どう責任を取るつもりなのでしょう?
おはようございます。
第268話投稿させて頂きます。
楽しんで頂ければ幸いです。
クラシア王国の王都クラフェルでは盛大な祭りが開かれている。
理由は先の戦の戦果の大勝利を祝う為だ。
実際には類を見ないレベルの大敗なのだがクラシア王国の政府は歴史的大勝利だと通達し、今に至る。
「出立した時の人数と帰って来た時の人数が大きく違うのに皆、本当に信じているのかしら・・・?」
にぎやかな街の様子を見て顔を顰めながら緑色のローブを身に纏った少女がパンを持ったまま呟く。
「教会と国からの通達です。情報の規制が厳しいこの国では恐らく殆どの者達が信じているかと・・・アリア様、そちらは私がお持ちします」
アリアの持つ袋を受け取ろうとする護衛の女性の手を避け、アリア・・・アメリアは言葉を続ける。
「これぐらいは持てるから大丈夫ですよ。ティティさん。帰還した騎士達を自分の目で見ても簡単に信じ込んでしまうんですね」
「情報を操作してしまえば容易なものです。こ・・・リーフ様も使っていた手ではありますよ」
「姉様も・・・?」
なんとなく口にした言葉に対するティティの言葉に少しだけ驚く。
彼女が実の姉と違い、姉と慕っている黄昏の魔王であるコハクはその手の情報操作を嫌がる人物だったと記憶していたからだ。
自分の知らない彼女の事に若干モニョる様な感覚を覚えているとそんなアメリアを見てティティは少しだけ苦笑いを浮かべながら言葉を続ける。
「まぁ、主に自分の悪評を広める形でしたけど・・・」
「何故、姉様は御自分の悪評など流したのですか?」
姉と慕う人間がどのような悪評を流したのか気になりティティに内容を訊ねると彼女は何とも言えない顔で口を開く。
「主に悪徳貴族の粛清に関する事と御自身の性別の偽装デスネ・・・・」
「・・・悪評?性別偽装?」
想像していた事と違う内容に目を点にしているとティティが苦虫を潰したような顔で頷き言葉を続ける。
「はい。しかも市民に向けてではなく主に当時の貴族連中に向けてです。性別の偽装など自分に縁談が来ない様にする為と街を歩くのに本当の性別と一緒だとバレる可能性が高いからだとか・・・」
「あねさまぁ・・・」
自分の前では絶対に見せない姉と慕う人物の何とも言えない姿を聞き、少しだけ国の今後を心配する事を忘れて情けない声を出すと隣でティティがクスクスと笑う。
「ひょっとして揶揄われました?」
少しだけ頬を膨らましながらティティに訊ねると彼女は咳払いを一つして真面目な顔になるとアメリアの質問に答える。
「いいえ、事実です。笑ってしまい申し訳ございません。でも、少しだけ元気が出たのではありませんか?」
そう言われてみて先程までのもやもやした思考と沈んだ気持ちが少しだけ晴れた気がする。
「・・・少しだけ」
なんとなく掌の上の様な感覚がして少しだけむくれながら答えるとティティが笑みを浮かべるのを見る。
コハクから借り受けたこの護衛は最初の頃はひどく不愛想だったが最近は心を許してくれた所もあるのかよく話しかけてくれる様になったとアメリアは感じている。
「・・・それで?姉様の縁談話は本当に来なくなったんですか?」
そう問い掛けるとティティは笑みを苦笑いに変えて答える。
「ええ、愚かな貴族子息からの縁談話は無くなりましたよ」
「おぉ・・・効果が有ったんですね」
「はい、その代わり貴族のお嬢様方からの縁談が来るようになりました」
「・・・」
何とも言えない結果に思わず言葉を無くしてしまいしばらくそのまま二人で世話になっているゴディニの店へと向かって歩く。
無言の時間がしばらく続いていたがアメリアが口を開く。
「イリア魔法王国と姉様は大丈夫でしょうか・・・」
周囲の雑音に紛れてポツリと呟かれたその言葉にティティは表情を硬くしたまま口を開く。
先の戦いの事はティティ経由でアメリアの耳にも入っている為、彼女は再び顔を曇らせる。
「イリアも多数の死者や負傷者を出したみたいですが現在は結界魔法を使い外部からの干渉を絶ち態勢を立て直しているようです。あの国は食料等の自給率が高いので民が飢える事は無いでしょう。そして、リーフ様ですが・・・」
あらかじめ黄昏の国から聞いていたイリアの情報をアメリアに話してからコハクに関する事を話す為にティティは一度大きく息を吸ってから口を開く。
「リーフ様ですが生きてはいらっしゃるらしいとの連絡は受けております・・・」
「生きてはいる?」
ティティの言葉を疑問に感じ、繰り返して聞いてみるとティティは少しだけ考えてから口を開く。
恐らく、彼女の中で何処まで話しても良いかを考えたのだろう。
「国の方にリーフ様と契約していらっしゃる方がおられるのですがその方によれば自分との契約は未だに切れていないので生きておられる事だけは確実だと・・・ただ、どの様なご様子かは分からないらしいです」
そう口にしたティティにアメリアは一瞬、泣きそうな顔をしたが直ぐに表情を改めて口を開く。
「どこも被害が大きすぎますね・・・エリュナお姉さまは一体どう責任を取るつもりなのでしょう・・・」
そう言ってアメリアは遠くに見える王城へと目を向ける。
見上げた王城は良く晴れているのに王城は何処か黒い靄がかかっている様に見えた。
☆
アメリア達が街でそんな会話をしていた頃、渦中の城の謁見の間では玉座に座るエリュナが青い顔で跪いている月濱 純也を冷めた目で見ている。
しばらく気まずい沈黙が続く中、エリュナが息を一つ吐く、その動作に月濱 純也がビクンと肩を震わせたのを見てからエリュナはゆっくりと口を開く。
「さて、どう責任を取るおつもりなのかしら?」
冷たい声音でそう問い掛けられた月濱は青い顔を更に青くさせて頭を垂れるのだった。
此処までの読了ありがとうございました。
次回は月濱 純也視点です。ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




