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誰かに似ている美人

おはようございます。

第212話投稿させて頂きます。

今回は月濱純也視点で☆の後はコハク視点です。

楽しんで頂ければ幸いです。

「だから‼早くこの商会の会頭を呼べと命令しておるのだ‼さっさとせんか‼この鈍間が‼」


 女の子に向かって怒鳴る護衛対象の声を聞き、悩んでいる事も忘れてうんざりしてしまう。

 今日、急に来たこの護衛対象は帝国の皇帝らしく。昨日、エリスさんが近々帝国に厄災が来るのでその事で皇帝が来訪する有無を伝えて来てどうやったのか分からないが連絡が来た次の日である今日直ぐに来た。

 いきなりクラシア王国に来た皇帝は偉そうな態度で早々にエリュナ姫に協力を取り付けると街に行くと言い出し、護衛を連れて居なかったので俺と立川は現在、帝国の皇帝とやらの街歩きに付き合っている。

 本当だったら一ヶ月前に出会った薬師の女の子(リーフちゃん)と魔王が同一人物かもしれない事に関してもっと考えたり、情報を集めたいのだが神薙先も坂月ちゃんも何か急ぎの用事が有ったらしく俺と立川が任命された。

 まぁ、坂月ちゃんに関しては俺の感だけどこの皇帝が何かしらの色目を使おうとしていたし、俺達で丁度良かったのかもしれない。

 何が嫌になるってこの護衛対象は横暴な上に人に対する態度が高圧的で腹が立つ。

 溜息を吐きたい気持ちで重い気分のまま事の成り行きを見守っていると怒鳴られている従業員の女の子が毅然とした態度で口を開く。


「何度も申し上げますが会頭は様々な所を移動しており、直ぐにお呼びする事は出来ません。また、お客様の要望に関しましてはわたくし達の一存では対応しかねますし、この店を止めてお客様の専属になれと言うお言葉にはどの者も応じるつもりはございません。他のお客様のご迷惑になりますのでお引き取りください」


 淡々とした口調で帰れと言って来る従業員の女の子に皇帝は顔を真っ赤にして怒り出す。


「貴様ぁ‼使用人の分際で予の事を馬鹿にするかぁ‼」


 女の子の態度に更にブチ切れた皇帝が女の子を殴ろうと右手を振り上げるのを咄嗟に止めようとして前に出るが距離と立ち位置の所為で出遅れる。

 バチンと言う音と女の子の悲鳴が響くのを想像していたが彼女の頬に手が届く寸前の所で小さな白い手が皇帝の手首を掴む。


「お客様、うちの店の者が何か失礼を致しましたでしょうか?」


 静かな・・・それでいて抑えようのない怒りが滲みだしている声と共に銀糸の髪にアメシストの瞳を持った少女が皇帝の腕を掴み立って居る。

 口調は丁寧だが決して庇った子が悪くないと確信している様子の彼女の問い掛けに皇帝はますます不機嫌そうな顔で口を開く。


「どけぇ‼小娘が‼予を誰だと思っている‼予はグラディア帝国、七代目皇帝アルバルト・ヒューズ・グラディアぞ。手を離して頭を垂れてひれ伏せ‼愚民‼」


 胸を張って大声でそう言う皇帝に対して周囲のお客さん達がザワザワとする中で皇帝の腕を掴んでいる銀髪の女の子だけは冷ややかな光をその瞳に宿らせながら口を開く。


「それで?その皇帝と言う方がどういう経緯で私の店の子に暴力を振るおうと為さったのでしょうか?」

「小娘‼高貴な我が名乗ったのだぞ‼貴様も名乗れ‼」


 女の子の質問をガン無視して高圧的に命令する皇帝に女の子は呆れた様な顔を一瞬して口を開く。


「あぁ、これは気が付かず。申し訳ありませんでした。わたくしの名前はコユキ、このリコリス商会の会頭で《エメラルド》クラスの冒険者です。それで?さっきも言いましたがどういう経緯で私の店の子に暴力を振るおうと為さったのでしょうか?」


