間一髪
おはようございます。
第240話投稿させて頂きます。
ブックマークありがとうございます。とても励みになります。
また、誤字・脱字報告もありがとうございました。
今回はコハク視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
アメリアから切羽詰まった通信を受けてから数分、私は何時ものコート姿で城の廊下を全力疾走していた。
途中、今の私の状況を知る人達が驚いたような視線を向けて来るが今はそんなことにかまっていられない。
驚いたような視線と何が起きているのかわからないといった様子の視線の中を走る事数十分リクラシア王国に有るコリス商会へと飛ぶために作ってある魔法陣の前に立つと唐突に後ろから声を掛けられる。
「お待ちください‼コハク様‼」
急いでいる時に呼び止められて少しだけイラつきながらも声のした方を向くとメイド長とリューンが慌てた様子で両手に様々な物を持って私の方へと駆けて来る。
どうやら私がこの格好で駆けて行くのを見て何かしらの異常事態を感じて急いで用意して追いかけて来たのだろう。
「止めても無駄だぞ。メリッサ、リューン。私はあの子達を助けに行く」
珍しく肩で息をしているメイド長の方を見ずに転移陣を起動させる為に一歩踏み出そうとするとグイっと勢いよく襟首を引っ張られるのと同時に少しだけ怒気の籠ったメイド長の声が聞こえる。
「ええ‼メル坊と違ってわたくしは止めるつもりは滅相有りませんわ‼ただコハク様‼冷静になって自分の格好を見てくださいませ‼」
そう言われて私はイラつきながらも自分の格好を見直す。
黒いコートに黒いズボン、その下には普段冒険者の時に使っている白いスカートと白い上着だ。
何時もの姿である事に訝しむ様に見るとメイド長は心配そうな、呆れたような顔で口を開く。
「ご自身の格好を見てもまだ分からないのなら相当冷静さを欠いておられますね。良いですかコハク様その格好でクラシア王国に行けばどうなるのか改めて考えてくださいませ‼」
あの子達という言葉で何処に行くのかを察したメイド長がドンピシャで国名を当てて緑色のフーデットケープを差し出して来る。
それを見て私は漸くメイド長の言いたい事が分かり少しだけ頭の芯が冷える。
今の私は魔王丸出しの格好だ。この格好のままでクラシアに行けば有る事無い事全て魔族の所為にされかねない。てか、確実にされる。
だからと言ってコユキの格好で行ってもまた面倒な事になってしまうので要は第三者に変装しろと言いたいのだ。
そこまでを考えながら私は黒コートを脱ぎ、リューンに渡してメイド長から緑色のフーデットケープを受け取りながら口を開く。
「メリッサ、リューン。ごめん。ありがとう・・・」
自分の浅はかさに多少恥ずかしくなりながら二人にお礼を言うとメイド長が少しだけ表情を柔らかくした後でピシッと引き締めてから口を開く。
「一度、リコリス商会に飛ぶのならリコリス商会を出てから着用されるのが良いと思います。レティシア様、アメリア様達のお部屋を用意してお待ちしています。クリスト様がそのお命を使ってまでコハク様の事を生かしたのです。どうか無理をなさりませんように」
そう言うと二人は私から数歩離れて転移に巻き込まれない様にする。
「二人とも本当にありがとう。行ってきます」
「「いってらっしゃいませ」」
二人にそう伝えて転移を開始し、二人が腰を折って見送ってくれるのと同時にドアが開き、メルビスと狗神君達が駆け込んで来るのを見ながら私は一度リコリス商会へと向かう。
リコリス商会に着くと直ぐに何時もと様子が違う事に気が付く。
転移陣のある地下の上の方から大勢の足音がバタバタと慌ただしく動き回る気配がする。
急いで階段を駆け上り隠し部屋の扉を開け更に店へとつながる扉を開けて店の中へと飛び込む。
