V系配信者、黒猫のクロの不安
おはようございます。
第263話投稿させて頂きます。
楽しんで頂ければ幸いです。
このお仕事を始めて知り合った友人に頼んで作って貰った軽快なBGMの中で『準備中、ちょっと待ってね♡』とくるくる回っているロゴを見ながらやる気は起きないが私は本番前の日課を始める。
正直、ここまでやる気が起きないのは姉が亡くなって以来だが行方不明の友人二人が少しでも気が紛れる様にと提案してくれたこの仕事を休むのは二人に悪い気がして億劫な気持ちを押しやって口を開く。
「あめんぼ あかいな アイウエオ うきもに 小えびも およいでる かきのき くりのき カキクケコ きつつき こつこつ かれけやき ささげに 酢をかけ サシスセソ そのうお 浅瀬で さしました 立ちましょ らっぱで タチツテト トテトテ タッタと 飛び立った なめくじ のろのろ ナニヌネノ 納戸に ぬめって なにねばる はとぽっぽ ほろほろ ハヒフヘホ ひなたの お部屋にゃ 笛を吹く まいまい ねじまき マミムメモ 梅の実 落ちても 見もしまい 焼きぐり ゆでくり ヤイユエヨ 山田に 火のつく 宵のいえ 雷鳥は寒かろ ラリルレロ れんげが 咲いたら るりの鳥 わいわい わっしょい ワイウエオ 植木や 井戸換へ お祭だ」
発声練習を一通り終え、水で口を潤してから私は息を一つ吐き、気分を入れ替え画面へと顔を向ける。
自分の心境的には何度も言うが配信をする様な気分ではないのだが私の目的の為にも配信を始める為に配信開始のボタンをクリックする。
配信ボタンをクリックすると数秒の間の後にロングの黒髪に猫耳と尻尾の生えた女の子のアバターが画面へと映し出され配信が始まる。
「みんな~、こんばんにゃ~‼」
今は行方不明な大切な友人の考えてくれた挨拶を元気にすると画面にこの放送を見てくれている視聴者の人達からコメントが飛んでくる。
『こんばんにゃ~』
『うぽつです』
『クロちゃんこんばんにゃ~』
『今日は何をするの~?』
私の挨拶に似せてコメントを返してくれる人や今日のお話は何をするのか等、様々なコメントが流れて来る。
———最初はこの挨拶ドン引きしちゃったけど馴染んじゃったなぁ・・・
友人がこの挨拶を提案してくれた時の事を思い出しながら内心で苦笑を浮かべて画面に向かって口を開く。
「みんな元気そうで私も嬉しいよ~。今日はね。夏らしく皆で怖い話や不思議な話をしようと思ったんだぁ~」
『怖い話や不思議な話?』
「そうそう‼それも自分達が体験した物とか面白そうじゃない?もちろん、私も話すから皆も好きにコメントしてね‼その中から面白そうな物をピックアップして読み上げるよ‼」
『面白そう!』
「あ、そうそう一つだけ注意ね。スパチャしてくれても読み上げるとは限らないから無駄なスパチャはしないように‼猫は気まぐれなのです‼」
最後に少しだけ茶化しながら話をするとコメント欄が凄い速さで流れていく。流れて来るコメントの中にこの仕事を始めてから何時も来てくれていた人がまた居ない事に気が付き、残念に思いながら顔に出さない様に注意をし、私は顔に笑みを張り付けながら口を開く。
「そんじゃあ、まずは私の体験談から話そうか‼その後でコメントを拾ってくから皆もしっかり考えてねぇ~」
そう言って私は顔に笑みを張り付けながら自分の経験した事の有る心霊体験を語り始める。
亡くなった母がそういう家系だったのかは知らないが霊感ゼロの父親から生まれた割には私も怖がりだった亡くなった姉もその手の話には困らないぐらいの霊感が有る。
姉など生きていた時には入院していた病院でもよく見ていたらしい。
まぁ、そんな姉は薄情な事に亡くなった後に私の元へと出て来てくれたことは一度もないのだが・・・
