そんじゃ、私は帰りますんで
おはようございます。
第215話投稿させて頂きます。
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今回もコハク視点で☆の後は神薙賢治視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
「なぜなのか理由を教えて貰えるかしら?」
私が断るとは思わなかったのか珍しく動揺した様子で震える声で訊ねて来る。
ふむ・・・私が断った理由が分からないとは・・レティシアにしては察しが悪い・・・今日は色々と珍しいレティが見られるなぁ・・・
不安そうに私を見るアメリアに笑みを向けてからレティシアの質問に答える
「まず勘違いしないで貰いたいのはアメリアと神薙さん達を保護する事を嫌がっている訳では無い。私が気に入らないのは、レティシア。貴女が自分を避難する人間に数えていない事だ。貴女もアメリアも私にとって損得勘定関係なく大切な人間だ。貴女が自分を含めて助けてくれと言わないのなら私はこの話を受けない」
正直、アメリアの前でレティシアが一緒では無いと助けないみたいな事はあんまり言いたくないけど恐らくアメリアも今となっては唯一の肉親ともいえるレティシアが一緒でなくては素直に避難に応じるとは思えない。
何より我儘かもしれないが私は二人とも失いたくない。
「事が起こった時に私へと連絡し、私が来るまで全員で生き残る。それがこの話を受ける条件だ。貴女がすぐに頷いてくれれば全て解決するよ?」
ニッコリと笑ってそう言うとレティシアは少しだけ意外だと言う様に口を開く。
「珍しく。我儘を言うのね。全員が無事に貴女の国に避難するのがどれほど難しいかよく解っているでしょう?全てを守ろうなんて傲慢にして強欲よ?」
「解っているさ。傲慢でも強欲でも結構。でも、私は譲るつもりは無いよ?私は七大罪の魔王達の上に立つ魔王だからね。それぐらいの罪は背負って見せるさ。それで?答えは?」
少しだけ挑発的にレティシアにそう言うと彼女は溜息一つ吐き、表向き納得したという顔で口を開く。
「はぁ~、貴女の強情さはよく解っているわ。解ったわ。皆で生き残る事を誓うわ。これで受けてくれるわね?」
嘘吐きめ・・・まぁ、いざとなったらレティシアの意思を無視して無理矢理にでも連れ出してやる。傲慢?強欲?結構、こっちとら魔王だ。好き勝手動きまくってやる。
「解った。もしも本当に事が起こったら私の全てを掛けて皆をこの国から逃がす事を誓うよ。さて、私達の話も彼女の話も終わったみたいだし、私はそろそろ御暇しようかな。あまり長居するのは良くないからね」
そう言うと丁度、話を終えたのか坂月 命が先程、武器を向けてきた時とは違い、酷く申し訳なさそうな顔で此方に歩いて来る。
「やあ、夢菜さん達との話は終ったかな?」
「・・・はい、ありがとうございました・・・それと武器を向けて本当にすみませんでした‼」
最後の方は本当に申し訳なさそうに何なら土下座でもしそうな勢いで頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。
・・・うん?私は何も弁明はしてないのに彼女の心境が大分変化している・・・夢菜さん、光さん。何か言った?
「本当にごめんなさい」
「気にしていないよ。ただ、次は彼等の力になれる様にしてあげてよ。私はもう帰るけど今回の話し合いの詳細はレティと神薙さんから聞いてね。それとその通信機は返さなくて良いよ。何か用事が有ればこの国の人間に気付かれない様に連絡を頂戴。使い方はレティかアメリアにでも聞いてよ。神薙さんも何か有れば連絡をください。通信機の使い方は解っていますよね?」
「えぇ、知っています。何か有ったら連絡させて貰います」
「よろしくお願いします。じゃあ、そろそろ本当に私はお暇させて頂こうかな。レティ、約束を忘れないでよ。アメリアもレティが無理をしない様に見張っていてね」
「アメリアに念を押さなくても大丈夫よ。自分の事を棚に上げてものを言わないで頂戴‼」
「はい‼姉様‼御婆様が無理をしない様にしっかり見張っています‼」
皆にそれぞれ声を掛けてから席を立ち、入って来た窓の方へと向かう。レティだけが少し拗ねた様子で私の痛い所を突いて来る。てか、本当に今日のレティは面白いなぁ・・・あ、そうだ。ついでにもう一つ気になった事の報告をお願いしておこう。
隣の部屋へと向かう途中だった足を止め、神薙さん達の方を向きながら口を開く。
「あ、そうだ。神薙さんか坂月さん。もし、アルバ・・・・グラディア帝国の現皇帝が帰る時に出会わせたら彼等が帰る方法を見られたらあいつ等がどうやって帰って行ったかを教えて貰えるかな?」
「えぇ。解りました。彼等の移動手段が知りたいんですね?」
「その通りです。ありがとうございます。よろしくお願いしますね」
アレだけの言葉で私の知りたい情報を察してくれた神薙さんが快く引き受けてくれたので礼を言い改めて窓へと向かって歩き出す。
「姉様。次に会えるのを楽しみにしています。だからどうかお体を大事にしてください。お願いだから死なないで・・・」
窓の近くに着き皆に最後に挨拶をしようと思い振り向くと唐突にアメリアが泣きそうな顔で私に抱き着き、不安そうな声でそう懇願する。
恐らく、話している間は大丈夫だったけど今になって不安が襲って来たってところかな?
