マガツガミ
おはようございます。
前回は急にお休みしてしまい申し訳ありませんでした。
第260話投稿させて頂きます。
今回はエリス視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
「ガハッ‼」
目の前で全身を自身の血で濡らしながら口からも血を吐き、地面へと倒れる少女を見下ろしながら私はゆっくりと口を開き、息も絶え絶えな少女・・・トワへと問いかける。
・・・ちょっと想定していたより傷が多くて出血が多い。
「あは♪なんで全身の傷が開いたのか分からないって顔をしているね♪」
今にも死にそうな様子なのに目にだけは殺意を宿しながら肩で息をしているトワを見ながら私は彼女の周りを回りながら指を振りながら私は再び口を開く。
「あは♪睨まない♪睨まない♪君の今の状況は僕の剣のスキルの力さ♪今の君は憶えてるか解らないけど過去に月濱君達を助ける為に君の腕を切り落としただろ?その時にチョロっと僕の剣のスキルを忍び込ませてもらったのさ♪効果は過去に受けた全ての傷口を開くっていうシンプルな物だけどね♪」
そう言いながら彼女の右腕が落ちている所まで行くと彼女の持っていたショットガンを回収して言葉を続ける。
「まぁ♪ちょっと君の出血量には引いてるけどね~♪」
そう言いながら彼女の持っていたショットガンと双斧を自分のアイテムボックスへと入れると私は《ネメシス》を取り出す。
目の前の少女の様子からこのまま終わるとは思えず、遊びをやめて自分の最も得意とする物へと切り替える。
そう思った途端、彼女の作った血だまりがブクブクと泡立ち、無数の棘が血だまりから噴き出し私に向けて飛んでくる。
「うわっと‼」
珍しく自分の口から出た驚きの言葉とは裏腹に余裕を持って回避をすると私でも信じられない光景を目にして思わず口から言葉が漏れる。
「うは♪マジかよ♪」
全身の傷が開き、今にも死にそうなぐらい血を流しているトワは真っ赤に染まった剣を地面に刺しながら殆ど光の消えた瞳に殺意だけを宿し、立ち上がり、苦しそうにしながら口を開く。
「お・・・ま・・・こ・・・こ・・・で・・・」
口から血を流しながら何かを呟き、剣から手を放して白い錠剤を口に含み、噛み砕くと再び剣を掴み地面から剣を抜き、足元の血だまりに再び剣を刺し、剣のスキルを使う為なのか短く言葉を続ける。
「血鎧」
彼女がそう呟いた瞬間、手に持っていた剣がまるで風化でもしたみたいに塵になり手の中から消え、剣が消えたのと同時に足元と彼女の血が入った周囲の死体の血だまりが彼女を包み、中から赤黒い獣が姿を現す。
獣は身に纏った血の鎧の影響なのか聞き取り難い言葉を発する。
「ゼッタイニ・・・」
言葉の途中で彼女は何処にそんな余力が有ったのか私の視界から消え、私の耳元で言葉の続きが聞こえてくる。
「コロス」
その言葉と同時に刃の着いた爪の様になった左手を上から下へと向けて振り下ろして来たのを想像していたよりもギリギリで回避すると私の居た場所にまるで隕石でも落ちて来たかのように地面にクレーターが出来上がる。
「うは♪こっわ♪」
自分が今の状態になってから初めて本心を口にするが周囲に人の目が有るのと自分自身の理由により、あくまでも余裕綽々と言った様子でおどけた様に声を出す。
その恐怖の対象は某ホラーゲームに出て来る生物兵器をグロテスクでなくした様な見た目で獣の様に駆けて来る。
駆けて来る相手に向けて《ネメシス》を振るうと残った左手の爪で受け止められ意外な事にその衝撃で私の方が後ろへと押し込まれる。
恐らく使用するのに多くのリスクや制限の有るスキルだったのだろうその効果の強さに辟易する。
最早、人というより獣の戦い方と言った方が相応しい様子の彼女は私との距離が開いたことが気に入らないのか唸るような声を上げると再び目で追えない速さで私の方へと駆けて来る。
体にかかる負荷が半端ではないのか血の鎧のあちらこちらから真新しい血液を流しているが気にした様子が無い所を見ると恐らくこの姿になる前に服用した錠剤に何か有るのだろう。
そんな様子を見ていると垂れ流している血を再び針の様にして放ってくるのを回避する。回避した血が今度は周囲の血を吸収して血の剣を形成して再び私へと迫ってくる。
本当に腹立たしい事に獣のような戦い方の割には先程よりも追い詰められている。
「あーもう‼いい加減にしつこいよ‼」
そう言ってこちらに向かってくるトワに《ネメシス》を振るうと驚いた事に彼女は
私の剣の直撃に合わせる様に爪を剣にぶつけて私の手から《ネメシス》を弾き飛ばす。
そのまま私の首を叩き切ろうとする爪を避け、目的の物のある所まで跳んで逃げ、距離を開ける。
再び開いた距離に不機嫌そうに駆けて来る彼女を見ながら足元に落ちていたソレを蹴り上げて手に取る。
「うげ・・・くそ重い・・・」
手に取ったのは良いが何かしらのスキルの所為か持ち上げるのがやっとの事に顔を顰めながら私は剣のスペックを確かめる
———材質はミスリル。退魔の属性有り。
スペックを確認し、私は剣を使う為に口を開く。名前は・・・今の彼女の姿から貰うとしよう。
「我に従い、我が敵を穿て《マガツガミ》」
一瞬、剣から抵抗するように火花が散るがそれが収まると剣先から黒に染まり刀身に赤色に輝くルーン文字が浮かび上がる。
《オカミノカミ》と呼ばれていた白銀の剣の見た目が黒く変わった途端に手に感じていた重さが無くなり私は剣を突っ込んでくる彼女へと向けて剣を振り抜く。
《マガツガミ》は彼女の血の鎧を切り裂き、元々限界だったのか血の鎧が砕けて彼女が地面に両膝を着く。
倒れずに膝をついた彼女は呆然とした様子で口を開く。
「・・・なぜ・・・?」
恐らくなぜ私が彼女の剣を使えるのかを問うているのだろう。
もう記憶も殆ど無くなり先程の様に奥の手を隠していて暴れ回る様子も無くなった彼女の様子に内心でほっとしながら彼女の問いに答える。
「あは♪僕のスキルだよ♪前から目を付けていたけど使い勝手の良い剣が手に入ってラッキーだったよ♪」
彼女の問いに最低限の返答をしながら私は彼女へと近付き、彼女へと声を掛ける。
「なるべく一瞬で殺してあげるけど何か言い残す事は有る?」
普段は決してそんな事を訊きはしないのに何故か彼女に対してそんな事を問う自分に疑問を持っていると未だに目に殺意だけを募らせる彼女は私の事を睨みながら口を開く。
「貴女を・・・恨む・・・よ」
そういう彼女に私は肩を落としてから剣を振り被り、口を開く。
「はぁ。まぁ、僕も恨まれるのは慣れてるけどね」
そう言って剣を振り下ろそうとすると目の前に黒い穴が開き、そこから剣が私の頭へと向けて突き出される。
「‼」
驚き、後ろに大きく飛んで回避し、私は割って入ってきた闖入者に向けて声を掛ける。
「あは♪なんで君がここに?」
そう問うと黒い穴からトワにそっくりな少女を連れた魔王側に寝返った勇者の一人は私の事を睨みながら静かに剣を構え直した。
此処までの読了ありがとうございました。
次回は和登視点で少しだけ時間が遡ります。
ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




