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魔王の片鱗

こんばんは、第22話投稿させていただきます。

楽しんでいただけたら幸いです。


「では、双方位置に着いて準備は良いな?」


 デイルが私とナウゼリンに確認を取ってくる。ん?お前が審判やるの?普通そういうのは全然関係ない第三者がやるんじゃないの?まぁ、良いけど…


「ちょっと待ってくれるかな?」


 私がそんな事を思っていると人混みの中からそんな声が聞こえて来た。

 声のした方を見るとちょうど赤髪の少年が出てくるところだった。あれ?あの子はさっき話を聞いた子と一緒に居た男の子だ。


「何かな?ルガディン殿」

「審判は俺がやらせてもらうよ。中立な立場で公平に審判をするのが普通だろ?異論は無いね。ヴァトラー殿」

「チッ、王族の犬がしゃしゃり出て来たか…」


 ルガディンと呼ばれた赤髪の少年の言葉にデイルは何か小言で呟いていたがすぐに笑顔を創り言葉を返した。

 仲が悪いのかな?


「ふむ、では、ルガディン殿に審判はお任せしましょう。双方ともそれで良いな。」


 デイルの確認に私もナウゼリンも頷き同意する。ナウゼリンは何か言いたげだなぁ~


「二人の了承を得られたのでこれからは俺が審判をやらせてもらう。二人共距離を取って、武器を構えて」


 彼の言葉の通りにお互いに距離を取って武器を構える。


「では、始め‼」

「キェェェェェェェェェェェェェェェェ」


 開始の合図とともにナウゼリンが奇声を発しながら剣を振ってくるのを最小限の動きで避け続ける。当然ながら師匠が振る剣よりも大振りだし速さも無いから避けやすい。

 あの人、魔術師のくせにやたらと近接戦闘術がえげつないんだよなぁ

 それにしても、何で剣を振るときにこんなに奇声を発する必要が有るんだろう?


「どうしたぁ?避けてばっかりではないかぁ、やはり大した実力も無くここに来たのではなかぁ?」


 馬鹿かコイツ?私は全然余裕だし、回避もかなり余裕を持って行っている。もっと言ってしまえば入学して数か月経つのに魔法科の生徒に此処まで攻撃を避けられている騎士科の生徒何て普通居ないぞ?大体攻撃が大振りだし、狙っている場所も分かりやすいから避けやすい。本当に騎士科の生徒か?あぁ、そういえば騎士じゃなくて貴族だっけ?

 相手の次の攻撃を余裕で避けようと思った矢先に急に剣を振る速度が上がった。


「なっ!?」


 余裕で避けられるはずだった剣を後方に飛んでギリギリで避ける。自分でも思った以上に飛んでしまった。

 強化魔法を使っている?いつの間に?

 警戒しながら周りを見てみるとデイルがニヤリと嫌な笑いをしているのが見えた。

 なるほど、奴が強化魔法を掛けたのか…

 確かにテトが《ライトニング・オーラ》をよく使っているので解析して同じような魔法を創ることぐらい出来るか…

 それにしても、1対1の決闘に水を差すなんてこいつら貴族としての誇りも無いのか?


「なっ‼この勝負ちょっとま…」

「大丈夫、このまま続けさせて」


 ナウゼリンの様子が変わったのを見てルガディン君も強化魔法に気づいた様子で何か言おうとしているのを遮り決闘の続行を進言しながら短剣の柄を両手で持つ。こいつら徹底的に潰さないと駄目だ…


「ハハハハハ、次の一撃で決めるぞぉ!」


 調子に乗っているナウゼリンが一気に距離を詰め、渾身の一撃を振るって来る。

 剣を受けた瞬間両手に強い衝撃を感じ少し後ろに押し込まれるも何とか最初に相手の剣を抑えた時と全く同じ場所に短剣の溝を噛ませる。衝撃で痺れた手を動かし、テコの原理を使い一気に相手の剣を折る。

 バリンっという儚い音と共に刀身が空中を舞い地面に刺さる。

 それと同時に相手の懐に入り短剣から左手を離し鳩尾に一撃加える。相手が狡い手を使って来たんだこれぐらい許されるでしょ?


