嫌な予感
おはようございます。
第276話投稿させて頂きます。
今回も和登視点になります。
今後の展開の修正が有ったため、ep165の女子会しましょ?のコハクと和登の会話を一部修正しました。
楽しんで頂ければ幸いです。
「こはく?」
俺の言った名前を右手でネージュの頭を撫でて宥めながら首をちょこんと傾げてコハクの時とは違う青と紫色の金目銀目の瞳で俺の事を見ながら俺の言った名前を繰り返す彼女にジワジワと嫌な予感を覚えながらコハクがイリアに向かう前に言っていた事を思い出す。
『少し前から私の記憶は何かしらの理由で記憶の欠落が起こっている。そして恐らく彼らが死んでからその症状が加速している。後、どのくらい私は私のままでいられるのか見当もつかない』
少し前に戦っている途中でコハクが言っていた事を思い出す。
そんな事を考えながら彼女をコハクだと仮定して間近で見た時から感じている違和感を探る。
「‼」
失礼にならない程度に彼女の事を観察すると彼女は先程から泣いているネージュの頭を左手で撫でているが右手には紙袋を持っている。俺の記憶が正しければ最後に見た彼女は全身血まみれで右腕が無かったはずだ。
———右手は義手か?でも、動きは自然な感じだな・・・あの時の傷もなさそうだし・・・やっぱりコハクではない・・・?
彼女の右手に注視しながらそんな事を考えていると目の前の彼女が困惑しながらゆっくりと口を開く。
「あの・・・貴方とこの子は誰ですか?わたしの事をこはくさん?と呼びましたがわたしの事を何か知っているんですか?わたしの事を知っているなら教えてください」
右手が義手か義手ではないかを考えていて直ぐに反応出来なかった俺に目の前の女の子は更に言葉を続ける。
「あと、わたしの手は義手ではないです」
俺の考えていた事に対する回答に思わず彼女の顔を見る。
———右手と傷の有無だけを見ればコハクじゃないけど・・・俺の思考を呼んだ?
俺の思考に彼女はしまったという顔で右目を抑えて俺から目を逸らす。
———コハクと同じで紫の瞳の方は心が読めるのか・・・
俺の思考に目の前の彼女はますます動揺して視線を泳がせる
コハクだと思える要素も有ればコハクではないのでは?と言いたくなる要素も有り、混乱してくる。
髪の色や目の色が違う理由等、分からない事は多いがネージュが彼女をコハクだと認識している以上、今の彼女は件の症状が最後まで進んでしまった状態なのかもしれない。
判断に迷っていると目の前の少女が右目を抑えながら不安そうな顔で俺の事を見ている。
恐らく、眼の力が普通じゃない事を分かっていてうっかり俺の考えている事を口にしてしまい逃げ出そうかもう少し話を聞こうかで悩んでいるのかもしれない。
———ならば彼女が逃げ出さない様に彼女の事を訊き出すのが正解か・・・?
そう考えて息を大きく一つ吐き、彼女の顔を見ながらゆっくりと口を開く。
「いきなり声を掛けてしまってごめん。俺の名前は狗神 和登。君の腰にしがみ付いている子はネージュ。君の名前は?」
「・・・今はシロって呼んで貰っています」
目の前の少女を怖がらせない様に出来るだけ落ち着いた声音を心掛けながら彼女の名前を問い掛けると少しだけ俺達に言っても大丈夫かと考えた様な間が有ってから誰かに呼ばれているのだろう名前を教えてくれる。
「名前を教えてくれてありがとう。シロさん。さっきの質問だけど現状では俺達も分からないが答えだよ。俺やネージュの知っている子と比べると違いが有りすぎる。でも、似ている所も沢山有る。以上の点から君が俺達の探している人物、コハクだと断言できない。だから幾つか質問をさせてくれないかな?」
俺がそう訊くとシロはこくりと頷き、俺の言葉を承諾してくれる。
「まず、最初の質問だけど君は自分についてどんな事を覚えている?」
まずは記憶喪失らしいシロさんが自分の事を何処まで覚えているのかを確認する為にこの質問をすると彼女は困った顔で口を開く。
「少しの常識と思われる知識ぐらいしか・・・わたしに関しては何も・・・」
自分の事は何も分からないと言う彼女に俺は少しだけ考えながら次の質問をする。
「分かった。じゃあ、次の質問。さっき今はシロって呼ばれて居ると言っていたけど誰に呼ばれているのか訊いてもいい?」
そう訊くと彼女は少し考えてから口を開く。
「個人の事なので本人の許可が無ければ迂闊な事は口に出来ないです。ただ、その方が倒れているわたしを助けてくれて居候をさせてくれています」
初対面の人間に対して当然と言えば当然の対応をされてしまうが俺は更に質問を続ける
「倒れていた時の服装や怪我なんかはわかる?」
俺がそんな質問をすると彼女は些か顔を赤くして答える。
「えっと・・・わたしが意識を取り戻した時にはその・・・裸でして・・・よくわからないです・・・助けてくれた方なら知っていると思います・・・あと、怪我は無かったと助けてくれた方は言っていました・・・」
「・・・失礼した」
彼女の答えにお互い若干気まずくなりながら次の質問を考えているとピコンと着信を知らせる音が鳴り、向こうの世界では出番の無かった俺のスマホのLanアプリにメッセージが届く。
『ストーカー女が近くに居ますよ。彼女から離れて至急この場から離れてください。あと、話が有るので後日、私と話の席を設けてください』
メッセージを確認して忌々しい女の顔を思い出しながら溜息を吐きたいのを堪えてシロさんの方を向いて口を開く。
「シロさん。すみませんが俺の都合で今日はもう終わりにさせてください。良ければ連絡が取れる様にLanのIDを教えてもらえませんか?」
若干、どこかの火の勇者みたいにナンパっぽい言い回しになっている事は自覚しているがやっとコハクかもしれない人物に会えたのにこのまま別れる訳にはいかないのでなりふり構っていられない。
俺がそう訊くとシロさんは困ったような顔のまま口を開く。
「すみません。わたし、そのスマホ?という物を持って居なくって・・・今お世話になっている所も勝手には教えられないです・・・」
スマホを持っていないという事と御尤もな意見に俺は少しだけ考えて鞄からメモ長とボールペンを取り出して俺のLanのIDと電話番号をメモして渡す。
「なら、俺に連絡出来る様だったらこの番号に連絡をください。ネージュ。気持ちは分かるけどもう行くよ。彼女に迷惑を掛ける事になるからいう事を聞いてくれ」
前半はシロさんに後半はネージュに言うとネージュは少しだけ嫌がるような素振りを見せたがコハクかもしれない人物に迷惑を掛ける事になると聞き、シロさんの腰から手を放して俺の方に来る。
「それじゃあ、シロさん。俺達はこれで・・・」
「あ、はい・・・」
その会話を最後に大した情報を得られないまま俺達は泣く泣くシロさんと別れて急いで駅へ向けて歩き出した。
此処までの読了ありがとうございました。
次回は黒羽視点です。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




