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失った物

おはようございます。

第237話投稿させて頂きます。

今回はコハク視点です。

楽しんで頂ければ幸いです。

 シトシトと細かく降る雨の中、私は潰れた顔の左半分を黒い布で覆い、毒で裂けた皮膚を同色の包帯で隠し、黒のワンピースに花を持って遺体の無いお墓の前に立っている。


「コハク様、お体に障ります。そろそろ戻りましょう・・・」


 花を置いてしばらくその場に佇んでいると無理矢理に付いてきたリューンが傘を私に差しながら心配した様子で話しかけてくる。


「・・・リューン。私の行動は間違いだったのかな・・・?」


 そんなリューンの言葉を無視して私は生気の無い声音で質問を投げ掛ける。

 私がそう問い掛けるとリューンは少しだけ首を横に振り、複雑そうな顔をしながらも口を開く。


「私ではその判断は出来ません。でも、私はコハク様に変わってほしくは有りません・・・。」

「・・・」


 リューンが慰める様にそう言ってくれるが私は何も言葉を返せずに立ち尽くす。


「コハク様、レグナード様に許可を頂いていますが現状の憤怒の国にコハク様が長居をするのは良くは御座いません。一度、国に戻りましょう?」


 小父様が亡くなり、憤怒の国の一部の人達はその原因となった私へと責任を追及している。新しく憤怒の魔王になったレグナードさんが私の入国許可を出してくれたとは言え、長居をする事が好ましい状況ではない。

 此処で現状を少しだけ説明させてもらおう。

 結局、私はオウルに薬を打たれた後、二日程眠り、その間に今回の戦いでの戦死者と小父様の葬儀、私を除いた魔王達で緊急の会議を行い。そこで今回の出来事の顛末とレグナードさんの魔王就任が報告されたらしい。

 その会議でまたグリドが騒ぎ、私に責任を取らせろと言ったらしいがフェル、オウル、レグナードさん達に言い負かされた上に他の魔王からも総スカンを喰らったらしく渋々黙ったらしい。

 私の方は先に言った通り二日眠った後は毒によって出来た傷の治療を行い公務も行っているがどう言った訳か以前ほど動く事が出来ずメルビスにも休む様にと念を押されてメイド長達監視の下で今日まで部屋に引き籠る事になってしまった。

 そして今日、数日間そのまま何をするでもなく過ごしていた私を見かねたメイド長とリューンが小父様のお墓参りに行くべきだと言い出して部屋から出され更に一人で大丈夫だと言ったのにリューンが無理に付いてくる事となった。

 そんな事を考えつつリューンの言葉に頷き、転移陣へと向けて歩き出すと対面から憤怒の国の国民の男性が二人歩いてくる。

 お互いに邪魔にならない様に道の端に避け、頭を下げてすれ違う。


「それにしても今回のクリスト様の崩御って黄昏の魔王が原因なんだろ?クリスト様の死に対して新魔王のレグナード様は黄昏の魔王に抗議しないとは・・・一体どういうつもりなのかね?」

「まぁ、黄昏の魔王は先代様の御気に入りだったからな。その辺の配慮じゃねぇか?」

「それにしても死者も多数出ているっていうのに何の制裁も無く黄昏の国とは今まで通りの付き合いを続けるってのが納得できねぇぜ・・・」

「まぁ、このご時世だしな。敵はあまり作りたくねぇんだろうよ」


 そんな会話を大きな声で話しながら歩いて行く二人の言葉を聞き、私の内心は更に沈み込んでいく。


「何も知らない一般人が・・・好き勝手な事を言って・・・・」

「リューン。彼らの不満ももっともだよ・・・」


 普段の黒コートではなかったからか私が黄昏の魔王だとは気が付かなかったのであろう二人の男性を睨みながら唸る様に呟くリューンを宥めながら誰にも気づかれない様に転移陣まで行き、国に帰る。


「お帰りなさいませ。コハク様。リューンも付き添いご苦労様」


 国に戻ると心配していたのであろうメイド長が出迎えてくれる。


「うん・・・ただいま・・・」

「ただいま戻りました」


 メイド長に軽く挨拶を済ませると私は特に何も訊くことなく自分の部屋へと向けて歩き出す。

 あの日から狗神君達は訓練の量を増やしたらしく最近引き籠っている事も有り、顔を見ていないが元気らしい事は報告されているので取り敢えずは大丈夫だろう。

 そんな事を思いながら部屋の扉を閉め簡素な部屋着に着替えてベッドへと横になる。

 やらなければいけない事は多々有るがあの日から何かが抜け落ちた様に何も手に付かない。

 ベッドの柔らかさにゆっくりと目を瞑ると思考がゆっくりと闇に包まれて行き、思ったよりも精神的に来ていた一日を早々に終えた。

 そんな思考を停止した日々を何日か続けたある日、私の通信機へと連絡が入り私は緩慢な動きで通信機を手に取り通信をオンにする。

 通信をオンにして耳に着けると相手側の焦ったような声が聞こえる。


「姉様‼お願い助けて‼」


 アメリアの悲鳴の混じった声に何かが抜け落ちた思考が一気に覚醒し、声を上げる。


「アメリア‼どうしたの‼何が有った‼」


 私の声を聞き少しだけ落ち着きを取り戻したアメリアは泣きそうな声になりながらも現状を報告してくる。


「所属不明の人達が急に攻めて来て・・・お婆様とカンナギ様達が応戦していて・・・」

「直ぐに行く‼隠れて待っていなさい‼」


 途切れ途切れに何とか報告をしてくるアメリアにそれだけ言い通信機を繋げたまま直ぐに何時もの装備を身に着けると私は急いで転移装置へと向けて走り出した。


此処までの読了ありがとうございました。

次回もごゆるりとお待ちいただければ幸いです。

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