とりあえずお風呂に入ろっか?
おはようございます。
第266話投稿させて頂きます。
楽しんで頂ければ幸いです。
「あなたは、だぁれ?」
———いや、あなたは誰?は私のセリフなんだけど・・・
キョトンとこちらを見ている彼女を見返しながら内心でそんな事を思いながら私は息を一つ吐いて顔に笑みを作り、口を開く。
「えっと・・・初めまして。私の名前は宮城 黒羽。この家の家主です。貴女の名前は?」
キョトンとしている姿は非常に可愛らしいが彼女を見つけた時の姿を思い出し、警戒しながら彼女の出方を窺っていると彼女はキョトンとした顔のまま首を傾げて「なまえ?」と呟く。
彼女の反応に私はジワジワと嫌な予感がしてきて彼女に恐る恐る問い掛ける。
「ひょっとして自分の事が何もわからない?」
私の問い掛けに彼女はコクンと首を縦に振る。
———なんてこったい‼ガチ目に手詰まりだよ‼
彼女の返答に内心で頭を抱えていると不意に彼女の握っていた紙切れに書かれていた事を思い出す。
『貴女の友達に何が起こったのか知りたいのならこの子と一緒にしばらく暮らしなさい』
———そうか、あの紙に書かれていた事を信じるならまだ皆の事が解る時じゃないのかも・・・焦るな私、言葉が通じるだけでも僥倖だよ・・・
言葉が通じる事に幸いを見出し、焦る気持ちを息と共に追い出して私は彼女に笑みを向けて口を開く。
まずは現状の彼女の状態を少しでも良くする為に私は彼女に言葉を掛ける。
「とりあえず、お風呂に入ろうか?」
私の言葉に彼女はコクンと頷くと膝の上に乗せていたあんみつを優しく地面に降ろして立ち上がる。
「‼」
彼女が立ち上がったのと同時に当然の事ながら彼女の体を覆っていたタオルケットが床に落ち、長い髪で隠れているが彼女の裸体が露になる。
慌てて彼女に近づき、落ちたタオルケットで彼女の体を隠してお風呂場へと連れて行く。
カーテンも閉めているし、家の敷地内なので誰が見ている訳でもないが万が一が有るので念には念を入れる。
私に手を引かれて素直に着いて来る彼女をお風呂場へと連れて行き彼女から再びタオルケットを剥ぎ、浴室へと入れる。
「使い方解る?」
内心で多分解らないだろうなと思いながら彼女に問うと彼女はフルフルと首を横に振る。
「OK、ちょっとここに座って待っててね」
彼女を浴室の椅子に座らせてバスタブにお湯を入れてから私は急いでリビングへと戻り、買ってきた冷凍食品やお粥を冷蔵庫へと入れ、彼女と自分の着替えとソファに敷いていたもう一枚のタオルケットを持ってお風呂場へと戻り、自分も服を脱いで洗濯機にタオルケットと共に放り込み、洗濯機で漬け洗いを選択してから再び浴室に入る。
「お待たせ‼洗っていくからもう少しだけじっとしててね‼」
そう言って彼女に許可を取り、シャワーで頭から体全体を濡らしていく。
あれ?ある程度拭いて置いたとはいえ、髪はノータッチだったのに余り汚れが落ちてこない?どちらかと言うと床にべったりついている銀色の部分の方から汚れが流れてる?
少しだけ変な現象を目撃しながらシャンプーを手に取り数回に亘って彼女の長い髪を洗う。
「はーい。頭を流すから目を瞑って一回息を止めてね~。口も閉じてね」
流す際に注意を促すと彼女は素直に従い小さい子みたいに息を止めて目を瞑る。
また数回に分けてシャワーで流して行き、色の違う場所も流し終え、彼女にもう目を開けて息をしても大丈夫だと声を掛ける。
———うーん。本当はこの色の違う部分を切っちゃえばもう少し楽なんだろうけどこれは明日、美容院に連れて行くから下手に手を出さない方が良いよねぇ・・・
濡れた長い髪を何とか纏めて次は体に取り掛り、手足胴体と洗っていく。
———・・・とうとうこのたわわ様を触る時が来た・・・
ごくりと彼女に気付かれない様に生唾を飲み込み手に持ったスポンジをしっかりと泡立てる。
彼女に声を掛け、ゆっくりと後ろからたわわ様を洗う。
———くっそ・・・やーらかい
内心でそんな事を思いながら手早く洗い。泡を流して行く。
全身の泡を洗い流したら彼女には湯船の中に入ってもらい。自分も手早く体を洗って湯船に漬かる。
夏なのでそんなに長くは漬からず彼女と一緒にお風呂から出て自分の着替えと買ってきた服を彼女に着せて食卓の椅子に彼女を座らせて髪をドライヤーと櫛を使って乾かす。
それにしてもこの子、されるがままなんだけど・・・記憶を無くすってこんなに無防備になるものなのかな?
そんな事を思いつつ、一先ず動きやすいように彼女の髪を三つ網に編んでいく。
髪を編み終わってちゃんとした格好になった彼女を見る。
ボロボロの時にも思った事だけどしっかりした格好になった今の彼女は当然ながらボロボロだった時よりもより綺麗になり、作り物みたいに思えて来る
人形じみた容姿の彼女は何処か遠くを見る様にぼぅっとした様子で椅子に座って壁を見ている。
そんな彼女のお腹が空腹を訴える様にクゥ~っと可愛らしい音を鳴らしたので私は思わず笑いながら彼女に声を掛ける。
なんで笑ったのか分からないけど多分人形じゃないって当たり前の事が分かったのが嬉しかったのかもしれない。
「お昼にしようか?」
そう訊いて彼女がコクンと頷くのを見てから私は遅いお昼にする為に冷蔵庫の方へと歩き出した。
此処までの読了ありがとうございました。
次回も黒羽視点です。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




