強くなると決めた時
おはようございます。
第234話投稿させて頂きます。
今回は前半はコハク視点で星の後は夢菜視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
小父様が最後に切られる光景を最後に回廊の入り口は無情にも閉じ、私はフェルに引っ張られながら見慣れた回廊を移動する。
普段でも力負けするフェルに不調のままの肉体で対抗できる訳もないが些細な抵抗ながらも反対方向へと向かおうとする私をズルズルと引き摺りながらフェル達と回廊を歩くと少し離れた場所に明かりが見える。
「フェル・・・お願い・・・私を離して・・・あいつらの所に戻る・・・」
普段の自分なら絶対にしないと自分でも解る事をフェルへと伝える。
小父様がもう助からない事は解っているがどうしても小父様やこの戦いで死んでいった者達の遺体を奴らの前に残して置きたくはなかった。
「却下だ・・・気持ちは解るが却下された理由も解るだろ・・・」
フェルも私の心情を察してくれているらしく手の力を緩めることなく出口へと歩を進める。
少しして周囲に音と光が戻り俄かに騒がしくなる。
「魔王様‼」
「フェル‼コハク‼和登‼」
「コハクちゃん。狗神先輩‼」
「先輩‼コハクさん‼」
「コハクちゃん‼」
「狗神‼コハク‼フェル‼」
回廊を抜けた途端にそんな声と共に周囲を人に囲まれる。
突然、皆に声を掛けられた事とこれまでの疲れからか珍しくフェルも驚いたらしく私の腕を掴んでいた力が弱まる。
その瞬間に今度も私は普段なら絶対に取らない行動をとる。
「あ‼おい‼」
「コハク‼」
フェルの腕を振り払い。二人の静止の声を無視して私は閉じかけている回廊へと走り、両手を閉じかけの回廊へと突っ込む。
「ぐ・・・・」
閉じかけの回廊の淵に手を掛け無理矢理開こうとすると包帯を巻いた腕から血が滲み出て痛みが走る。
パキパキという音と共に閉じかけていた回廊が壊れていくのと同時に私の中でも何かが音を立てて壊れていく・・・
「コハク‼」
何かが壊れていく音を聞きながら閉じようとしていく回廊を抉じ開けようとしていると狗神君が声を掛けてくれるが私はそれを無視して体をボロボロにしながら回廊を抉じ開け様とし続ける。
その私の異様な様子に周囲の人達も私の事を止めようと寄って来る。
それらを無視しバキバキと回廊と自分の中の何かを壊していると不意に首元に何かを押し当てられる。
その何かからプシュっと音が鳴るのと同時に体から力が抜け意識が遠のいていく。
「・・・おうる」
ぐらりと体が揺れ倒れる寸前に見たこの症状を引き起こした人物を睨みながら呂律の回らなくなった口でそれだけを言うと私の意識は闇の中へと沈んでいった・・・
☆
「・・・おうる」
恨みがましい声音で一言そう言い後ろに倒れるコハクちゃんを近くにいた狗神先輩と一緒に慌てて支える。
「オウル‼何を打った⁉」
突然のオウルさん行動にフェルさんも驚いたのか片腕でオウルさんの肩を掴み問い掛ける。
オウルさんはフェルさんの失った片腕を見てから溜息を一つ吐き、口を開く。
「安心しろただの強力な睡眠薬だ。怪我の治療中に勝手な動きをされた上にこれ以上傷を広げられたら堪ったもんじゃねぇからな・・・フェルもその傷をもっとちゃんと治療してもらえ・・・お前はまだ生きてるんだらからな・・・治療を受けたら報告を頼む。メイド長さん‼コハクを部屋へ連れてってやってください。和登も一緒に診察を受けて来い」
オウルさんがそう言うと医療スタッフの人達が狗神先輩とフェルさんを連れて行く。
「皆は俺と一緒に会議室へ・・・あと、レグナード殿も俺達と共に来てくれ」
二人を見送った後にオウルさんは私達を連れて会議室へと移動をする。その道中で憤怒の魔王さんの側近をしていたレグナードさんを見つけると彼も一緒に会議室へと移動する。
