見捨てられる勇者
おはようございます。
第257話投稿させて頂きます。
今回は月濱視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
「いい加減にこのくだらない戦いも終わりにしよう。お前等を誰一人生きては返さない。戦争の恐ろしさをその身で味わえ。《カンナカムイ》」
目の前の少女の冷え切った言葉で俺は失敗したと本能的に悟ってしまった。
前に魔王と戦った時に魔王が使っていた俺達の切り札の精霊化と同じような効果をもたらす魔法を傷だらけの体で唱えた彼女に慌てて武器を抜き、戦闘態勢を整えていると落雷が落ちて土煙が舞っている中で更に声が聞こえて来て思わず動きを止める。
「走れ《タケミカヅチ》吹け《シナツヒコ》」
魔王の時とは違い、少女は武器までもエネルギー化し更にその能力まで使えるようだ。
無数に飛んでくる風の刃と雷の槍を立川と共に防御しながら魔王の時とは更に違い本気で殺そうとして来る殺気に冷や汗が流れる。
「月濱先輩‼この女、やべぇ・・・俺達も早く奥の手を使わなねぇとやられちまう・・・」
「ああ、出し惜しみをしている場合じゃないな・・・」
アンナ、ベラ、ミランダの援護魔法もあって何とか攻撃を防いでいる最中に立川から切羽詰まった声でそう言われ俺も似た様な感じで返事を返すと呪文の詠唱に入る。
「古より伝わりし、聖なる武器よ。我が身に———」
「古より伝わりし、聖なる武器。我が身に———」
「遅い‼」
俺と立川が呪文の詠唱を始めると精霊化している少女が《アグニ》を蹴り上げて吹き飛ばしそのまま俺の腹に蹴りを加えられてベラ達の方へと蹴り飛ばされて詠唱を中断させられる。
「グッ‼」
「‼精霊の力を宿し、我が敵を闇に沈める力を———‼」
「それも遅い‼」
俺への攻撃を見て慌てた立川が急いで詠唱を終えようとするがそれも一瞬にして距離を詰めた少女の攻撃によって中断させられ、立川も吹き飛ばされて打ち所が悪かったのかそのまま気を失う。
地面に膝をついて痛みに耐える俺達を見下ろしながら冷たい声音で話しかけて来る。
「全ての行動が遅すぎる」
その言葉と共に彼女が使っていた魔王と同じ魔法である《カンナカムイ》と言っていた魔法が切れたらしくボロボロな姿の少女の実体が戻ってくる。
それと同時に何かが破裂するような湿った音と共に彼女の着けている仮面の左側から血が首へと向けて流れ出す。
「なるほど・・・前に負荷が掛かった状態で無理に使いすぎるとこうなるのか・・・まだ先は長いのに・・・」
仮面の上から左目の辺りを抑えて小さくそう呟くと俺の方へと顔を向ける。
「実力の差は分かっただろ?死にたくなかったらこれ以上邪魔をしないでここで寝ていろ」
先程は殺すと言っていたのにどういう心境の変化か少女は俺たちに此処で手を引けと言ってくる少女に困惑しながら俺も口を開く。
「一体どういうつもりなんだ?」
「別に、さっきの連中と違ってお前等を殺したら後々面倒くさい事だけを彼らに残す事になると思っただけだ」
この子が俺達を殺せない理由が有る事は分かったが彼女が言う彼等とは誰の事かわからないがこの場を退く前にもう一つだけ訊きたい事を訊こうとすると上を見ていた少女が先程より殺意の籠った声音で呟く。
「やっと出てきたか・・・」
少女がそう呟いたのとほぼ同時に空に影が差し、それと同時に敵である少女が大きく後ろに飛ぶと何者かが空から剣を振り抜いて降りて来る。
「あは♪まだそんなに動けるんだぁ♪でも、もう限界みたいだね~♪」
場にそぐわない明るい声音でエリスさんは楽しそうに剣を振りぬいた体制からゆったりと構えを取り周囲を見回す。
「ふーん♪随分殺したね♪彼等なんて前回は見逃してあげたのに♪異世界人なのになんで殺しちゃったの♪殺して罪悪感無いのかな♪」
まるで敵である少女に前にも会った事の有るような口調で無残に殺されている林葉君達を見ながら敵である少女に気やすく話しかけるエリスさんに少女は俺達よりも殺気を増した様子で答える。
「お前がそれを問うか?それとも狂言に使える便利なコマが居なくなって不便なだけか?」
(狂言?)
楽しそうなエリスさんと殺意丸出しの少女との会話で気になった狂言という言葉に死体になってしまった林葉君達を見る。
彼らが一体何に拘っていたのかは知らないがその言葉が妙に気になってしまい彼女達の会話に耳を澄ませる。
「あは♪それを君に教えてあげる義理は無いなぁ~♪さて♪君もボロボロみたいだし、僕以外にもまだ殺したい人間がいるんでしょう♪じゃあ、やる事は一つだよね」
「望む所だ」
エリスさんがそう言って右手に持つ真っ黒な剣を少女に向けると少女の方も逆手に持つ双剣を顔の高さまで持ち上げると閉じていた刃が開き、三枚の特徴的な刃が姿を現すのと同時に二人の姿が消える。
二人が消えた後に一瞬にして切り結び周囲に衝撃は広がる。
その光景を見て幾つかの疑問が生まれたがこのままこの場に居たら自分達の命も危ないと思い。
立川を回収してアンナ、ベラ、ミランダ達に声を掛けようとして後ろを向き、目に入った光景に唖然とする。
声を掛けようとした三人は俺達を見捨てて遥か遠くを走って逃げだしていた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




