月濱純也の心境
おはようございます。
第249話投稿させて頂きます。
今回は第三者視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
所々で復興作業の行われている街を二人の男が難しい顔をしながら歩いている。
「おい‼こっちに来てくれ‼怪我人だ!」
「木材をくれ‼」
街のこのエリアはつい最近、謎の襲撃者により多数の死者を出し、家屋を破壊された者が多数出た場所でまだ復興を行っている。
様々な怒声を聞きながら二人の男、クラシア王国に残った二人の勇者である月濱純也と立川健はそんな人達を避けながら歩を進める。
「本当に戦争するんすかね?」
忙しなく行きかう人々を若干、うざったそうな顔で見ながら隣を歩く月濱純也へと声をかける。
「するだろうな・・・・エリュナ女王が昨日、国民へと向けて宣言したんだ。今更覆らないだろ・・・」
どことなく乗り気でない月濱の言葉に立川はフンッと鼻を鳴らして口を開く。
「フン。魔族の連中を殺せる機会をくれるって言うんだから戦争ぐらい幾らでも参加してやるんっすけどね」
吐き捨てるようにそう口にする立川に月濱は顔をしかめながら口を開く。
「立川、魔族と戦う前に他の国の人達と戦う事になるんだぞ?そこに思う事は無いのか?」
「ねぇっすよ。そもそも魔族を討つ為に協力するのは当たり前っすよ。それが出来ねぇなら邪魔せずに死ねって感じっす」
好戦的な様子の立川の言葉に月濱は息を一つ吐き、歩を進める。
戦争に乗り気な立川と違い、月濱は今回の戦争に今一積極的になれずにいる。
そもそも、月濱は勇者として召喚されたからには人を守る事が務めだと思っているしその方がかっこいいと思っている。
それなのに魔族と戦う為とは言え他の国を侵略し多くの人を殺すのは何か違うのではないかとも考えるぐらいには普通の感性を持っている。
隣を歩く立川も最初は自分と同じく勇者に選ばれた事にテンションを上げていたのだが魔族についた勇者の処刑の際に彼が世話になった兵士が魔王に殺された事によって魔族への復讐に躍起になっている。
(なんで別の世界の人間にそんなに感情移入できるかね?異世界の人間なんだからちょっと助けてそのお礼にいい思いをさせて貰えるぐらいに思っとけば良いのに)
内心でそんな事を思っていると目の前に分かれ道が見えてきて立川が口を開く。
「んじゃ、月濱先輩。俺の用事はこっちなんで」
そう言うと立川は右の道へ歩いていく。
月濱も忙しなく動く人達を避けながら自分の買い物を済ませる為に左の道へと進んでいく。
(あれ?この店、閉店してる。まぁ、店も壊れちまってるし、やって行けなくなっちまったんだろうなぁ・・・)
店先に閉店を意味する看板が下げられている店、リコリス商会を見ながら月濱は溜息を一つ吐き言葉を漏らす。
「はぁ、参ったなぁ。アンナ、ベラ、ミランダの好きなお菓子はここでしか売ってないんだけどなぁ・・・」
正直、国がこんな時に菓子の事なんてどうでも良いだろうと思っているが言ったものを買って来ないと彼女達は機嫌を損ね仕事をしてくれない。
(美人だけど三人共そういう所は面倒くさいんだよなぁ・・・こんな時、あの子だったらどんな顔をしてるのかな・・・)
ルファルデ法国で出会った薬師の少女の事を思い出し、月濱は苦笑を浮かべる。
少し前までは彼女の事を自分たちが戦った魔王だと思っていたのだが落ち着いて考えてみるとやはり気のせいだと思うようになった。
(はぁ~、こんな時に不謹慎だけど会いたいなぁ・・・)
何ともなしにそんな事を考えていると目の前で子供が転んで泣きだす。
周囲を見回すが親がいる様子もなく仕方がなく少女に近づく。
「おい、大丈夫かい?」
大きな声で泣き続ける少女を立たせてやると膝を擦り剝いてしまったらしく血が出ている
ポーションを使えばすぐに治るような傷だが戦争前で物資を無駄にする訳にもいかずどうすれば良いかを考えていると後ろから声を掛けられる。
「あの、大丈夫ですか?」
振り返るとどこかで見た事がある様式の緑色のローブを着た少女が心配そうにこちらを見ている。
「あ、あぁ。この子が足を擦り剝いてしまったみたいで生憎とポーションの手持ちが無くって困っているんだ・・・」
心配そうにしている緑のローブの少女に嘘を交えつつ転んだ少女の事を告げると緑のローブの少女は成程とつぶやくと鞄の中から液体の入った瓶を取り出し、月濱の隣にしゃがみ込み転んだ少女に声を掛ける。
「今、お薬を塗るから少しだけ我慢してね。すぐに治るから」
そういって緑のローブの少女は脱脂綿に薬を染み込ませるとゆっくりと傷口に薬を塗る.
