犠牲と撤退・6
おはようございます。
第233話投稿させて頂きます。
今回はコハク視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
「あは♪利用するも何も余っている人員を有効活用しているだけだよん♪人材は有効活用しないと適材適所だったでしょ♪」
全身の痛みを押さえつけながら発した私の怒鳴り声に目の前の金髪金目の少女はあっけからんといった様子でニコニコと笑いながら私の問いに答えると体勢を立て直し、一気に距離を詰めてくる。
「それよりも怒るのも良いけど大丈夫?君の手数が減っちゃったよ♪そんなんで僕と切り合えるの?」
《ラファエル》のスキルによって刃の中ほどから折れ、砕けてしまった《カグツチ》を見ながら剣を振るうエリス・ケールの剣を《オカミノカミ》で受け流しながら折れた《カグツチ》を振るう。
「関係ないさ。私は別に貴女を殺しに来た訳ではないからね」
呪毒の所為で出来、ポーションでも治りきらずに未だにジュクジュクと痛む傷が残る左手に握られた《カグツチ》を握りなおしながらエリス・ケールの問いに答える。
実際問題、私の目的は夢菜さん達が黄昏の国へと撤退する時間稼ぎでエリス・ケールを殺す事ではない。てか、今の私では実力的にも体力的にも不可能だ。
そんな事を考えてエリス・ケールの問いに答えると彼女は面白くなさそうに目細めて口を開く。
「うーん。仲間を痛めつける程度じゃまだまだ本気にならないか~。やっぱり誰か殺すしかないかな~」
そう言いながら笑みを消し、剣をクルリと回すと私へと向けて突っ込んでくる。
その攻撃を何とか折れた《カグツチ》で受け流し、《オカミノカミ》を突き立てるとエリス・ケールも私の攻撃を避け、蹴りを繰り出して来る。
そんな攻防を何度か繰り返した時に通信機から夢菜さんの声が聞こえてくる。
『皆‼私達は全員撤退出来たよ‼急いで戻ってきて‼』
夢菜さんから待ちに待った全員撤退の知らせを受け、狗神君の方に目をやると狗神君達にも夢菜さんの通信が届いていたらしく撤退の為にゲートを開く。
それに伴い、私もエリス・ケールに向けて蹴りを食らわせ距離を取る。
「うげ♪」
私の蹴りを諸に腹部に受け少しコミカルに声を漏らしながら蹴り飛ばされるエリス・ケールを確認してから狗神君達の方に向かって走り出そうとしてガクンと左足から力が抜ける。
「‼」
此処までに来るのに無理をし過ぎた反動でとうとう体が限界を迎えたらしく踏ん張れずに私はそのまま重力に逆らえず地面に体を強かに打ち付ける。
「っ・・・・」
地面に体を打ち付けた痛みに顔を顰めながらも何とか狗神君達の所へと辿り着こうといきなり動かなくなった体を無理矢理引き摺りながら目的地を目指す。
「コハク。無理をするな。俺が連れて行く」
体を引き摺って移動して少しした所でそんな声と共にひょいっと持ち上げられ片腕で抱きしめるように抱き上げられ抱き上げた人物が走り出す。
「よく頑張ってくれた・・・」
顔を上げると片腕を失った小父様が悔しそうに顔を歪めながら必死に狗神君達の居る場所へと向けて走っている。
「・・・いえ、全て私の甘さが招いた結果です」
私達から少し離れた場所で虚ろな目のまま立っている葵さんを見て今度は私が悔しく思いながら答えると小父様が口元に笑みを浮かべて口を開く。
「いや、コハクはそのままで良い。これからもそのままでいてくれ。だから今回の事も今から起こる事もお前が気にする事は何もない。それから・・・許せ」
そう言った小父様に何かを答えようとした途端に体が浮くような感覚と共に周囲が先程よりも速い速度で通り過ぎていく。
「危ねぇ‼」
些か焦った声と共に浮遊感が消え、少しの衝撃と共に周囲の加速が止まる。
見ると狗神君とフェルが私の事を受け止めてくれたらしく驚いた顔で私が投げられた方向を見ている。
「行けぇ‼フェル殿‼ワト殿‼コハクの事を頼む‼」
二人に支えられながら何とか立ち上がると小父様が大きな声でそう言い私は慌てて小父様の方に目を向けて私は思わず言葉を失う。
目を向けた先には後ろから腹部をエリス・ケールに突き刺され口から血を流しながら黒い刀身を掴んでいる小父様の姿が目に入る。
「小父様‼」
悲鳴に近い声を上げながら愚かにも小父様へと向けて走り出そうとする私をフェルが手を掴み引き止め狗神君が開いたゲートへと引き摺って行く。
「コハク!行くぞ‼おっさんの犠牲を無駄にするな‼分かるだろ‼和登行くぞ‼」
私の手を引きながら狗神君に声を掛けフェルは私達を連れてゲートを潜る。
ゲートが閉じる寸前に意味もなく小父様と叫ぶ私が見たのは腹部に突き刺された剣を振り抜かれて大量の血を噴き出している小父様の姿だった。
☆
「あ~あ♪逃げられちゃった♪まぁ、一人殺したし次はもっと楽しめるかな♪」
剣に付いた血を振り払い、一人犠牲になった人物を見ながら私はさほど残念に思いもせずそんな言葉を口にする。
「まぁ、この人の考えも分かるしわざわざ馬鹿に首を献上してやる義理も無いよね♪彼はこのまま荒らされない所に埋葬してあげよう♪」
「隊長‼ご無事ですか!」
倒した憤怒の魔王の遺体をどうしても辱める気にもなれずそのまま埋葬しようと考えていると後方から声を掛けられる。
声の方を見るとクラシア王国から借りて来た勇者の一人に肩を借りながら林葉が此方へと向かってくる。
「あは♪見ての通り僕は元気だよ♪」
林葉と林葉を運んできた土の勇者に向けて声を掛けてやると二人ともほっとしたように息を吐く。
「ご無事で良かったです。そこに倒れているのは・・・まさか魔王の一人です‼」
社交辞令程度の安堵のセリフを吐いた後に林葉は直ぐに私の足元に倒れている遺体に目を向け歓喜の声を上げる。
「流石隊長です‼我々は数人の雑魚を仕留めた様ですが銃部隊は全滅。開発者も行方不明になり、勇者の鹵獲も失敗してしまいました・・・だが、魔王の首が有れば話は変わります。皇帝に良い報告が出来ますよ‼」
嬉しそうにそう言って剣を抜き憤怒の魔王の首へと向けて剣を振り下ろそうとする林葉の腕を掴み、そのまま捻り上げながら私はゆっくりと口を開く。
「あは♪彼はこのまま綺麗な姿のまま埋める。これ以上死体を荒らすことは許さないよ♪」
何か言いたげだが私には到底敵わない事を徹底的に教え込んだ林葉は納得できない顔をしているが素直に承知の有無を私に伝えてくるので大人しく手を放してやる。
そんな林葉と複雑な顔をしている土の勇者を見ながら私は憤怒の魔王の瞼に手を添えてゆっくりと下に降ろして目を閉じさせた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




