牢から生えるおっさん
おはようございます。
第269話投稿させて頂きます。
楽しんで頂ければ幸いです。
「さて、どう責任を取るおつもりなのかしら?」
美しい顔に冷え切った笑みを湛えながら普段とは違う冷たい声音で問いながらこの国の女王であるエリュナ様がゆっくりと足を組むのを俺は跪きながら視線を少しだけ上に上げて覗き見る。
俺は冷や汗を流しながら慎重にエリュナ女王へと向けて口を開く。
「責任とは先の戦争に関する事でしょうか?」
正直、戦争の敗退の責任と言われても俺に何の責任が有るのか逆に問いたいがとりあえず思い当たる事を口にするとエリュナ女王は目を眇めて口を開く。
「あぁ、自覚が有ったのなら何よりです。それで?ツキハマ様は今回の戦の責任をどう取るおつもりなのかしら?」
俺の予想通りの返答を返してくるので溜息を吐きたい気持ちをグッと堪えてエリュナ女王に答える。
大体、俺だけ呼ばれて立川が居ないことに納得ができない。
「恐れながら女王陛下、なぜ私が戦の責任を取らされなければいけないのか御教え頂いても宜しいでしょうか?本来なら責任とは指揮を執った者が負うはずです。ならば騎士団長殿が負うべき咎では無いでしょうか?」
あの戦争で俺は突然乱入してきたあの少女に敗北したが俺の失態と言えばそれだけであのタイミングで俺達を戦地に出したのは現場指揮官だ。
それ以外にも帝国の騎士達も王国の騎士達も帝国が連れてきた転移者だという横柄な態度の三人組も纏めてあの少女一人に敗北している。
そして、そもそも俺達は勇者だと言われていきなりこの世界に連れてこられて怪物との戦いや戦争に参加する事になったのだ。それでいて責任を取れとは何か勘違いをしていないかと言いたい。
「はぁ、ご自分の立場に伴う責任をご自覚なさっていないみたいですね。全く持って嘆かわしい・・・」
これ見よがしに溜息を吐き嫌味を言ってからエリュナ女王は言葉を続ける。
この人は女王になってから俺達に当たりが強くなった気がする。
「良いですか?ツキハマ様。勇者というのは勝利の象徴なのです。それが貴方様方は一体何回お負けになりました?帝国からもその事で苦情が寄せられています。貴重な戦力を勇者の投入が遅かったことで失ったと。それらについてどうお考えなのでしょう?」
殆ど言いがかりの様な内容に愕然としながら弁明の言葉を口にしようとすると軽蔑しているような視線を向けたままエリュナ女王は言葉を続ける。
「更に貴方様のパーティの方達からツキハマ様が定期的に国庫から資金を調達していたり、彼女達に夜伽を強要したなどの報告も受けております」
身に覚えのない女王の言葉に俺は更に驚き、今度こそ反論の言葉を上げようと不思議な事に声が出ず。口をパクパクとさせてしまう。
突然の出来事に周囲を見回すと先程まで青い顔をしていたアンナ、ベラ、ミランダの三人がニヤリと俺の事を見下す様に嗤っている。
その顔を見てアンナ達の魔法で声が出ないことを悟り、彼女達に嵌められた事に気が付き、混乱と絶望が頭を支配する。
それでも何とか声を出そうとしているとエリュナ女王が扇で口元を隠しながら追う一つため息を吐き、言葉を続ける。
「正直、どう責任を取るお積りかとお伺いしましたが様々な余罪や帝国への示しを付ける為に貴方様への罰はもう決まっているのです。とは言え、役に立って居ないとは言えわたくし達も現状で戦力になりそうな者を処刑する訳にも行きません。聖武器を没収し、貴方様にはしばらく地下の牢に入って頂きます。何も反論が無い様ですので連れて行きなさい」
そう言うのと同時に俺の手に聖武器の召喚を妨害する腕輪がアンナ達により嵌められ騎士達に頬を殴られてから担ぎ上げられる。
頬の痛みに呆然としたまま運ばれ俺は暗い牢の中へと押し込まれた。
衝撃的な出来事から何日経ったのか分からず、俺は牢の中で呆然としながら過ごしている。
最初の内は出してくれと食事を持って来た兵士に言ったり外の情報を教えてくれと頼んでいたのだがその度に殴られたり蹴られたり謂れのない事で罵倒されたりし、いつの間にかやめてしまった。
暗い地下の所為で朝も夜も分からず段々と日付の感覚も無くなって来る。
体の痛みとどうしてこうなってしまったのかを呆然としながら考えていると何処からかカリカリカリと何かを削るような音が聞こえて来る。
地下牢に居る鼠が何かを齧っている音かと思い耳をすますと壁の方から音が聞こえて来る。
不審に思い壁へと近づくと唐突に壁を形成している煉瓦の一つがボトリと落ち、煉瓦一つ分の穴が開く。
不思議に思って穴の中を覗き、俺は思わず悲鳴を上げそうになり、口を手で押さえる。
驚きと恐怖でバクバクと音を立てている心臓の音を聞いていると原因の穴から野太い男の声が聞こえて来る。
「あんら、本当にうちの小さなお姫様の予想が当たったのねぇ。お久しぶりね。勇者ちゃん。うちのお姫様のお願いで助けに来たわよ♡」
声の主である法国で出会ったオネェのおっさんのゴディニは煉瓦一個分の空間一杯からその濃い顔を覗かせながら少しだけ自慢気にそう言い、音もたてずに煉瓦一個分の穴を広げて俺のいる牢の中へと入ってきた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




