その頃のイリア
明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
第250話投稿させて頂きます。
今回も第三者視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
魔法王国イリア、コハクの故郷であるこの国の会議室で王と国の重鎮達が一枚の書状を前に難しい顔をしながら話し合いを行っている。
書状には隣国であるクラシア王国からの開戦の知らせと日時が記載されている。
「陛下、如何なさるおつもりですか?」
書状を前に難しい顔をしている国王に大臣である貴族が伺いを立てる。
「やはり、攻め込まれる前に降伏するのが一番でしょう。ましてや魔族との誓約など破棄しても構わぬでしょう。女神様も魔族との誓約を破っても気になさらないでしょうに」
大臣の言葉に神官服を着こんだ男が降伏をするように国王へと進言をする。
「馬鹿を言うな‼貴様、あの戦いの時に彼の国が何をしたのかを忘れたか‼それに我が国の危機の時に手を差し伸べてくれた魔族を裏切るなど看過できん‼」
今にも机を叩きそうな勢いで拳を握り、神官の男を騎士団長が切り殺しそうな勢いで睨みながら意見を否定する。
「ならどうしろと?魔族との誓約より国民の命でしょう?」
「貴様の考え方が気に食わんと言っているのだ‼」
「騎士団長殿、魔族に肩入れしすぎでは?魔の者に肩入れしすぎるなど女神さまの信徒として恥ずかしくは無いのですか?」
「くだらない事をベラベラと喋るその口を今すぐに閉じろ‼女神様の名を貴様らの都合のいい免罪符に使うな‼」
「二人共、弁えなさい。王の御前ですよ」
神官と騎士団長の二人が激しい言い争いを始めると宰相の男が二人を窘める。
二人の男が宰相の言葉で口を閉じたのを確認してから国王が口を開く。
「皆、貴重な意見をありがとう。私の意見だが、降伏はしないと伝えよう」
「陛下‼」
国王の言葉に神官の男がガタンと音を立てて咎めるように声を上げる。
神官の男のその様子を国王以外の人間が睨んで咎めていると国王が穏やかな口調で神官へと向かって言葉を掛ける。
「神官殿の言う事も分かるが、我が国が帝国とクラシア王国に屈すれば我が国の魔法技術は全て奪われてしまう上に我が国の民は奴隷の様に扱われてしまうだろう」
「そ、それは・・・」
反論しようとする神官の男に手を上げて制し、国王は言葉を続ける。
「それにね。私は女神様に仕えている君が、相手が魔族の方々だからと言って見下す君の様子に凄く不信感を感じずにはいられない」
「し、しかし相手は魔族であって人では・・・」
「私は決定を下した。いくら神官であろうと決定に口を出すことは許さない。君達が気に入らないのなら破門でもなんでもすれば良い。攻められる前に君達教会の者だけは国から出ること許可しよう」
王の言葉に神官が文句を言おうとすると王はその言葉を遮り神官に向けてきっぱりと国から出て行く事を進める。
「後悔しますぞ?」
「君達の言う通りにする方が後悔すると思っているよ。さっ、部外者は退出してくれたまえ」
涼しい顔と口調で神官に向けてドアを指差し、退出するように促すと神官は憤慨しながら外へと出て行く。
「宜しいのですか?」
宰相のルガティン侯爵が国王へと確認をする。
「別に構わないさ。元々、私はあの宗教を国に入れるつもりはなかったし、私自身もあの宗教の信徒になったつもりはないしね。愚か者の元妻の負の遺産を清算できて清々するさ」
「左様ですか。手を回しておきます」
「助かるよ。さっ、邪魔な者は居なくなったし、ここからは真面目に対策を考えようか?」
神官が憤慨しながら出て行くのを残った貴族と騎士団長達全員で見た後で残った者達はこの後に起こる戦争に対する本当の対策会議を始めだした。
そんな様子を王太子のライオネスと第二王子のアランがこっそりと扉の隙間から中を確認して聞き耳を立てている。
「やはり、クラシア王国が攻めて来るのは確かみたいだね」
「はい。その様です」
しょうがないというニュアンスを含んだライオネスの言葉にアランは何とも言えない表情で同意する。
「黄昏の魔王陛下に救援を求める事は出来るかな?」
会議室の扉をゆっくりと閉め、アランに問うライオネスにアランは静かに答える。
「恐らく、無理でしょう。彼女がこの国と同盟を結んだ時にしっかりと人間同士の戦いには介入しないと宣言しています」
「そっか。でも、いざという時の避難民の受け入れをお願いするぐらいは許されるかな?アランやアランの友人ぐらいは避難できるようにね」
少しだけ俯きながら答えるアランの頭を撫でながらライオネスは真剣な口調でアラン達の避難の話を口にする。
「兄上‼俺は逃げませんよ‼」
ライオネスの言葉にアランは少しだけ声を荒げながら逃げないと宣言するとライオネスは真剣な顔を崩さずに口を開く。
「アラン。皆がここで死ぬ必要はないって分かっているだろう?敵はクラシア王国とグラディア帝国の連合軍だ。うちの国がいくら魔法に長けていても恐らく長い時間は持たないだろう。でも、俺達の遺志を継いでくれる者達がいてくれればいつかは国を取り戻すことが出来るかもしれない。そのための希望がお前達なんだよ。父上もきっとそういう決断をする。お前達は生き延びなさい」
そう言うとライオネスは話を切り上げて自分のするべき事をする為にその場を離れる。
アランも納得はしていないが自分のするべき事をする為に行動を起こした。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




