既視感のある光景
おはようございます。
第256話投稿させて頂きます。
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今回も第三者視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
大量の血を周囲にまき散らしながら息絶えた柏葉の頭から足を退け、頼みの綱の転移者があっさりと殺され怯えた様子でコハクを見ている周囲の兵士の中で立っている立花 葵へとコハクは視線を向ける。
圧倒的な数の有利で他国を蹂躙するはずがたった一人の少女の形を成した何かは自分達の仲間を半数以上殺し、更に自分達の数倍は強いはずの林葉達を一瞬で殺し、軍をほぼ壊滅させてしまった。
その何かは数の暴力により至る所に傷を作り、血を流しているが少しも痛みを感じた様子を見せぬまましっかりとした足取りで立花 葵の元へと歩いてくる。
その少女の姿を見た帝国とクラシア王国の兵は言いしれぬ恐怖を覚え、おびえた様子で武器を捨てて自分達を守っていた立花 葵を残して一目散に逃げだす。
そんな連中には目もくれずにコハクは葵に近づくと彼女の顔に左手を翳し、呪いを口にする。
「《スリーピング・ビューティー》」
コハク自身の現在の能力に問題が有る為に葵の現状を打開する《ディスペル・マジック》では無く、法国の神官でも浄化の出来る対象者を深い眠りに落とす呪いを掛ける。
呪いは魔力を使う所までは同じだが使用者が死んでも効果を発揮し続ける。
コハクが呪いを葵へと唱えると彼女は目を瞑り崩れるように倒れそうになるのを抱き留め足元に転移陣を引き、葵を黄昏の国へと転送する。
葵に関して予めメルビス達へと話を通して有るので後の処理を任せてコハクは転移陣を処理してゆっくりと立ち上がると何者かがコハクの背後に立つ。
「あぁ、次は君達か・・・」
些かうんざりした様子でコハクが振り向くとコハクを睨む闇の勇者立川 健とその場の惨状に困惑した様子の火の勇者月濱 純也とその取り巻きの女達が立っている。
会話もせずにさっさと倒してしまおうとコハクが考えていると立川 健がコハクを睨みながら声を荒げて怒鳴り出す。
「お前等・・・自分が何をしているのか分かっているのか‼俺達は平和の為に戦っているのにこんなに殺しやがって・・・」
出会うと何時も言ってくる一方的な正義感を口にする立川に心底うんざりしながらコハクは《タケミカヅチ》と《シナツヒコ》に手を掛けながら口を開く。
「自分勝手な正義感で物を語るな。お前等がやっている事はただの侵略戦争だろ。耳触りの良い言葉で誤魔化すな」
コハクが冷たい声音で立川の言葉を否定すると立川は目くじらを立てて口を開く。
「耳触り言い良い言葉で誤魔化して何かねぇ‼俺たちは正義の為にやっているんだ‼悪である魔族を滅ぼして人が平和に暮らせる世界を作る為にやっているんだ‼戦争を仕掛けられるのが嫌なら最初から協力すれば良いだろ‼協力しない奴らだって同等の悪だ‼少なくとも此処に来た人達はこんな所で殺される筋合いはねぇ‼」
「いい加減にしろ‼このクソガキ‼」
尚も自分勝手な怒鳴り散らす立川にコハクが怒鳴り黙らせる。
「お前の言いたい事は良くわかった。だが、お前はその言葉をこの国の兵士達の遺族に言えるか?遺族の者達から言わせたらいきなり戦争を仕掛けてきたお前等の方が悪だ。何度も言うが自分勝手な思考で正義を語るな」
怒気と殺気を放ちながら立川に冷たい声音で言葉を返すと立川は気圧され一歩後ろに下がる。
そんな立川の様子を見て月濱が庇う様に前に出てコハクに向けて口を開く。
「お嬢さん。連れが申し訳ありません。貴女の憤りも尤もですが彼も親しい者達が大勢死んでしまって冷静ではないだけ何です。どうか無礼を許してやってください」
そう言って自分が最も良く見える姿勢を意識しながら礼をする月濱をコハクは仮面の下で冷めた目で見ていると言葉を続ける。
「そこで図々しい事とは承知しておりますが我々はこれから軍を引く様に進言し、話し合いの場を設けて貰えるようにエリュナ女王陛下とアルバルト皇帝陛下に提案させて頂きますので相手国にその場に出て来る様に貴女から言って頂きたいのです。お願いできますか?」
「お前は馬鹿か?」
月濱が言った言葉に対してコハクは更に温度の下がった声で一言告げると月濱はピクリと体を引きつらせ口を開く。
「えっと、今なんと…」
「今更話し合いなど何の意味も持たない。お前達が攻めてきた時点で話し合いをする段階なんて物はもうとっくの昔に過ぎている。平和ボケした餓鬼が余り戦争を舐めるなよ。戦うという選択をしたのはお前達だ。ならばその身で責任を取れ。お前等と話をしても時間の無駄だ。私にはまだやらなければいけない事が有るんだ。くだらない事で時間を浪費させるな」
月濱が提案した事をくだらないと一蹴し、コハクは《タケミカヅチ》を天へと向ける。
何処かで見た事の有るその姿に二人が既視感を覚えているとコハクが口を開く。
「いい加減にこのくだらない戦いも終わりにしよう。お前等を誰一人生きては返さない。戦争の恐ろしさをその身で味わえ。《カンナカムイ》」
過去に魔王が唱えた魔法名を口にすると魔王と全く同じ様に雷が落ちるその様子に五人が慌てて戦闘態勢を取ると魔王の時とは違う言葉が続いて聞こえてくる。
「走れ《タケミカヅチ》吹け《シナツヒコ》」
その言葉と共に周囲に暴風が吹き荒び、紫電が月濱達へと向かって迫ってきた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