恐らくポーションだと思われる薬を塗られた少女の傷はみるみるうちに塞がって行き、痛みが消えたのか少女が泣き止む。
傷が治った少女はお礼を言うとまた駆けていきその場には月濱と緑のローブの少女だけが通り残される。
「ありがとうございました。俺は気軽にポーションが使えなかったので助かりました」
「いえ、お役に立てて良かったです」
笑顔で少女に手を振っていた緑のローブの少女に月濱からも礼を言うと緑のローブの少女は笑顔のまま役に立てて良かったという。
その笑みがルファルデ法国で出会ったリーフに似ていた気がして月濱は思わず質問を口にする。
「あの・・・ひょっとして同じ作りのローブを着たリーフさんというお姉さんがいませんか?」
笑みが似ていた事と髪の色が緑色な事から口にした質問に少女は一瞬、驚いたような顔をした後、口を開く。
「あ、はい。姉様のお知り合いでしたか・・・こんな所でお会いするとは驚きです‼」
驚いた様子でそう口にする少女に月濱はやはりリーフの妹だったかと思いながら口を開く。
「やはりそうでしたか、ルファルデ法国でお世話になりました。自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません。俺の名前は月濱 純也と言います。気軽にファーストネームで純也とでも呼んでください。」
月濱の自己紹介に少女は少しだけ苦笑交じり口を開く。
「ご丁寧な自己紹介をありがとうございます。私の名前はアリアと申します。姉様と同じく薬師をしながら旅をしています。まだお会いしたばかりなのでツキハマ様と呼ばせて頂きますね」
何時かのリーフと同じ様な理由で自分の名字を呼ぶアリアに少しだけ親しみを感じながら月濱はここ最近の暗い話題を忘れようとする様に口を開く。
「アリアさんですか。お姉さんと同じ様にいいお名前ですね。薬師との事ですがここにはお仕事で?」
月濱がアリアに此処に来た理由を尋ねるとアリアは顔から笑みを消し、悲しそうな顔をして口を開く。
「はい・・・近い内に戦争が起こると聞いて薬を持って来たんです」
「なるほど・・・ありがとうございます。きっとその薬で命を繋ぐ事が出来る人が沢山いると思います・・・」
アリアがクラシア王国に訪れた理由を聞き、月濱は心から礼を言うとアリアはポツリと言葉を続ける。
「本当は戦争なんてしないでさっきの女の子の怪我を治せるぐらいに気軽にポーションを使える国に出来たら良かったんですけどね・・・なんで戦争なんてするんですかね・・・」
アリアの言葉に何かを言おうと口を開きかけた所で遠くの方から声が聞こえて来る。
「アリア様‼そこに居られましたか‼」
「ティティさん‼」
冒険者のような恰好をした黄色の髪の女性がアリアに声を掛けるとアリアも手を振って冒険者の女性の名を呼ぶ。
「申し訳ありません。護衛をしてくださっている方が迎えに来てくださったのでこれで失礼しますね。お話できて良かったです」
先程までの悲しそうな顔から無理やり笑顔を作り女性の方へと駆けていくアリアの後姿を見送る月濱の頭には先程のアリアの言葉が渦巻いていた。
此処までの読了ありがとうございました。
今年も村娘Aをお読み頂きありがとうございました。
今年の更新はこれでお終いです。次回の更新は1/7になります。
来年もよろしくお願いします。