 自分の自己紹介をサラッとし、再び同じ質問をするコユキちゃんの顔をまじまじと眺めて皇帝は口元に厭らしい笑みを浮かべながら口を開く。


「ほう、貴様が銀姫か・・・噂通り美しいではないか。良いだろう今すぐ荷物を纏めて予と一緒に来い。今回の件はそれで水に流してやる」

「・・・話を聞いていましたか?あと、私の掴んでいる腕を更に掴んで何処かに連れて行こうとしないでください。何故、私が貴方に付いて行かないといけないんですか?」


 再び質問を無視し、話の通じていない皇帝の言葉に柳眉を逆立てながら皇帝の右腕を掴んでいたコユキちゃんの手を掴もうとする右手に向かってコユキちゃんは掴んでいた左手を離し、払う様にして皇帝の右手を叩き、軽蔑したような視線を向ける。

 傾国の美女と言える顔立ちの少女に睨まれるのも怖いがこの皇帝が女の子一人にこんな態度を取られたら何をするのか分からない・・・取り敢えずいつでも間に入れるようにしておかないと・・・それにしても表情は冷たく動かないがこの子、何処かで見た様な気がする・・・

 そんな事を考えながら二人を見ていると意外な事に皇帝は静かな口調で語りだす。


「ふむ、ならお主が予の言う事を訊かなければならぬ正当な理由を説明してやろう。まず、お主の一番の罪は予に無断で店を閉めた事だ。その所為でわざわざこんな場所まで下賤な店へ買い物をする事になったのだ。文句の一つでも言いたくなる物であろう?挙句の果てに下賤な店に相応しい下賤な使用人共は予がお抱えにしてやると言うのに理解が出来ないのか断る始末、躾をしようと殴っても文句は言えまい。むしろ感謝して欲しいくらいだぞ?それらの不敬をお主の身一つで一先ず許してやろうというのだ。予の広い心に感謝しろ」


 そんな事をドヤ顔で言う皇帝に思わず店の中に居た全員がドン引きの表情で皇帝の事を見る唯一、引いて居ないのは同じ国の宰相と言う男でうんうんと頷いて皇帝の言葉に同意している。

 ・・・いや、アンタはおかしな事を言っているこの男を窘めなきゃいけない立場だろ・・・馬鹿なのか・・・?

 滅茶苦茶な理屈に皆が固まってしまった中でもやはり最初に復活を果たしたのはコユキちゃんで呆れた顔をした後で見事な営業スマイルを顔に浮かべて口を開く。


「なるほど・・・話をお聞きした結果を申し上げますね。当店で貴方にお売りできる物はございませんし、要求にお応えする気もございません。お引き取りください」

「何だと‼」


 思い通りに行かないコユキちゃんの言葉にイラついた様子で声を荒げる皇帝にコユキちゃんは淡々とした口調で言葉を続ける。


「理由をお聞きしたいですか?では、ご説明いたしましょう。まず、帝国からの撤退でございますが単純に利益を考え撤退させました。帝国通貨は帝国でしか使えない上に年々金の含有量が少なくなり、大陸共通金貨と換金しても金の含有量の違いから私達が損をする上に換金も嫌がられます。挙句に帝国で物を仕入れても高い税を取られて損をします。商人も冒険者も利益が無い所には寄り付かない。以上の事からの判断です。また、貴方の命令ですが、ここは貴方の国では無く。聞く必要のない物と判断致します。最後に下賤だと蔑む店で態々お買い物をして頂かなくても結構です。他のお客様にもご迷惑になります。出口は後ろです。言葉で言っている内にお引き取りください」


 静かだが良く通る声で皇帝に説明を終えるとコユキちゃんはもう話す事は無いと後ろの出口を指差し、有無を言わせぬ口調で帰れと繰り返す。

 周りの客達も声には出さないがさっさと出て行けと言った様子で此方を見ている。


「・・・貴様ぁ、絶対に後悔させて貴様から予の犬にしてくれと頭を下げさせてやる。憶えておれ‼」


 コユキちゃんの態度や周りの客達の態度に怒り狂って暴れ出すかと思った皇帝は意外にも分が悪いと分かったのか捨て台詞を吐いて出口へと歩いて行く。


「立川!悪いけど先に行っててくれ‼」


 下らないやり取りがやっと終わったと言った様子の顔で皇帝の後を追って出て行こうとする立川に一声かけて先に行かせてからこちらを不審者でも見るような目で見ているコユキちゃんと従業員の女の子達の方を向く。

 ・・・いや、そんな目で見ないでよ・・・俺だって好きでやってる仕事じゃないんよ・・・

 女の子達の視線に少し泣きそうになりながらも俺もこの店には良く通って居るので今のうちに謝罪しとかなければヤバイと思いながら絡まれていた子を奥に連れて行くように指示を出していたコユキちゃんに向けて声を掛ける。