会議室に移動するとそこには宰相のメルビスさんもおり、一緒に先輩達が来るのを待つ。
しばらく待機していると狗神先輩とフェルさんが治療を終えて会議室へと入って来る。
会議室に入ってきたフェルさんの腕に木で出来た仮の義手が着けられているのが痛々しい。
「さて、一通りの治療も終わったことだし、フェル。和登。何が有ったか教えてくれ」
椅子に座り、ヴァネッサさんが入れてくれたお茶を一口飲んで全員が人心地着いた所でオウルさんがフェルさんと狗神先輩へと話題を振り、私達が分断された後の話をするように促す。
フェルさんは大きな溜息を吐いた後で私達と分断された後の事を口にする。
話の内容を聞き、私は何とも言えない心境のまま言葉を失ってしまう。
一緒に戻って来なかった時点で察していたがまさかレクセウスさん達に続いてクリストさんまでもが落命してしまうとは思ってもいなかった・・・だけど、それと同時にコハクちゃん取った普段では考えられないような行動にも妙に納得してしまった。
———やっぱり親しかった人が亡くなるのは辛いなぁ・・・
親しくしてもらっていた人達の死に少しだけ泣きそうにしているとレグナードさんが口を開く。
「話は分かりました・・・取り敢えず我々は国へと戻りクリスト様の崩御を通達します・・・葬儀の日付は後日に・・・」
そう言って席を立ち、メルビスさんに転移装置の使用許可を取ると憤怒の国の生き残りの人達を連れて早々に国へと戻って行く。
「取り敢えず。皆さんお疲れ様でした・・・思う所は多いでしょうが後の事は我々に任せて今日は休んでください」
レグナードさん達を見送った後でメルビスさんにそう言われてしまい。私達はオウルさん達を会議室に残して退出することになった。
ショックな報告を聞き、誰も何も喋ることなく解散し、私は一人、人気のない所へと足を運びズルズルと壁に背を預けて床に座り込み今回の戦闘を振り返る。
———もっと私達が上手く動けていれば生き残れた人はもっと多かったのかな・・・
今回の戦いでどうすれば良かったとかどんな風に動けば違ったとかそんな事を頭の中でグルグルと考えていると段々と親しい人達を失った悲しみと不甲斐なさに涙が出てくる。
「夢ちゃん?」
一人で落ち込み泣きかけていると戌夜君が驚いた様子で声を掛けてくれる。
「戌夜君・・・」
「隣、座ってもいい?」
涙声で彼の名を呼ぶと彼は少し困ったように笑みを浮かべて隣に座っても良いかと許可を取って来るので頷いて答えるとゆっくりと私の隣に腰掛ける。
「こんな所で泣いてどうしたの?」
私の隣に腰掛けると彼はちょっとだけ困った様子で私が泣いている原因を問いかけてくる。
そんな彼に私は今回の戦いでもっとうまく動けていれば死傷者が減らせたのではないかとか今まで自分達ではあまり役に立たなかったことが不甲斐ないとかヴィレドさん。マティスさんに続いてレクセウスさんやクリストさん等の親しい人達が死ぬことが耐えられないなどの事を話す。
そんな私の話を聞いて戌夜君は一つ頷くと口を開く。
「強くなろう。今回の戦いで僕も改めて力不足を痛感させられたよ。だからさ、夢ちゃん。今は泣いて泣き止んだら強くなろうよ。今度はコハクさんも皆も守れるぐらいに・・・きっと先輩達や光さんも同じことを思ってると思うよ」
「・・・強くなれるかな…?」
彼の言葉にそんな疑問をぶつけると彼はニッと人好きのする笑みを浮かべると口を開く。
「皆でならできるよ」
そんな事を笑顔で言われて私も涙を拭いて強く頷く。
守れなかった人も多いし、これからも守れない人は出るかもしれないがこれ以上大切になった人達を失わない為に私達は強くなる事をこの時に誓ったのだった。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




