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お願いだからあと少しだけ・・・

おはようございます。

第279話投稿させて頂きます。

今回は黒羽視点になります。

 ———やっぱり、私はあの人の事嫌いだなぁ・・・


 先程まで会っていた先輩。狗神 和登の顔を思い出しながら日が傾いてきた空を見ながら私はトボトボと家への道のりを歩く。


 ———それにしても、先輩から聞いた話は信じられないような内容が多すぎる。


 異世界、勇者、滅びに向かう世界、シロちゃんが本当はコハクさんという名前で異世界の魔王だという事、異世界と言う特殊な環境故に彼女が人を殺した事が有るという事、それらの話が頭の中をグルグルと回り私は溜息を一つ吐く。

 にわかには信じられない話だが私はそれらの話が嘘だとは微塵も思ってはいないあの先輩は私のとある理由から三本の指に入るレベルで嫌いな人だが嘘を吐く人ではない事も良く知っている。

 もう一つ溜息を吐きながら私は彼との話を思い出す。


『魔王と言っても彼女は人だし、小説やゲームで出て来るような悪い存在じゃないんだ。だから、例え人を殺していたとしても今まで通りに接してあげて欲しい』


 そう言って頭を下げる彼の顔を思い出し、私は歩きながら今度は舌打ちをする。


 ———先輩に言われなくても私は最初からシロちゃんに対する態度を変えるつもりなんて無いっての‼挙句の果てにシロちゃんに対する賄賂のつもりなのか知らないけど私の分の支払いまでしちゃうとか余計なお世話だっての‼


 モヤモヤを振り払うように今度は狗神 和登に対して多少理不尽な怒りを爆発させて歩く。


 ———いや、まぁ、正確に言うと話を聞いて私が不安になっただけで狗神先輩にブチギレていたのは単なる八つ当たりなんだけどね・・・


 シロちゃんがいつか居なくなってしまう事に寂しさを感じながら歩いていると見慣れた我が家が見えて来て鍵を開けて中へと入る。


「ただいま~」

「あ、黒羽さん。おかえりなさい‼」


 玄関のドアを開けてただいまと言うと美味しそうな匂いと共にシロちゃんが顔を覗かせて笑顔でお帰りと声を掛けてくれる。

 暫く一人だけだった家でただいまと言ってお帰りと返事が返ってくる事に想像以上に嬉しく思いながら靴を脱いで中へと上がる。

 キッチンの方へと行くとシロちゃんは鍋の前へと戻り、揚げ物を揚げている。


「良い匂い。今日は何?」

「メンチカツ、エビフライ、キャベツの千切り、お味噌汁、たくあんです。もう少し掛かりますし、お風呂沸いているので先に入りますか?」

「うん。そうするね‼」


 外から帰って来てちょうど汗もかいていたのでシロちゃんの厚意にお礼を言って部屋へと着替えを取って来てお風呂に入る。

 お風呂に入りながら私は改めて今日、狗神 和登から聞いた話を思い出し、溜息を吐く。


 ———先輩が言っていた事が本当なら・・・いや、疑ってはいないけど・・・私は魔王にご飯を作って貰っているのか・・・家庭的すぎない?


 家庭的すぎる魔王様という構図を思い浮かべて私は思わず笑い声を漏らしてしまう。

 彼女が家に来てくれてから私は楽しい事ばかりだ。もちろん、ゆーちゃんとひーちゃんの事を片時も忘れた事は無かったが彼女と出会ったお陰で一応の無事も確認する事が出来た。

 私にとって彼女はもう家族の様なものだとも思っている。


 ———でも、このままじゃ、いられないんだよね・・・


 今日、聞いた話からするとシロちゃんには帰らなければいけない事が有る。記憶が戻ったら彼女もきっと戻る事を望むだろう。私の我儘でそのチャンスを逃させる訳にはいかない。

 今日、誰と会ったのか等をシロちゃんに話す事を決めてから私はお風呂を出てシロちゃんの元へと向かう。

 食卓へと向かうと食事の用意を終えたシロちゃんが目に入る。


「あ、黒羽さん。ナイスタイミングです。今、準備が終わりましたよ」


 シロちゃんに呼ばれて食卓に着き、夕食を摂り、片づけをしながら私は意を決して、シロちゃんに今日、会ってきた人の事を話す為に口を開く。


「シロちゃん。今日ね。昨日シロちゃんに声を掛けていた人と話をして来たの」


 私の言葉を聞いてシロちゃんはお皿を拭く手を止めて驚いた様子で私の事を見る。

 そんなシロちゃんの顔を見て私は洗い終わったお鍋を置き、水を止めてシロちゃんに説明する為に言葉を続ける。


「驚かせてごめんね。シロちゃんに声を掛けた人は私の知っている人だったんだ。それでシロちゃんには悪いと思ったけど昨日の内に相手に連絡を取って今日会って来たの」

「えっと、それであの人はなんて言ってました?」


 驚いた様子だが彼女に黙って先輩に会いに行った事を怒ってはいないようでシロちゃんの返事に私は少しだけ考えてから口を開く。


「結論から言うと多分、シロちゃんの事は分かったと思う。でも、ちょっと私では正確に教える事が出来ないし、にわかには信じられないお話になると思うから連絡先を教えるから後日、先輩に訊いてくれる?」


 シロちゃんの正体については私の口から教えるにはかなり難しいと判断してそう提案する。


「そう・・・ですか・・・あの、一応、黒羽さんに教えてもらったLanのアプリのIDと電話番号は頂いているので後で登録の仕方だけ教えてもらえますか?」


 昨日、狗神 和登が小さな女の子と去って行く前にシロちゃんに渡していた紙を思い出し、行動が早いなと思いながら笑みを作りながら丁度いいと思い本題と共に言葉を返す。


「うん‼後で一緒にやろう。それで一つだけお願いが有るんだけど良い?」

「お願いですか?」


 きょとんとした顔で訊き返してくるシロちゃんに私は頷くと少しだけ罪悪感を抱きながらお願い事を口にする。


「先輩に連絡するのを三日程待って欲しいの・・・理由はちょっと言えないけど・・・・」


 自分の事をいち早く知りたいであろう彼女にとって酷いと思われるであろうお願いを口にする。

 シロちゃんからの非難の声を予想して緊張していると彼女はきょとんとした顔のまま口を開く。


「分かりました。狗神さんに連絡するのは少しだけ待ちます」

「良いの?」


 あっさりと承諾してくれた事に思わず聞き返してしまうと彼女は笑みを浮かべて口を開く。


「はい。黒羽さんにも何か考えが有っての事でしょうから大丈夫ですよ。焦る事でもありませんし・・・」

「そっか・・・ありがとう」


 最後だけ何かぼやかした様な言い方をしたのには目を向けず、私も笑みを作りながらお礼を言う。

 ———ごめんね。シロちゃん。三日だけ時間を頂戴。それまでにまた一人になる事に慣れるから・・・だから、あと、少しだけ貴女と一緒に居させて・・・

 心の中でシロちゃんに言えなかった理由を口にしながら私達は洗い物を終えて携帯の登録などをしながら穏やかな時間を過ごした。


此処までの読了ありがとうございました。

次回はコハク側の世界の話です。

ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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