懐かしい大好きな姉の事を思い出しながら私の体験した怖い話をしているとコメント欄から悲鳴が上がっているのを見て少しだけ鬱屈とした気分が晴れて笑ってしまう。
そんな会話と怪談話をしていると漸く私が欲しいと思った情報がコメント欄に流れてくる。
私はそのコメをピックアップして読み上げる
『怖くは無いけど不思議な話、俺の部活の先輩二人と同級生が変な魔法陣みたいなもんに飲み込まれて消えちまったんだ。ちなみにその先輩達は未だに帰ってきていないらしい・・・』
そこまでを読み上げ、私は生放送中だというのも忘れて思わず息を吞んで笑みを消してしまう。
理由は簡単な話で私の友人二人も全く同じ様にして私の目の前から消えてしまったからだ。
更に不思議な事を付け足すのなら二人と同じ様に私にもその魔法陣の様な物が纏わり付いていたのに私の物は途中で砕け、二人の友人だけが消えてしまった。
よく漫画やラノベ等の創作物である様に異世界へと招待されるタイプの物ならまだ許せるが万が一にも一部の創作物であるような魔法陣の中の人間を生贄にするタイプの物なら私は何としてでもそんな非情な事をした連中に復讐しなければならない。
コメント欄を目で追いながら顔から表情を消し、不穏な事を考えているとコメ欄が『クロちゃんどうしたの?』とか『大丈夫?』などの書き込みが増えて来て慌てて表情を修正し、口を開く。
「あっ‼ごめん、ごめん。どんな感じなのかなぁって考えてたら妄想に集中しすぎちゃった」
態と明るく言った事により視聴者の皆は大した事ではないのだろうと憶測してくれたのか対して突っ込まれることも無く話が流れていく。
気を取り直して私は先のコメントをしてくれた宅ポンさんへと話を振る。
「そう言えば、答えられればで良いんだけど行方不明になったのって宅ポンさんの知り合いだけなの?」
何でもない怪談噺の続きとして訊ねると彼は私の問いに答えてくれる。
『後から聞いた話だけど俺の知り合いの三人以外にも同じクラスの仲の良い三人組の女の子の内二人と二年生の先輩が一人、三年生の女の先輩が一人、附属大の大学生が一人、新任の先生が一人。計九人が行方不明みたい』
実を言うと私は宅ポンさんの正体を一方的に知っている。
まぁ、知っていると言っても彼が私のチャンネルのリスナーで行方不明になった子の一人と友人だという事ぐらいなのだが・・・
「そっかぁ・・・まだ見つかっていないんだよね・・・一日でも早く戻ってくると良いね・・・」
彼に私の身元がばれないように表情や声に出ないよう細心の注意を払いながら言葉を口にし、別の話題へと移る。
その後も幾つか怪談話や不思議体験の話をし、配信を終える。
配信終了をしている事を三度確認し、しっかりと回線が切れているのが間違いではない事が分かってから私は椅子の背凭れに背を預け、ペットボトルに残った水を全て飲んでから大きな息を一つ吐いて今回の配信で得られた情報を簡単に纏める。
まず。今回、私の友人が巻き込まれた行方不明事件は私の通っている学校の関係者を中心に起こったという事。
行方不明になった人達は皆魔法陣の中に飲み込まれていったという事。
行方不明になったのは高校一年生の女子が二名、男子が一名。二年生の男子の先輩が三名。三年生の女子の先輩が一名。付属大学の大学生が一名。新任の教師が一名の計九名。
そこに恐らく私が入って十名が行方不明になる予定だった事。
現状ではこれ以上情報なんて入ってこない事。
以上の事を考えてから私は溜息一つ吐き配信と考え事で疲れた頭に糖分を補給する為に机の上のチョコレートを一つ摘まみ上げようと手を伸ばす。
「?」
手を伸ばしても小粒チョコの感触は無く、空の袋の中を手が空しくガサガサと音を立てて漁っている。
どうやら中身が切れている事に気が付かず放置してしまったみたいだ。
