壊れ始める世界
おはようございます。
第254話投稿させて頂きます。
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今回はコハク視点で☆の後は第三者視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
「《サイプレス》」
魔法の発動をすると敵の驚いた顔と一緒に一瞬にして周囲が真っ白へと塗り潰されて行く。《サイプレス》を照射しているリングを動かし、逃げ遅れた敵を巻き込みながら殲滅し、敵の半分以上の戦力を削った所で《サイプレス》が切れ周囲には焼け爛れた大地と色が戻ってくる。
それと同時に私の頭の中から《■■■■■》の名前と使い方、この魔法に係る大切な記憶が消滅していく。
どうやら事前に医者から聞いていた通り使った技から消えて行くらしい。恐らくだが今まで私が無事だったのは転生者だったお陰で前世の記憶から消えていた所為だろう。
どんな記憶が消えたのか今は分からなくなった不快な感覚に表情を隠す為の仮面の下で顔を顰めながら後ろで負傷している師匠に声を掛ける。
「師匠、後退して治療を。傷を治す前に弾を抜くことを忘れないように」
師匠に傷の治療をする前の注意点だけを告げて撤退させようとすると師匠はニヤリと私と二人でいる時によく浮かべていた笑みを浮かべると肩から血を流しながら立ち上がる。
「舐めないで貰いたいですね・・・弟子に後を任せて下がる程落ちぶれていませんよ」
どうやら普通に私だとバレている様で一緒に戦おうとする意志を示す師匠に少しだけ嬉しい気持ちを持ちながら私はいたって自分勝手な理由でこちらに来た若い魔術師に指示を飛ばす。
「おっさん‼生き・・・」
「君、すぐにこの人を後方へ下がらせてくれ。治療をする時にはレイン先生に弾を抜くことを伝えてくれ」
師匠の事を心配していたらしい若い魔術師の言葉を遮り、指示を飛ばすと彼は不審者を見る目で私を見て口を開く。
「アンタ何者だ?味方なのか?このおっさんとどういう関係だ?」
敵に向かって突っ込もうとする師匠の事を抑えながらこんな状況なのにそう聞いてくる男に些か呆れつつも私も口を開く。
「私の事を気にしている暇が有ったらさっさとそのおっさんを医療班に引き渡せ。まだまだ倒れている味方がいるだろう?私が敵でも君らの敵と戦うんだ。死んでも手間が省けてお得だろ?」
私がそう言うと若い魔術師は顔を顰めてまだ何かを言おうとするので私は「あっ、そうだ・・・」と言ってから師匠の近くまで行くと怪我をしている方の肩をバシッと一発ぶったたく。
「うぐ‼」
「小さいときに理不尽な借金を負わせてくれた恨みです」
流石の師匠も痛かったのかくぐもった悲鳴を漏らし私を睨んでくるので小さい声で積年の恨みを口にしてから痛みで大人しくなった師匠を指差して口を開く。
「ほら、大人しくなったんだから早く行く。痛みが引いたらまだ敵に突っ込もうとするよ」
私の奇行に唖然としている若い魔術師にそう言ってやると彼は急いで師匠を担ぎ上げて去り際に口を開く。
「この場を切り抜けたら説明して貰うからな‼」
そう言って去っていく彼を見ながら私は一つため息を吐く。
また会うことも無いし、会えたとしてももう私じゃないんだよなぁ・・・
そんな事を最後に考えてから半分に減らしてもまだこちらの以上の戦力を持ち、先程の《■■■■■》をまだ警戒している敵へと向かい合いアイテムボックスから巨大な戦斧を取り出す。
「起きろ《ウラス》」
そう言って正式名称 地冥斧 《ウラス》を地面に突き立ててやると《ウラス》の刺さった所を中心に地面が盛り上がりどこまでも続く巨大な壁がそそり立つ。
その壁が両側に延び地平線の彼方へと消えて行くのを見届けてから私は再びアイテムボックスを開き、中から別の女神の贈り物の槍を取り出す。
————まずは槍から使い潰す
最初に使い潰すと決めた槍を構えながら私は仮面の下で挑発的な笑みを浮かべて久しぶりにこの言葉を口にする。
「さあ、殺し合おうか?」
そう言って地を蹴り、私は最後になるだろう戦いへと躍り出た。
☆
グラディア帝国、クラシア王国の同盟軍の陣営では信じられない様な光景を、目の当たりにして全ての兵の士気が下がる。
物量、練度共に敵に負けず絶対に勝てる戦いのはずだった。実際に自分達はイリアの軍を後もう少しで打ち滅ぼせる所まで来ていたのだ。
それが目の前で暴れ回る一人の化け物の所為で一気に状況が変わってしまった。
化け物は一定の人数を殺すと次々に武器を変えてまた自分達の兵士を殺して行く。
そんな中でグラディア帝国の現皇帝であるアルバルトは件の怪物の動きを眺めつつあることに気が付く。
(ほう。動きがいいのは最初だけか、何らかの理由で長時間同じ武器が使えなようだ)
それに気が付きニヤリと口元を歪めてから近くにいる兵士に指示を出す。
「林葉達をあの化け物にぶつけろ。死んでも奴の猛攻に耐え抜き、奴に様々な武器を使わせろと言っておけ」
アルバルトの言葉に兵士は敬礼をして林葉達の待機する場所へと向かう
(奴らでもあの化け物を弱体化させる事ぐらいは出来るだろう。奴が十分に弱った時にツケを払わせてくれるわ)
陣の中で一際豪奢な椅子にだらしなく座りながらそう思考するアルバルトの悪意がコハクへと向けられていた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




