表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
214/332

レティシアの頼み

おはようございます。

第214話投稿させて頂きます。

ブックマークありがとうございます。とても励みになります

今回もコハク視点です。

本日少し長めです。楽しんで頂ければ幸いです。

「坂月さん‼」


 緊張した面持ちで端正な顔を歪めながら私の喉元に薙刀を突き付ける坂月 命に神薙 賢治は顔を青褪めさせて坂月 命の名前を呼ぶ。

 どうやら私が激昂して彼女の事を殺すのを危惧しているらしい。

 失礼だなぁ・・・第一種排除対象と告げて私の本来の立場を告げた時点でこうなる事は予想していたよ。この話題はセンシティブな問題だからねぇ・・・だからレティシアだって勝手に喋らずに私に許可を求めて来た訳だし・・・てか、彼の動きは予想外だったなぁ・・・てっきり彼からも武器を向けられると思っていたのに・・・まぁ、何時までも刃物を向けられるのはいい気分じゃないから後でちょっときつめにお仕置きをして手放して貰おうかな?

 呑気にそんな事を考えながら薙刀を突き付けられたまま紅茶のカップを手に取り、口を付けていると坂月 命が憤怒の表情を浮かべて口を開く。


「神薙先生。止めないでください。私はこの人に訊かなければいけない事が有ります。黄昏の魔王、私の質問に答えなさい。質問の答え次第ではその首を刎ねます」

「良いだろう何が訊きたい?」


 武器を突き付けられても余裕な様子の私に坂月 命は眉を吊り上げながら質問を口にする。


「貴女がさっき名前を言った。狗神君や魔族の領土に行った勇者の子達はどうなったの?」


 厳しめの口調で質問してくる彼女に私は些か呆れながら興味のない物を見るような眼差しを向け、彼女に向かって口を開く。


「君が今更それを聞いてどうするつもりだい?何の意味がある?」


 冷ややかな声音を意識しながらそう問い掛ける。

 正直言って私にとってこの国に残った神薙 賢治以外の勇者への評価はかなり低い。

 彼等は夢菜さん達が大した訓練も積んでいない事を承知の上で当時の彼等からしたら死地であろう魔族の土地へと送り出した。

 正直、呆れてものが言えない。

 私の返答に坂月 命は一瞬だけ怯んだ様子を見せるが武器を持ち、有利なのは自分だと思い直して強めの口調で答えを返してくる。


「彼等は私にとって大切な後輩です。心配するのは当然でしょう‼質問に答えなさい‼」

「処刑の時に何も考えずに見殺しにしようとしたのに?どういった心境の変化かな?」


 冷たくそう問いかけると彼女は「うっ」と声を詰まらせる。

 心配するぐらいなら何故この子は狗神君が処刑されるという時に何もせず、言われるがまま私の前に立ち塞がったのだろう。確かに当時は彼女等にも色々と立場があったかもしれないし仲の良かった者も居たかもしれない。だが、それは果たして同郷の者の命より大切な物だろうか?ましてや今になって心配しているフリをする関係なのに?

 仮にこの国でも立場を失うと思ってもあの場に居た異物である私は彼の味方と言うのは誰の目から見ても明確だったはずだ。一か八かに賭けて狗神君に付くという選択肢もあっただろう。だが、彼女はそれを選択しなかった。

 今更彼女が彼等を心配した所で彼女への評価は変わらない。

 神薙 賢治の説得に応じてレティシアの派閥に入ったとしても結局、彼女は自分で選択する事が出来ずに流されただけだ。

 その結果が今の状況だ。私が魔王だと知った途端に武器を向け、話しすら聞かずに情報を聞き出そうとする。全く持って愚かしい。

 まぁ、今更この子の事なんてどうでも良いか・・・


「まぁ、べつに答えなくても良いけどね。そろそろ質問をする人間の態度では無いし、何よりレティシアとアメリアの前だ。いい加減に不愉快だ。武器を下げろ」


 私がそう言って少しだけ殺気を向けてやると彼女は「っ‼」っと声にならない悲鳴を上げて薙刀を落として三歩程後ろに下がり両腕を見る。

 ふむ・・・両腕が落ちる幻覚でも見たかな?