また一つ溜息を吐き、何時もより疲れた体に鞭を打ち部屋を出て一階のキッチンへとストックを取りに行く。
部屋を出ると一人しかいない家独特なシーンとした空気が伝わって来て少しだけさみしい気持ちになりながらキッチンへと向かって階段を下りて行く。
キッチンの棚を漁ると目当ての物は直ぐに見つかりその場で封を開け、二、三個を口に放り込む。時刻はもう十二時を回っているが今日ぐらいは勘弁してもらいたい。
冷蔵庫から牛乳を出し、コップに移して飲み、口の中に残った甘ったるさを流し込む。
コップを洗ってから私はリビングの仏壇へと目を向ける。
「どうすればいいのかな・・・お姉・・・」
仏壇の中で母の写真と一緒に並べられている自分と瓜二つの姉の写真に向けて弱気な言葉を吐く。
私と姉は双子ではないが一部、胸部装甲と身長を除いてよく似ている。
胸部装甲は姉が大きかったが身長は私の方が高かったので姉は良く悔しそうな顔をしていた。因みに私は姉の胸部装甲が羨ましかった・・・
そんな姉の写真を見て数分が経った頃、そろそろ部屋に戻って寝ようと考えて立ち上がった所で私の耳にピンポーンっとチャイムの音が鳴り響く。
唐突に鳴ったこの時間に鳴る事なんてあり得ないチャイムの音に私は思わず身を固くして気配を探る。
しばらくのその場で動かずに聞き耳を立てていたが特に変化もないので音を立てないように細心の注意を払いながらインターホンの受信機の所まで行き、カメラを確認し、画像を確認するがそこには何も映っていない。
仕方がなく、姉の残した木刀を片手に玄関まで行き、ドアスコープで外を確認して私は思わず目を見開く。
正直、声を上げなかった事を誉めて欲しい。ドアスコープを覗いた私の目には玄関前で倒れている何者かが写っている。
夜の闇と違うそれが辛うじて人だと分かるのは街灯の明かりのお陰で倒れている影から手足が確認できたからだ。
———死体?ううん・・・よく見ると胸の辺りが上下してる・・・酔っ払いが間違ってチャイムを押しただけかもしれないけど門を開けて庭にまで入って来てるし・・・警察の前に息が有るか確かめた方が良いかな・・・何かしてきたらこの木刀で息の根を止めればいいし・・・
そう思い。木刀と懐中電灯を持って音を立てないように鍵を開けて足音を殺して倒れている人影に近づく。
「奇麗な子・・・」
倒れている人物へと近づいた私はその人の顔を見て思わずポツリと声を漏らす。
倒れていた人影は酔っ払ったおじさんではなく私と同じ年頃の女の子だった。
彼女の寝顔は安らかだがその恰好は異様だ。
足まで覆うような茶色の長い髪は足の部分だけが白・・・銀色で軍服の様な服装は至る所が刃物で切られた様に破れているのに彼女の肌には傷一つない。
懐中電灯で照らしてみると所々に 血の後の様な物まである。
———コレは私の手に余るわね・・・とりあえず救急車を呼んだ方が良いのかな・・・怪我をしているかもしれないし・・・
彼女の様子から私の手には負えないと判断し、救急車を呼ぼうと固定電話の子機を取りに行こうと思っていると彼女の手に紙が握られているのが目に入る。
悪いと思いつつも彼女の手から紙を引き抜き、中を確認する。
「・・・え」
中を確認し、私の口からまたしても声が漏れる。
引き抜いた紙は私に向けての手紙で内容は『貴女の友達に何が起こったのか知りたいのならこの子と一緒にしばらく暮らしなさい』っと私の字で書かれている
「なんなのこれ・・・?」
突然現れた女の子と私の字で書かれた手紙に何か訳の分からない物に巻き込まれたのを感じながら私、宮城 黒羽は叫び出したいのを我慢してその場にしゃがみ込んだ。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




