 男の言葉に顔を顰めながら確認すると男は静かに頷く。


「証拠は有るか?」

「証拠という証拠は無いが俺の顔を見たら納得してもらえると思うぜ」


 ヴァッシュの言葉に男は少しだけ困った声音を出すと直ぐに被っていたフードに手を掛けて顔をあらわにする。


「嬢ちゃんの店の所のアルか‼」


 男の顔を見たヴァッシュは自分の店に来ていた少女が経営していた店の店長をしていた男だと分かり、一先ず警戒を解く。


「とりあえず。一杯貰えるか?」

「あ、ああ・・・」


 先程までナイフを首に突き付けられていたのに飄々とした様子でそう言うアルに既視感(デジャヴ)を感じながら中へと促すとアルは軽い足取りで奥へと進み、何時もコユキとディンの座っていた席の隣に腰を下ろす。

 アルが席に着いたのを確認してからヴァッシュはディンが良く飲んでいた酒をグラスに注ぎ、アルの前とその隣に置き、自分の分のグラスにも酒を注いでかからグラスを宙に掲げる。


「前皇帝、ディランに」

「ディランに」


 その言葉と共にグラスの中を一気に飲み干しグラスを机の上へと置き、そのタイミングでヴァッシュはアルへと向けて問い掛ける。


「それで?お前さんはいったい此処に何をしに来たんだ?ディランの奴の死を悼む為だけに来た訳じゃねぇんだろ?」


 二杯目の酒をアルと自分のグラスに注ぎながらヴァッシュは若干警戒度を増した視線をアルに向けながら問い掛けるとアルはまた飄々とした掴み所の無い様子でグラスを口元に持って行き、今度は舐める様にチビチビと飲みながらヴァッシュの質問に答える。


「御明察だよ。店主のおっちゃん。俺は此処に仲間のお願いを聞く為とちょっとした騒動の為に仲間を集めに来たのさ」

「仲間?」


 アルの言葉にグラスを再びカウンターに置き、酒を注ぎながらアルの言葉に首を傾げているとアルは一つ頷いて答える。


「そ、仲間だ。最初の方は今いる所の鍛冶師のおっさん達がここで壊れた剣の欠片を集める為の道案内。もう一つは・・・」


 そこまで答えてチビチビと飲んでいたグラスの中身を一気に煽り、タンっと音を立ててカウンターに置き、言葉を続ける。


「革命を起こすための仲間さ」


 ニッと挑発的に笑う何処かで見た事の有る顔を見ながらヴァッシュは顔を顰めてアルの言葉に反論する。


「無理だ。今のアルバルトの野郎に代替わりしてからアルバルト派の連中の戦力が強すぎてディラン派の連中は皆、身を隠しちまった。誰も勝てる見込みの無い革命なんかに手を貸す訳がねぇ」


 武器の質等から手を貸す者など居ないと口にするとアルは口元に不敵な笑みを浮かべる。


「戦力に関しちゃ問題ねぇよ。一部の連中は先の戦で贈り物持ちも加護持ちも大半がお陀仏だ。一部残った奴等も今度の戦争に駆り出されるし、武器もスポンサーが提供してくれる」

「スポンサー?」

「それはトップシークレットで、ただ、頼っても大丈夫な連中さ」


 スポンサーとやらを心底信用しているのか革命を成功させた後の介入や見返りなどは一切無いというアルの言葉を訝しみながらヴァッシュは次のダメ出しを口にする。


「そのスポンサーとやらが信頼できる奴だとしても、もう一つ懸念点が有る。ディラン派の連中を奮い立たせる為には最低でもディランの血縁者が必要だ」

「アンタは駄目なのか?ヴァッシュのおっさん?」

「・・・何を言ってやがる?オメェ、話を聞いていたのか?」


 懸念点を口にするとアルは当然の様にヴァッシュに旗印になれと口にするので酔いでも回ったのかとヴァッシュは怪訝な顔をしながら問い返すがアルは何でもない事のように口を開く。


「本名、ヴァイツェン・シュバルツ・グラディア。ディラン・ファラリクス・グラディアの実の兄で過去にディランに王位を譲り、歴史の闇に消えた立派な王族だろ?」

「テメェ・・・一体どこでそんな情報を・・・」


 すっかり酔いが醒め、殺気とも取れる敵意を宿しながらアルを睨むがそれらをぶつけられている当の本人はあくまで飄々とした様子を隠さずに口を開く。


「色々と情報が手に入る知り合いが居てね。で?どうなんだ?」


 あくまでも飄々としているアルにヴァッシュは警戒を解かずに答える。


「無理だ。俺は王室から逃げた人間だ。そんな奴に連中が付いて来る訳がねぇ・・・せめてアルバルト以外の息子が居てくれれば文句がねぇんだが・・・」

「やっぱそうだよなぁ・・・あぁ~やりたくねぇ・・・」


 そこまで口にした所でアルがぼやく様に呟き、机に突っ伏す。

 アルの口にした言葉にヴァッシュは目を丸くして突っ伏すアルを凝視する。


「オメェ、今なんて言った?」


 ヴァッシュの質問にアルはノロノロと起き上がり、服の中から白銀の板に剣に鷲のレリーフが彫られたペンダントを取り出し、ヴァッシュに見せる。


「王家の紋章に正統後継者を表すミスリルのプレート・・・お前・・・いや、アンタは・・・」


 そこまで言った所でアルは気怠そうにヴァッシュの疑問に答える。


「俺の真名はアルフレッド・トリニティ・グラディア。前皇帝の庶子でつい最近まである国に匿って貰っていた。アンタの甥に当たる。庶子なのに前皇帝から指名された正統なる王位継承者だ」


 その言葉にヴァッシュは目を見開いたままアルの顔をマジマジと見つめる。


「それで?これで全部の懸念点は解決したよな?伯父さん?」


 そう言って男がディランの面影の有る顔でニヤリと笑みを浮かべるのを見てヴァッシュは思わず溜息を吐いてすっかり酔いの醒めた頭で今後のプランを考え始めていた。


次回のお話で一度コハクの世界側から現代世界のお話の方に戻る予定です。

次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。


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