犠牲と撤退・5
おはようございます。
第232話投稿させて頂きます。
今回は和登視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
「あは♪超えてはならない一線って何の事かな♪こっちは不法入国してきた連中を退治しに来ただけさ♪」
コハクに蹴られ、吹き飛んだ場所からまるで糸が切れた操り人形の様に立ち上がりながらエリス・ケールは何のダメージも無いかの様に変わらずニコニコと笑みを浮かべながらコハクの言葉に答える。
エリス・ケールの言葉にコハクは相手を睨みながら唸る様に話す。
「ここに来るように仕向けたのはお前達だろうが」
俺達と居る時には聞いた事がないくらい憎々しげな声でエリス・ケールを睨みながら剣の柄を強く握っている。
「あは♪僕の事が憎いかな♪怒ってくれているのならこんな面倒くさい事をした甲斐が有ったよ♪」
そう言いながらエリス・ケールはコハクに向けて剣を構える。
『狗神君。隙を見て小父様達の所へ行ってタイミングを見てゲートを開いて撤退の準備を・・・』
そう言うとコハクも剣を構えエリス・ケールへと向ける。
「あは♪じゃあ、今度こそ本気で始めようか?」
その言葉と共にコハクとエリス・ケールの姿が俺の前から掻き消え辺りから剣と剣がぶつかり合う硬質な音が当たりに響き渡る。
それと同時に周囲の岩肌や地面が二人の剣戟によって抉り取られていく。
「あは♪今になってもここまで動けるなんて君を怒らせた甲斐が有ったなぁ~♪でも、まだ本気じゃないよね‼」
かろうじて見える二人の戦闘でエリス・ケールはそう言いながら斬撃を飛ばしてコハクへと攻撃を行う。
「《オクタ・ウインドエッジ》《ノナ・ウインドエンハンスアーマメント》《ライトニング・オーラ》」
エリス・ケールの斬撃を瞬時に撃ち落とし、剣と自分に強化魔法を使い更にスピードを上げて切り掛かる。
「ポイズン・エッジ♪」
「《オクタ・アクアリウム》」
エリス・ケールがそう言って放った次の斬撃は先程とは違い真っ黒な斬撃を向かってくるコハクに向けて放つのをコハクは前に見た事の有る水の魔法を使って防御し、速度を落とすことなく突き進む。
「うへ♪対応してきた♪でも、まだまだだよん♪」
先程の黒い斬撃と《アクアリウム》が岩に叩きつけられジュウジュウと溶け出している光景を見て少しだけ意外そうな声でそう言うとコハクへと攻撃を続ける。
「和登、皆は撤退した。俺達も撤退するぞ」
殆ど残像しか見えないような戦闘に見入っているとそんな声がして俺と同じくボロボロに成ったフェルとクリストさんが俺の近くまで来てくれた。
二人とも片腕を失っているがポーションのお陰で少しは回復したらしく見た目よりは少しだけ元気そうだ。
「恐らく。コハクもそんなに持たねぇ・・・今の内に撤退の準備をするぞ」
言われてみればその通りで今は何故かエリス・ケールを押しているコハクは毒によって極限まで体力を奪われている状態だ。
「わかった。直ぐに撤退しよう」
戦闘中のコハク達を見ながら彼女にフェル達と合流した事と今からゲートを開く事を伝える。
その事に了解の返事をしたのと同時にコハクがエリス・ケールの腹部に向けて蹴りを放ち、エリス・ケールが岩に叩きつけられる。
岩に叩きつけられたエリス・ケールにコハクが追撃を加える為に《カグツチ》を振りかぶる。
その刃があと少しでエリス・ケールに届くという所で彼女達の間に何者かが割って入り、《カグツチ》を受け止める。
「ウェポン・ブレイク」
抑揚の無い声でそう言ったのと同時にコハクの握る《カグツチ》が儚い音を立てて粉々に砕け散る。
「何⁉」
いきなり出てきた人物と粉々に砕け散った《カグツチ》を見て驚いた声を上げる。
「あは♪そこで驚くなんてまだまだだね♪」
驚いているコハクに何時の間にか体勢を立て直したエリス・ケールがコハクに蹴りを食らわせ今度はコハクが吹き飛ばされる。
吹き飛ばされた拍子にコハクのフードが脱げ、左半分に包帯を巻いたコハクの顔が露になる。
その顔に怒りを滲ませながらエリス・ケールに向けて口を開く。
「葵さんを利用したのか‼」
怒鳴られたエリス・ケールの隣には表情が無くどこか生気の無くなった立花葵が大きな盾を持って立っていた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