店内に飛び込むといつもと違う店の風景が目に飛び込んでくる。
通常時はお客さんで賑わっている店内が荒らされ、黒いフードを被り、剣を持った複数人の不審者が私の店の子達と対峙している。
ちょうどお客さんが来ていた時に襲撃に遇ったらしく彼女達の後ろには大勢のお客さんの姿が見える。
戦況はお客さんを庇っている為かうちの店の子達がやや劣勢で押されている。
そこまでを判断して私は迅速に襲撃者達へと駆けて行き、剣を引き抜き後ろから襲撃者達の首を刎ねる。
「会頭‼」
私の急な登場にアリアや周囲の人々が嬉しそうな声を上げる。
そんな声の上がる中、私の奇襲により体勢を崩した連中を全て処分し、安全を確保する。
手に入れられそうな情報?そんな物は後でいくらでも手に入る。
何かを言いに来たそうにしている店の子達に敵の死体の処理と店内の清掃、お客さんへの対応を指示出して私はレティとアメリアの居る離宮へと急ぐ。
店から出ると町の中も同じようになっておりあちらこちらで先程と同じ連中が暴れ回っている。
———レティとアメリア以外この国の人間なんてどうでもいいな・・・
ここ最近起きた出来事と狗神君にされた仕打ちを思い出し、そんな思考の下であちらこちらから上がる悲鳴を無視しながら走りだし、メイド長が渡してくれたフーデットケープを着込み離宮へと向かう。
「邪魔だ。退け‼」
道中で町の人を襲っている黒フードの連中を切り殺しながらようやく離宮に辿り着くとやはり離宮も異様な雰囲気に包まれており門番の男性やここで働いていた人達の遺体が周囲に転がっている。
———異常事態が起きた時のレティとの取り決めは援軍が来るまで彼女の部屋の隠し部屋で待機・・・恐らくだけどアメリアしかいないだろうな・・・アメリアの保護を最優先しよう。
そう考えて門番の遺体の脇を通り抜け何度も言ったレティシアの部屋へと駆け出す。
敵を排除しながら次の角を曲がればレティシアの部屋という所まで来るとレティシアの部屋の辺りから声が聞こえて来るので角に隠れて会話を盗み聞く。
「たく、ブツジマの野郎。自分が可愛い女の食いたいだけじゃねえか」
「まぁ、落ち着けよ。あの娘はあの方への献上品だいくら異世界人だと言ってもさすがに手は出さねぇだろ」
「そうだと良いけどな・・・たく、俺もどこかで女で・・・」
レティシアの部屋の前で不満げに会話をしている二人の話を聞いて私は死角から飛び出し見張りとの距離を一瞬で詰め、その首を刎ね飛ばす。
レティシアの部屋の前で行われていた不穏な会話を聞き、最悪の情景を思い浮かべながらドアの取っ手に手を掛けるとガチっと鍵が私の行く手を阻む。
嫌な予感が強くなっていくのを感じながら扉に耳を付けて中の様子を探ると中から男の声と衣擦れの音が微かに聞こえて来る。
その音を聞いた途端に頭に血が上り、私は身体強化の魔法を自分の体に施して行く手を邪魔する扉を思いっきり蹴りつける。
ガン‼っと大きな音を立てて吹き飛ぶ扉と共に部屋の中へと駆け込むとレティシアのベッドに押し倒され男に馬乗りになられて恐怖から涙を浮かべて目を瞑るアメリアの姿が目に入る。
「んあ?なんだぁ?ぶ・・・」
私の乱入に驚いた男の顔面を蹴り、隠し部屋の方へと飛ばしてアメリアの上からどかし、彼女の状態を確認する。
幸いな事に衣服に乱れは有るがまだ取り返しのつかない状態にはなっていない様子な事に内心安心しながらアメリアに向けて視界妨害と聴覚妨害の魔法を掛けてアメリアから視覚的聴覚的な情報を取り上げる。
いきなりの魔法で彼女の精神面への負担が些か心配になるが今から起こる事を見せるよりは良いと判断して魔法を使ってから私はゆっくりと男を蹴り飛ばした隠し部屋へと明確な殺意を持ちながら歩き出した。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