「そこまで‼勝者コハク‼」


 鳩尾に一撃加えてナウゼリンがしゃがみこんだ瞬間にそんな声が聞こえて来た。

 あれ?もしかして一撃入れるまで待ってくれていた?

 終わりの合図と同時に回りから歓声が聞こえて来る。

 歓声を上げるぐらいなら誰かこうなる前に止めてやれよ…、そうすれば私が此処まで目立たなくて済んだのに…


「イ…インチキだぁ!この私がぁ平民風情に負けるはずがない‼使用禁止の魔法を使ったに違いない‼」


 周りの歓声を掻き消すような大声でナウゼリンが私が不正をしたと喚き散らす。

 いやいやいや、魔法使われていたのはアンタだし、私が使っていた《ライトニング・オーラ》は決闘が始まる前に効果が切れていたしね。


「やり直しを要求する‼こんなのは納得できない‼もう一度闘え‼」


 尚も喚き続けるナウゼリンに審判をやってくれていたルガディン君が近寄って行く。


「残念ながら君の言い分は通らないよ。」

「な、何んだとぉ‼」

「彼女は魔法を一切使っていないし、正々堂々と闘っていたよ。むしろ魔法の恩恵を受けていたのは君の方だろ?彼女が決闘の続行を望んでいたからそのまま続行したけど本来は許されない事だ。」


 あ~、やっぱり彼も気づいていたんだ。純粋にこの世界の七歳児だろうによく見ているなぁ。


「さて、今回の不正についてどう落とし前を着ける気なのか聞かせて貰おうか?ヴァトラー殿」


 ナウゼリンの後方に立っていたデイルにルガディン君が声を掛ける。

 嫌な笑みを浮かべながら前に来ると余裕な顔でしゃべりだした。


「いやぁ、見事な物だった。さすがゲネディスト教諭の弟子という事か」


 うん、その点については悔しいけど否定しないし、出来ない。

 実際、師匠との稽古で色々な近接戦闘の経験が無かったら此処まで一方的な闘いにならなかったしね。


「賛辞は大切だけどそれより今は不正に対してどのように落とし前を付けるかだろ‼」


 暖簾に腕押しのようなデイルにルガディン君が苛立ちながら問いかける。


「落とし前も何も不正が有ったという証拠でも有るのかね?ルガディン殿?」

「貴公はそれで済むと思っているのか!」


 今にもデイルに掴み掛りかねないルガディン君の手を掴み二人の会話に割って入る。

 流石に彼がコイツに掴み掛るのはまずい気がする。


「まぁ、肉体強化の魔法を他人が掛けた場合証拠は中々でないよね。不正に関しては良いよ。気にしないようにする。でも、勝ったのは私だから約束は守ってもらうよ」

「我々が不正をしたと思っているのは気に入らないが、もちろん約束は守ろうとも」


 そう言いながら近寄ってきて私の肩に手を置き私にしか聞こえない声量で話しかけてきた。


「あまり調子に乗るなよ。平民風情が‼」


 その一言だけ言うとデイルはブツブツと何かを言っているナウゼリンの方に行き声を掛ける。


「ナウゼリン、部屋に戻るぞ」


 私とルガディン君もテト達の方に行こうとすると急に背後から大きな声が聞こえて来た。


「俺は負けてないぃぃぃぃぃぃぃぃぃ‼」


 振り向くと折れた剣を私に向けて全力で走ってくる。あ、ヤバイ回避は出来そうだけど周りへの被害が酷くなりそうだ。でも、避けなければ私は再びレスナと会う事になりそうだ。