「私も楽しみにしているよ。アメリア。大丈夫、今日話した事はあくまで最悪を想定しての事だよ。私だって死ぬ気は無いし、他の人達だって死なせるつもりは無いよ。だからまた元気な顔で迎えて頂戴」
そう言いながら抱きしめ、優しく頭を撫でる。
・・・全く持って私も大概、嘘つきだな・・・レティの事を言えないか
頭の片隅に少し前に聞いた予言の事を思い出しながら自嘲気味にアメリアの頭を撫でていると神薙さん達は私達の関係が今一分からないのか不思議そうな顔をしている。
まぁ、そうか・・・片方は魔王で片方は魔族が嫌いな国のお姫様だもんね。それがお互いの事を大事そうにしていたら疑問にも思うか・・・まぁ、詳細はレティに訊いてください。
そんな事を考えながら頭を撫でていると幾らか落ち着いたのか一度ギュッと力を入れて抱きしめ返してくるとアメリアは体を話す。
「いきなり・・・すみません。姉様、約束ですよ」
「うん、約束」
そう言うと少しだけ微笑み、アメリアは一歩後ろに下がる。
「それでは皆さん。各々、自分の命を大切にしてください」
少しだけシメッとしてしまった空気を誤魔化すように少しだけおどけた口調で礼をして皆に声を掛け、私はゆっくりと窓の外へと身を投げ出す。
神薙さんや坂月さんから驚いた様な声が上がるのを聞きながら自身に《バニッシュ》を掛け、壁を蹴りながら勢いを殺し、地面に着地してからゆっくりと歩き、もう一度、商会に寄ってから私は国へと戻った。
☆
「それでは皆さん。各々、自分の命を大切にしてください」
そう言って魔王と名乗った少女はゆっくりと後ろに倒れ窓の外へと身を投げ出すのを見て僕と坂月さんは驚きの声を上げながら窓へと駆ける。
急いで最速でたどり着き、余り見たくはない光景を想像しながら外を見ると予想に反してそこには何も無く。歩く人影すらも見えなかった。
「ふふふふ、あの子ったら少し気恥しくって態とビックリするような帰り方をしたのね」
僕と坂月さんが驚いているのを見てレティシア様がクスクスと楽しそうに笑っている。アメリア様は先程泣いてしまったのが少しだけ気恥しいのかレティシア様の後ろにこっそりと身を隠している。
それにしても、彼女とこの方達は一体どんな関係なのだろう・・・?彼女の事を本当に信頼しても良いのかを判断する為に少し聞いてみるか・・・
「あの、レティシア様。先程の黄昏の魔王・・・コハクさんとはどういう関係なのですか?アメリア様は姉様と呼んでいましたが御姉妹では有りませんよね?」
疑問を口にするとレティシア様は笑うのを止めて答えてくれる。
「えぇ、違うわ。コハクとはあの子がまだ魔王に為りたての時に出会ったのだけれどアメリアが思った以上に懐いてね。あの子も可愛がってくれているのよ。かれこれ、八年ぐらいの付き合いになるかしらねぇ~。まぁ、私にとってはあの子も孫娘みたいなものよ」
「・・・私は本当の姉様になって欲しいです」
「成程、もう一つだけ教えて頂けますか?なぜ、レティシア様は彼女が魔王だと分かった後も付き合いを続けていらっしゃるのですか?」
とても楽しそうに話すレティシア様に前々から気になっていた事をついでに訊ねる。
「実を言うとね。私はあの子の前の魔王にも会った事が有るのよ。その時に色々有ってね。それ以来、魔族だの人族だのと偏見を持つことを止めたのよ。人にも魔族にも悪い子は居るもの。何が有ったかは、今は秘密。貴方だって人には言えない秘密が有るでしょう?さ、お話は終わり、起きて欲しくは無いけど万が一の時の為に荷造りを始めましょう。貴方達も荷物を纏めておいてね」
レティシア様はそう言って話を終わらせてしまう。
まぁ、僕にも隠している事が有りますし、詳しく訊くのはやめておきましょう。
今はただ、頼れる人が増えた事を純粋に喜ぶべきですね
そう思いながら狗神君の処刑の時に渡されていたが今一信用が出来ずにしまっていた通信機らしい懐中時計の様な装置をアイテムボックスから取り出し、ポケットの中に入れて僕達もレティシア様の元を後にした。
此処までの読了ありがとうございました。
次回は葵視点です。
ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




