アメリアの決意
おはようございます。
第248話投稿させて頂きます。
今回はコハク視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
「ふぅ・・・」
メルビス達との今後の事についての話し合いを終えて私は自室へと戻り、椅子に座って溜息を一つ吐く。
長時間の話し合いからくる疲労を誤魔化すためにすっかり冷めてしまった数時間前に狗神君が持って来てくれたお茶をカップに淹れ、喉を潤す。
冷めたお茶を飲みながら先程の自分の発言で見せた皆の顔を思い出す。
自分でも散々利用しておいてひどい仕打ちだと思うが現状と私の自身の現状を含めて考えると私達と居るよりオウルの所に居た方が助かる可能性が高い。
皆の怒った様な悲しそうな顔を思い出していると私の部屋のドアが控えめにノックされる。
「姉様。少し、宜しいですか?」
アメリアの声を聞き、急いでドアの前へと移動してドアを開けるとメイド長に連れられたアメリアが立っている。
何も心配はいらないのだが彼女がクラシア王国の王族という関係もあり安全上の問題と監視も含めてアメリアはこの城を一人で歩くことは許可されていない。
「どうしたの?」
少し俯き気味にアメリアに声を掛けると彼女は何かを決意したような表情で顔を上げて口を開く。
「姉様、少しお話をさせて頂いても宜しいですか?」
「良いよ。おいで」
「お茶をお持ちします」
アメリアを部屋の中へと招き入れ、メイド長がお茶を入れてくれて部屋から退出するのを見送ってから先程までと違い、私の事を真っ直ぐに見ているアメリアへと声を掛ける。
「それで、アメリア。話って何?」
「はい、姉様。私は姉様の国を出て祖国に戻ろうと思います」
私がアメリアに話の内容を聞こうと問い掛けると彼女は強い意志を宿した瞳で私の事を見ながらしっかりとした口調で予想していた事の一つを口にする。
「・・・本気なの?今の貴女はクラシア王国姫君でもなければ貴女の為に動いてくれる人も居ないのよ?今戻っても死ぬだけよ。許可できない」
予想していた言葉だった為にしっかりとした意志を持っているアメリアに向けて非常な現実を突き付けて思いとどまらせようとするが彼女も私の言葉を予想していたのか直ぐに口を開く。
「私の言った事に驚かないんですね・・・姉様の言う通りです今の私にはお婆様みたいに助けてくれる方も碌な権力も有りません。ですが、エリュナ姉さまを止める。姉様が自分のやらなければいけない事をやっているようにこれは私がやらないといけない事なんです。それに、完全に私の味方が居ないわけではないと思うんです。お婆様の考えに共感していた方やお婆様と交友の有る冒険者の方々も存じています。その方達を味方に付ければ勝機はあると思います」
恐らくこの子を止められない。そんな事を悟り、私は溜息を一つ吐く。
正直言ってアメリアを国に戻す事を私は許容したくはない。
立て続けに近しい人達が亡くなった事も有り、これ以上、大切な人達を喪いたくない。
「わかった・・・貴方の意思を尊重する」
「姉様‼」
そんな自分の我儘を飲み込み私はアメリアの言葉を受け入れると嬉しそうに私の事を呼ぶアメリアに私は二つ条件を付ける。
「ただし、二つ条件が有る。一つはうちの国からクラシアに行っても怪しまれない護衛を貴女に付ける。二つ目は絶対に死なないで。この二つが守れるならば貴女をクラシア王国へと返す」
正直に言うと一つ目はともかく二つ目は相当に難しいだろう・・・そんな酷な条件をわざと付けると彼女は少しだけ考える素振りを見せてしっかりと頷き、口を開く。
「分かりました。一つ目はむしろ感謝します。二つ目は最大限の努力をします」
アメリアは力強い言葉で私の条件を吞む。
二つ目の条件に関しては最大限という言葉を付けている所が現状を良く分かっている。
「・・・わかった。明日、護衛をする者と一緒に貴女をクラシアへと送る。私もクラシアまで同行する」
「・・・はい。姉様ありがとうございます」
「今日はもう休みなさい」
「はい」
それで会話を切り上げ、アメリアはドアの前で礼を一つして外で待機していたメイド長と共に自分の部屋へと戻る。
彼女を見送った後、私は溜息を一つ吐きベッドへと倒れこんだ。
翌日、クラシアに仕掛けていた転移陣は全て撤去してしまったので転移装置を使い、クラシアの首都から少し離れた森の中へと転移する。
「それじゃあ、アメリア。約束した事を覚えておいてね。」
変装してアメリアだとパッと見で分からなくなった彼女に声を掛ける。
「はい、姉様。お世話になりました」
「うん。ティティ。アメリアを頼む」
「はい、コハク様もお気を付けて」
アメリアの言葉に返事をしてから冒険者風の格好をした今回の護衛の女性に声を掛けると彼女は一礼をして返事をする。
「それではそろそろ行きます」
「うん、体に気を付けて・・・」
そう言ってフードを被り歩き出す彼女に手を振りながら見送っているとアメリアも振り返り、手を振り返す。
そんな事を数回繰り返した所でアメリアは足を止め、少し何かを考えてから私の方へと向けて走ってきて私に抱き着いて来る。
そんなアメリアの行動に多少驚きながら彼女を抱き留め抱きしめ返すとアメリアは小さな声で話し出す。
「姉様。私、頑張ります。今まで本当にありがとうございました。私は姉様と本当の姉妹になりたかったです」
もう二度と会えなくなるかもしれない。そんな意味も含まれた言葉に私も彼女をしっかり抱きしめながら言葉を返す。
「私は貴女を本当の妹だと思っているよ。二度と会えなくなるわけじゃないよ・・・また二人でお茶をしよう。それが出来る世界にしよう」
「はい。最後に情けない姿を見せてしまってすみませんでした。行ってきます。コハク姉様」
「行ってらっしゃい。アメリア」
私の言葉にアメリアは最後に笑みを作り大きく手を振って彼女の戦場へと向けてしっかりした足取りで歩いて行った。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