 ルガディン君が私の前に出て庇おうとしてくれる。同じ貴族なのに雲泥の差だ…

 もう決闘じゃないから魔法も使えるし、まぁ、焦る必要はないなぁ…


「テトラ・グラビティオペレイト」


 叫びながら走ってくるナウゼリンに向かって最近できたばかりの土属性の魔法を放つと地面にすごい勢いで倒れこむ。


「うぐぅ‼」


 地面に突っ伏したままのナウゼリンは尚もブツブツと何かを言っている。


「この私に恥をかかせおって、殺してやる…殺してやる…殺してやる…」


 はぁ~、まだ諦めないのか…いい加減しつこい‼

 何も言わずにナウゼリンに掛かっている重力を倍にしてから近づいていくと憎悪をむき出しにした視線を向けてくる。


「貴様ぁ、私にこんな事をしてただで済むと思っているんかぁ‼」

「うるさい‼負けえたくせにそれを認めようとしない上に後ろから不意打ちしてくる奴に偉そうなこと言われたくないわよ。いい加減にしつこい‼」


 こんだけ、しつこいんだか少しぐらい虐めても良いよね?少しは他人の痛みを知って貰おうか?


「それにしても、貴方は今、私の魔法で地面にへばり付いて居るわけだけど知っている?人間って水と睡眠だけとっていれば食べ物が無くても2~3週間は生きていられるんだって、逆に水を一滴もとらなければ4、5日程度で死んじゃうんだって、どうする?今までの事を全部謝るんだったら魔法を解除して許してあげるけど何週間持つか試してみる?」


 地面にへばり付いて居るナウゼリンにとびっきりの笑顔と明るい口調で脅す。

 まぁ、2~3週間も魔法を維持し続ける魔力はまだ無いし、殺す気も無いけどね。


「き、貴様ぁ」


 死ぬという単語を聞いてナウゼリンの顔にも恐怖が見て取れる。

 はははは、良いぞ、泣け!叫べ!命乞いをしろ‼私に逆らうものは皆こうなるのだぁ‼

 …あれ?今の私物凄く魔王っぽくない?


「う、うぐぅ」


 あ、変な事考えていたらいつの間にかナウゼリンが気絶した。

 しょうがない、全然反省も何も無いだろうけど魔法を解除するか…

 ナウゼリンを開放して周りに意識を戻すと何だか妙にざわついている。

 耳を澄ますと回りの声が断片的に聞こえてくる。


「な、なんだよ今の魔法…」

「あの娘、七属性使えるらしいぞ…」

「ま…魔王だ…」

「ヘプタの魔王だ…」


 そんな声が聞こえてくる。

 おい!誰だ!今、魔王って言ったやつ誰だ‼私は魔王にならない様に頑張っているんだよ‼

 多少のショックを受けながら後ろを振り向くと助けた女の子とルガディン君は微妙そうな顔をしている。テトはお腹を抱えながらこっちを指差し大笑いしながら何かを言っている。

 こっちに指差すなし。


「ま、魔王って…俺だって魔女までしか言ってないのに…とうとう魔王って呼ばれてやんの…」


 よし、テト、3週間水だけチャレンジ試してみようか?きっと楽しいぞ

 非常に気まずい状況の中テト達の元に戻り女の子に話しかける。


「えっと、大丈夫だった?」

「私は大丈夫です。助けてくれてありがとうございます。」


 おぉ~、貴族なのに私とテトに丁寧な言葉を使ってくれているよ…さっきの貴族と雲泥の差だぁ


「大丈夫なら良かった。色々あったし、とりあえず先生が来る前に皆此処から離れよう。あ、良かったらこれでも食べて」

「あ、ありがとう。」


 テトから紙袋を受け取り中のパイを一つ彼女に渡す。まぁ、食べてくれるかは分からないけどね。


「貴方もありがとう。」

「いや、本当は僕が彼らを庇うべきだった。君に決闘を押し付けてしまって申し訳なかった。」

「それでも貴方が審判を引き受けてくれて助かったよ。ありがとう。貴方ももし良かったらどうぞ」


 審判をしてくれたルガディン君にもパイを渡し、皆でまだざわついている人混み中を通り別れる。


 図書室の方に向かう途中でルガディン君と誰かの話す声が聞こえて来た。


「遅くなり、申し訳ございません。」

「いや、大丈夫だよ。おかげで面白い子も見つけられたしね。すぐに色々な手続きに移ろう。」


 そんな声が聞こえて来た気がしたけどとりあえず私には関係なさそうだ。

 そんな事を呑気に考えながら私は奇異の目で見られながら急いで図書室に向かうのだった。


サブタイトルと魔王になる事は何にも関係は有りません(笑)

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