「あの、俺達が護衛をしている人間が失礼をしてしまい。すみませんでした」


 俺が唐突に頭を下げて謝ると不審そうに見ていたコユキちゃんは謝られるとは思っていなかったのか目を丸くして驚く。

 驚きで少しだけ硬直した後でコユキちゃんは先程皇帝に向けていた物より表情を和らげて口を開く。


「貴方に謝られる謂れは有りません。むしろ護衛対象なのに歯向かってうちの子を助けようとしてくださり、ありがとうございました。護衛対象がアレでは大変ですね・・・」

「ははは・・・まぁ、仕事何でしょうがないんですよ・・・エリュナ姫様にはこのお店は悪くないと報告しますんで安心してください」

「ありがとうございます。従業員の子の安全の為に閉めなければいけないと思っていたので助かります」


 そう言ってそう言って笑みを浮かべるコユキちゃんを見て漸く誰に似ていたのかに気が付く。

 彼女の方がいくらか大人っぽく見える苦笑でも笑った顔はここ最近俺の事を悩ませている薬師のリーフちゃんに似ていた。


「・・・あの、初めて会った人にこんな事を訊くのも変なんですが、貴女に姉妹っていますか?」


 似ている人物がリーフちゃんだと気付いた途端に口を突いて出て来た言葉にしまったと思っているとキョトンとした顔で俺の質問に答えてくれる。


「いえ、私に姉妹は居ませんよ」


 キョトンとした顔のままの彼女の顔を見てやはり似ていると思ってしまう。

 ———こんなに似ているのに赤の他人なんてことあり得るのか・・・?もし、リーフちゃんが魔王だったとしてその姿は一つじゃないかかもしれない。ひょっとしたらリーフちゃんかコユキちゃんの姿のどちらかが変装している姿なのかもしれない



「すみません。少し右手の袖を捲らせて貰っても良いですか?」

「え?まぁ、良いですけど・・・」

「ごめんね。少し失礼します」


 リーフちゃんと魔王の右腕には酷い火傷の痕が有った。その事から変装していても隠している可能性は低い。

 そんな事を考えながら彼女の手を取り、袖を捲るとそこには酷い火傷の痕が・・・無かった。


「あ、あれ?」

「?」


 予想していた光景が無かった事に驚き、声を上げるとコユキちゃんは不思議そうに頭を傾げる。

 どうやら本当に他人の空似で彼女(リーフちゃん)とは何の関係も無かったようだ・・・

 安心したような感覚を憶えながら不思議そうな顔のコユキちゃんに謝罪する。


「す、すみません‼知り合いに似ていたのでちょっと確かめたくなってしまって・・・それじゃあ、俺はこれで・・・本当にお騒がせしました」

「いえ、こちらこそエリュナ姫様への報告をよろしくお願いします。それと良ければ護衛が終わった後にでももう一人の方と食べてください。きっと終わった後にはお二人共疲れているでしょうから」

「あ、ありがとうございます。また今度、買い物に来させてもらいます」


 そう言ってコユキちゃんはお菓子の入っている籠を俺へと手渡してくれるのでお礼を言って俺も店から出て立川達と合流する事にした。

 リーフちゃんの問題は解決していないが何となく今回出会ったコユキちゃんと同じであの火傷痕も似ているだけで本当は何も関係ないんじゃないかと思い少しだけ心が軽くなった気がした。



 ☆



「あ、ありがとうございます。また今度、買い物に来させてもらいます」


 そう言って店の外へと歩いて行く。月濱 純也の姿が完全に見えなり、周囲のお客様への謝罪を済ませた後、私も奥に引っ込んでから思いっ切り詰めていた息を吐く。

 ———あ、危なかったぁぁぁぁぁ‼まさかクラシア王国に来た途端に月濱 純也が居て袖まで捲って確認して来るとは思わなかった。魔法とコンシーラーで火傷痕を隠しておいてよかったぁぁぁぁぁぁ。

 内心でそんな騒ぎを起こしながら働いてくれている子達にこれからの指示とお客様への対応をお願いする。

 とりあえずは月濱 純也がこの国の王族に進言してくれるという事なので何処まで信用できるが解らないが万が一の時の為に撤退の準備をし、アリアに手伝って貰いながらレティに会いに行く為の準備を済ませ、私も商会を後にして離宮へと向かった。

此処までの読了ありがとうございました。

次回はコハク視点です。

ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。

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