 何をされたのか分からないと言った様子の彼女に私は溜息を一つ吐き、言葉を続ける。


「情けで教えてやる。彼等は無事だよ。今も元気にしている。私の言う事は信じられないだろうから今、証拠を聞かせてやる」


 私はそう言って懐中時計型の通信機を夢菜さんに繋げる。


『はーい、コハクちゃん?どうしたの?何か有った?』

「夢菜さん。急にごめんね?皆と話したいと言う人が居るから連絡したんだけど近くに皆は居るかな?」

『うん。皆居るよ。私達と話したい人?』

「皆と一緒にこの世界に来た勇者の一人だよ。多分、知り合いなんだと思う。変わるからしばらく話していてくれないかな?」

『うん。分かったよ~』


 何時も皆と話しているぐらいの声のトーンを意識して夢菜さんに簡単に用事を話し、尻餅をついたままの坂月 命へと通信機を突き出し、声のトーンを先程と同じまで落として口を開く。


「今、この通信機は夢菜さんに繋がっている。私達は神薙 賢治からの話を聞いているから君は自分の耳で彼女達の現状を把握しろ」


 そう告げると坂月 命は恐る恐るといった様子で通信機を受け取り、私達から少し離れた所で通信機に話し掛ける。

 その姿を見た後でレティシア達の方を向き、口を開く。


「さて、待たせてしまって申し訳なかったね。神薙 賢治さん。先程の貴方の質問だがレティシアが貴方の事を信頼しているからだよ。だからそこの子も含めて信用してみる事にしたというだけだよ。貴方は私の事を信頼しなくても良いけどレティシアの判断は信じて貰いたい」

「・・・わかりました。狗神君の事も有りますし、貴女の事を信用します。では、グラディア帝国皇帝の急な訪問の理由を報告いたします」


 そう言って神薙 賢治はそう言ってアルバルトとエリュナとの間にどのようなやり取りが有ったのかを話していく。

 内容は予想した通りで帝国への勇者の派遣の要請、その見返りにクラシアが厄災の標的になった際に救援をすると言った内容だった。


「まぁ、私の国は帝国を支援しないし、他の魔王達も助ける気が無いみたいだから勇者という戦力の有るクラシア王国を利用しようとするのは当然だろうね。アルバルトがまだこの国に居る所を見ると同盟は結ばれたんだろ?」

「ええ・・・」

「やっぱり、色々ときな臭くなってきているわね・・・」

「エリュナお姉様は一体何をするつもりなんでしょうか・・・」


 一通りの報告が済み、坂月以外の全員で溜息を吐きながら喋っているとレティシアとアメリアが何やら気になる話をしているので訊いてみる。


「レティシア、きな臭くなって来たってどういう事?」


 私がそう尋ねるとレティシアは珍しく疲れた様に溜息を一つ吐いて教えてくれる。


「本当はこんな事が外の人間である貴女に知られてはいけないのだけど・・・貴女を今日呼んだことにも繋がるから関係の有る事だから話すわね」


 そう言って紅茶で口を潤してからレティシアはゆっくりと話し出す。


「ここ最近、戦の準備をしているという報告を暗部の子達から受けているのよ。それも外に向けてでは無く内に向けてね・・・」


 レティシアの言葉にテーブルに座っている全員が顔を顰める。

 神薙 賢治もクーデターを企てている事は知らなかったのか驚きが隠せない様子で些か呆然としながらレティシアへと質問をする。

 ———勇者側にも派閥が関係有るのかな・・・それにしても最近この世界ではクーデターが流行っているのかな?そんな事をしている場合じゃないのに・・・


「それは・・・エリュナ姫が現国王に向けてという事ですか・・・?」

「えぇ、しかも恐らく対象は私達も含むエリュナの肉親全員よ。だからコハク、此処からが貴方に来て貰って正体迄明かして貰った理由なのだけど・・・もし、私に何か有ったら何としても守るからアメリアとカンナギさん、サカヅキさんを貴女に保護して貰いたいの。お願いできないかしら?」


 私の商会のお菓子を頼む時ぐらいにしか滅多にしてくれないレティシアのお願いに無条件で頷きそうになるのを我慢し、私は顔から表情を消して答える。


「断る」


 短くそう告げた私の言葉は思ったより大きくその場に響いた。

此処までの読了ありがとうございました。

ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