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貴様に戻れる所などもうどこにもない‼

二話目です。

第三者視点です。

☆は別の視点です

楽しんで頂けたら幸いです。

 コツコツコツと靴音を立てて恐らく大理石だと思われる床をぼんやりと頭に靄がかかった感覚のまま少女は歩く。

 廊下を抜け、玉座の有る一際広い部屋に辿り着くと唐突にパチンと音がしたような感覚が少女を襲い思考がクリアになる。

 思考がクリアになった少女は不安げに周囲を見回して見覚えの有る内装に混乱しながら口を開く。


「ここ・・・帝城・・・?何で・・・‼」


 そこまで喋った所で少女は自分の手が赤黒く染まっており、その手に同じく刃を赤く染めた黒いナイフが握られている事に気が付く。


「うそ・・・何これ・・・?」


 両手とナイフを赤黒く染めているのは人の血だった。

 それに気付いた途端に少女の頭に鋭い痛みと共に思考に霞が掛かっていた時の記憶が少女の頭に蘇る


「っ‼そんな・・・私・・・トワさんを・・・」


 此処ではない別の国で世話になった恩人を刺した。自分の犯したその恐ろしい罪に叫び出しそうになっていると唐突に声を掛けられる。


「ほぅ・・・我が師の言う通り戻って来たか裏切者め」


 唐突に掛けられた声に少女は驚き、声のした方に視線を向けると座りながら頬杖を突き、少女を睨みつけている男が怒りを抑えた様な様子で言葉を続ける。


「ふん。魔族共の国に居過ぎて貴様が世話になり、忠誠を誓うべき国を忘れたか?」


 不機嫌な様子で傲慢にそう言い放つ男はこの国の王。

 父王を殺し、王位を奪った卑劣な皇帝。

 その皇帝を見続ける少女が何かを口にする前に皇帝は矢継ぎ早に言葉を続ける。


「まぁ、こうして一定の成果を上げて予の元に戻って来た事は多少なりとも評価してやろう」

「・・・一定の成果?」

 自身の手に付いた血と思い出した記憶から最悪の結果を想像しながら皇帝に問い返すと皇帝はニヤリと口角を上げ、嫌な笑みを浮かべながら口を開く。


「フン。恍けた態度を取り寄る。貴様があの小憎たらしい魔王を刺してくれたお陰で奴らを戦場に引きずり出す事が出来た。その事だけは褒めてやろう。うまく行けば貴様が刺したアヤツも死んで一石二鳥よ」


 上機嫌に声を上げて笑う皇帝に少女は手に持った血塗れのナイフを思わず強く握る。

 ———なんで今までこの人の事を無条件で信じてしまったんだろう。この人は駄目だ・・・私がしてしまった事の罪滅ぼしにはならないけど・・・この人の達の思い通りにさせちゃいけない‼

 今までにない衝動に駆られ少女は手に持った血に濡れたナイフを構えて皇帝に向けて駆け始める。

 意を決して走り始め、高笑いをしている皇帝まで後もう少しという所で皇帝は高笑いを止め少女を睨む。


「この愚か者め‼」


 空気を震わすような怒声と共に少女の頬に鋭い痛みが走り、少女は地面に強かに体を叩きつける。

 痛みで動けない少女に近づき、皇帝は彼女の腹部に蹴りを入れる。


「うぐっ‼」


 痛みにその場で身を丸める少女に皇帝は容赦のない蹴りを少女へと続けて加える。

 咄嗟に頭を庇い皇帝の攻撃を耐えている少女に皇帝は不愉快そうな顔をしながら口を開く。


「折角、予が、寛大な、心で、許して、やろうと、して、いるのに、この、恩知らずが‼」


 激情している皇帝からの暴力に必死になって耐えていると不意に体を襲って来る衝撃が消え近くから女の声が聞こえて来る。


「アルバルト♪そこまでだよ♪これ以上はこの後の行動に支障が出る♪これ以上の暴力は容認できないよん♪」


 この場にそぐわない明るい声音にゆっくりと顔を上げると黄金髪と瞳を持つ美しい少女が笑みを浮かべながら皇帝の肩を掴み窘めている。

 皇帝を窘める黄金の髪の少女に皇帝は不愉快そうに顔を歪めて黄金の髪の少女に抗議を口にする。


「我が師よ。予の教育に口を出さないで貰いたいのだが?」


 皇帝が黄金の髪の少女に刺すような視線を向けるが黄金の髪の少女はそんな事は関係ないと言った様子で飄々と楽し気に口を開く。


「あは♪教育も良いけどさぁ~♪状況を考えろよ♪彼女に此処で大怪我を負わせたら態々苦労して連れ戻した意味が無いだろ♪お前の頭はそんな事も考えられないのかな♪」


 辛辣な言葉を吐きつつも笑顔を絶やさない黄金の髪の少女を見て少女は直感でこの黄金の髪の少女が自分を操っていた張本人であり同時に自分にお守りだと言ってブレスレットをくれた人物だという事を悟る。

 そんな事を考えていると黄金の髪の少女に辛辣な物言いをされた皇帝が一瞬、憎々しそうに顔を歪めた後で少女に向けて口を開く。


「フン‼我が師に免じて今はこれぐらいで許してやる‼だが、忘れる出ないぞアオイ‼貴様に戻れる所などもうどこにもない‼」


 それだけを言い残すと皇帝は最後に少女の事を一睨みして部屋を後にする

 皇帝の居なくなった部屋には傷めつけられた少女と黄金の髪の少女だけが残る。

 何とも言えない居心地の悪い空気の流れる中、先に沈黙を破ったのは黄金の髪の少女。


「あは♪災難だったねぇ♪」


 何とも軽い物言いで手を差し伸べて来る彼女に少女は彼女の手を振り払う。


「ふざけないでください‼貴女が私を操ってあの人に致命的な傷を負わせたんでしょう‼私達をあの国に行かせたのだってこれが目的だったんでしょう‼」


 息を上げながらそう怒鳴ると少女は笑みを深めて口を開く。


「あは♪バレちゃった♪でも、あの子は助かっただろ♪僕はその報酬を貰っただけさ♪」


 あっけからんとした様子で黄金の髪の少女に少女は沸々と怒りが沸き上がる。

 そんな少女の様子など意に介した様子も無く黄金の髪の少女は更に言葉を続ける。


「まぁ♪あんまり気にしないでよ♪それに君にはあの国に行かれたままだとちょっと都合が悪かったんだよねぇ~♪女神の贈り物は使用者を選ぶから♪」


 そう言うと黄金の髪の少女は少女の額に手を当て何かしらの呪文を呟く。

 その瞬間、少女の思考は先程と同じ様に霞が掛かる。


「あぁ♪そうそう♪君が刺したあの子は今の所は大丈夫みたいだよ♪あの子が復活して迎えに来てくれると良いね♪」


 その言葉を最後に少女の思考はまた暗い暗闇へと落ちて行った。


 ☆


「フゥ~」


 パラパラとページを捲る手を止め、私は溜息を一つ吐く。


「物語も終盤に近付いて来た・・・後もう少し・・・」


 誰が聞いている訳でも無い一人事をポツリと呟き私は一つの本棚に収まった真っ黒な本に目を向ける。


「これから先であの子がどうなるかは分からない。けど、今度こそはきっと・・・」


 そう一つ呟き、私は持っていた本を閉じてゆっくりと席を立ちあがった。


此処までの読了ありがとうございました。

次回は和登目線です。

ごゆるりとお待ち頂けたら幸いです

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