転移陣に散る赤・1
おはようございます。
第243話投稿させて頂きます。
今回は和登視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
クリストさんが亡くなってから数日が経ち俺達はこれまで以上に訓練に精を出していた。
本来なら今の時期には次の敵の出現場所と対策を話し合うのだがフェル達を含め俺達はコハクの事はあの日以降顔を見ていない。一応、クリストさんのお墓参りに入ったみたいだけどそれ以降は部屋に閉じ籠ったままで無気力に過ごしているらしい。
「部屋に顔を見に行った方が良いのかな・・・」
模擬戦中に乾の攻撃をいなしながらポツリと呟くと乾が不機嫌そうに口を開く。
「畜生、上の空で軽くいなしやがる・・・ぜってぇ泣かす」
ムッとした様子で攻撃の手が多くなった乾の攻撃を全ていなし、乾との距離を詰めて木剣を首に突き付ける。
「・・・くそ、参った。ありがとうございました」
「ありがとうございました」
悔しそうに降参してお礼を言う乾にお礼を返してから試合場から出て戌夜と早乙女さん、湊瀬さんペアの試合を乾と並んで見る。
「で?何時になったら顔を見に行くんだ?」
「は?」
座って模擬戦が始まるのを待っていると乾が唐突に俺にそんなことを聞いてくる。
直ぐには反応できずに疑問符を浮かべていると乾はジトっとした目で俺を見ながら口を開く。
「は?じゃねぇよ・・・さっき模擬戦をしている時も部屋に顔を見に行った方が良いのかな・・・とか言ってただろが」
どうやらポツリと呟いた言葉を聞かれていたらしく乾は眉を顰めながら「別の事考えながら軽くいなしやがって・・・」と続けて俺の言葉を促す。
「アー、その悪かった・・・でも、顔を見には行かないさ。コハクも今は誰にも会いたくないだろうし・・・」
俺の言葉を聞いて乾はさらに眉を顰めて口を開こうとすると城の廊下側の方から誰かの声が聞こえて来る。
「魔王様‼どこに行かれるのですか‼誰か‼メルビス様を呼んで来い‼」
焦った様子の声に続いてバタバタと誰かが走る音が訓練場の壁の向こうから聞こえて来る。
何が起きたのかと戌夜達も模擬戦を止め訓練場のドアを開けると足音が去って行った方向とは逆の方からメルビスさんが走って来る。
「メルビスさん。誰かがコハクの事を言っていたみたいですが何が有ったんですか?」
「道中で説明します。宜しければ御一緒に来て下さい」
俺の質問にメルビスさんは少しだけ考えた後で説明する手間を惜しんだのか同行することを提案してくる。
何時もと違いどこか余裕の無いメルビスさんの提案に俺達は乗り、メルビスさんに付いて一緒に走り出す。
目的地に向かって走る途中でメルビスさんは何が起こっているのかを話してくれる。
どうやらコハクが部屋から飛び出し、どこかに向かっているらしい。直ぐに後を追ったメイド長とリューンさんからの話によると俺も行った事の有る転移陣のある部屋へと向かっているらしい。
そこまでを話終えた所で漸く転移陣のある部屋へと辿り着いた所で転移陣ある所から声が聞こえて来る。
「二人とも本当にありがとう。行ってきます」
「「いってらっしゃいませ」」
部屋に中に入った途端にそんな声と共にパッと周囲が明るく光りコハクがどこかに向かって転送されていく。
「メイド長‼なぜ今のコハク様だけで行かせたのですか‼リューンも‼
何故止めなかったのです‼」
メルビスさんは部屋に入ってすぐに腰を折り、コハクを送り出した二人に向けて声を荒げながら詰め寄る。
リューンさんは少しだけ驚いた様子だがメイド長はすっと表情を引き締めてメルビスさんへと返答をする。
「メルビス宰相、落ち着きなさいな。わたくし達が止めて止まってくれる方ではないのは貴方だって知ってらっしゃるでしょう?」
「ですが・・・」
メイド長の言葉にメルビスさんは反論しようと口を開くがその前にメイド長が再び口を開く。
「それに今ここでコハク様を引き留めて取り返しのつかない事になればあの方はわたくし達を絶対に許さないわ。貴方にそれが耐えられる?」
「うぐぅ・・・」
メイド長の続く言葉にメルビスさんは呻き声をあげそれ以上何も言えなくなってしまう。
まぁ、自分の娘とまで言い切った人に絶対に許されないと言われたら心に来るものが有るんだろう・・・
「父さん。心理的な物を出された時点で父さんの負け・・・」
胸を押さえて呻くメルビスさんにリューンさんが死体蹴りを行う。
そんな二人を見ながらメイド長はリューンさんに向けて指示を飛ばす。
「リューン。コハク様が連れて来られる方達の為に部屋を用意する様に皆に伝えて頂戴。恐らくだけど4部屋用意すればいいと思うわ」
「わかりました。メイド長」
嫌われた所を明確に想像したのかとうとう床に倒れこんでしまったメルビスさんを無視してメイド長はリューンさんに指示を飛ばし、リューンさんが敬礼をして外へと駆けて行く。
「さて、わたくし達はここでコハク様のお帰りをお待ちしますが皆様はどうなさいますか?」
「「「「待ちます」」」」
「・・・すんませんが俺は一度、席を外させてもらうっす。コハクが出て行ってしまったんならちっさいのが一人になっちまう。ちょっと探して来るっす」
乾以外の4人がここでコハクを待つと意思表示をする中で以外にも乾はネージュの事を心配していた様でネージュを探して来るという。
その言葉を聞いてメイド長は一つ頷くと口を開く。
「かしこまりました。全員分の椅子を用意してまいります。イヌイ様。大変申し訳ございませんがネージュの事を宜しくお願い致します」
そう言うとメイド長と乾が部屋から出て行く。
「あ、私も手伝います」
「私も」
その後を早乙女さんと湊瀬さんが後を追っていく。
そして俺達はコハクが戻るまでの時間をヤキモキした気持ちで待つ事になった。
此処までの読了ありがとうございました。
次回も和登視点ですごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




