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嵐の前の・・・

おはようございます。

第246話投稿させて頂きます。

先週はお休みさせていただき申し訳ありませんでした。また、ブックマークありがとうございます。とても励みになります。

今回はコハク視点です。

楽しんで頂ければ幸いです。

 良く晴れた晴天の中、黒い服を着た私と私に関係の有る人達が運ばれてくる棺を何も言わずに見送っている。

 結局、理由が分からないままレティにはポーションの類が一切効かず彼女はその深手から命を落としてしまった。

 この場にいる人間では私とネージュとアメリア、神薙さんと坂月さん以外にはレティと大した接点等ないのに彼女の葬儀に参加してくれている勇者を含めた皆には頭が下がる。

 メアがルファルデ法国から派遣してくれた司祭が祝詞を唱え、レティの眠る棺がゆっくりと埋められていく。

 自身の力不足を感じながら埋まっていく棺を只々無力感と共に見る。

 隣のアメリアは泣くのを我慢しているが我慢しきれないのかポロポロと涙が頬を伝って流れている。


「アメリア・・・こっちにおいで・・・」


 ネージュの手を繋いでいない方の手でアメリアを呼び空いている手で抱きしめてあげると小さく小さく啜り泣く声が聞こえて来る。

 よく聞くと少し離れた場所から坂月さんの嗚咽も聞こえて来る。

 そんな彼女達の泣く声を聞きながら私は小父様の時と同様、涙の一つも流さない自分がとことん冷たい人間だと改めて自覚する。

 薄情な自分に対し嫌悪と軽蔑をしながら泣きじゃくるアメリアの頭をレティの葬儀が終わるまで撫で続けた。



「どうすれば良かった・・・?」


 レティの葬儀を終えて各々に用意されている部屋へと解散し、崩れる様に椅子に座りながら私は誰に言うでもなくポツリと呟く。

 上を向きながらレティシアを助けるにはどうすれば良かったのか今更考えてもどうしようもないタラレバばかりを考えていると部屋のドアが控えめにノックされる。


「・・・はい」

「コハク・・・少しだけ良いか?」


 ノックに反応して返事をすると扉の向こうから此方を気遣うような狗神君の声が聞こえて来る。

 扉を開けるとそこには軽食を乗せたトレーを持った狗神君が立っている。


「開けてくれてありがとう。昨日から何も食べてないだろ?お茶でもしながら少しだけ話をしないか?」


 そう言って控えめに笑う彼を無下にする訳にもいかずに部屋の中へと招き入れると彼は以外にも慣れた手つきで軽食等をテーブルにセットしていく。


「メイド長やリューンさんに教わってみたんだ」


 私の視線に気が付いたのか彼は少しだけ苦笑を浮かべながらカップにお茶を注ぎ差し出してくれる。


「・・・ありがとう」


 食欲も無く喉も乾いている感覚も無かったがお礼を言い受け取りゆっくりとカップに口を付ける。

 私が飲み物に口を付けた事に少しだけ安堵したような様子を見せて狗神君も空いている椅子へと座る。

 自分で感じていた以上に喉が渇いていたらしくカップの中身を数回に分けて飲み干す。


「いろいろと連続して大変だったな・・・」


 私がカップをソーサーに置いたのを見てから狗神君はゆっくりと口を開く。


「・・・私は別に何も大変じゃなかったよ」


 狗神君に声を掛けられやっとの事でそれだけを口にする。

 正直、大変だったのは皆の足を引っ張った私の尻拭いをした狗神君達や小父様を失った憤怒の国や怖い思いをしたアメリア達の方だ。


「実際、コハクも大変だっただろ。身近な人達が立て続けに亡くなったんだ。それだけでも十分に大変な事だよ」


 私の言葉を聞き、狗神君は穏やかにその言葉を否定するが私は自嘲の笑みを浮かべながら口を開く。


「本当に親しかったのかな・・・私は小父様の時にもレティの時にも涙一つ流せない人間だよ?正直、私にかかわらなければ・・・」

「それ以上は駄目だよ。コハク」


 私の言葉を今度は少々怒った様子で遮り、狗神君は言葉を続ける。


「落ち込むのも自分を怒るのも今は良い。次に進む為の工程だからね。でも、自分を卑下したり亡くなった人との関係を疑うのは駄目だ。亡くなった人達にも失礼だし、その考え方は次に進むのに何にも役に立たない」


 そう言って立ち上がって私の持っているカップを取り、お茶のお代わりを淹れ、カップを返してくれながら口を開く。


「それにさ、すぐに泣けなくたって気に病む事なんてないんだよ。今はまだ、気持ちが追い付いてないだけさ。今のコハクに必要なのはしっかり食事を摂ってゆっくり休む事だよ」


 そう言ってお皿の上のサンドウィッチを一つ取り私に渡して来るのを受け取り、ゆっくりと口に含む。


「よし、取り敢えず食事をしてくれて良かったよ。コハクと話したかったのも本当だけどメイド長達もアメリアさんもコハクが食事して無いのを心配していたから良い報告が出来るよ」


 そう言うと狗神君は立ち上がり、扉の方に向かう。


「さて、俺はそろそろお暇するよ。コハク。持ってきた物は食べられる範囲でいいからちゃんと食べてくれな」

「・・・ありがとう」

「どういたしまして」


 二ッと笑いながらそういう彼に何とかお礼を言うと狗神君は取っ手に手を掛けるなんとなく彼が言ってしまうのが寂しく感じたのか彼に向かって声を掛けようとするとドタドタとあまりこの城で聞いた事の無い足音が聞こえて来てドアが勢いよく開かれる。


「ぐぇ‼」


 ドアの前に居た狗神君が盛大にドアにぶつかり悲鳴を上げるのと同時に珍しくメイド長が焦っている様な表情で部屋に駆け込んでくる。


「イヌガミ様、申し訳ありません!コハク様‼至急、イヌガミ様と共にメルビス宰相の執務室までお越しください‼」


 彼女にしては珍しく狗神君への謝罪をそこそこに用件だけを伝え、別の場所へと向けて駆けて行く。

 恐らく、夢菜さん達他の勇者達の所へと向かったのだろう。

 そんな彼女の態度に私と鼻を思いっ切りぶつけたらしい狗神君は不安を覚えながら執務室へと向けて動き出した。


此処までの読了ありがとうございました。

次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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