君達は出張に行ってきなよ♪
おはようございます。
第210話投稿させて頂きます。
今回も第三者視点です。
楽しんで頂ければ幸いです。
「あぁ、今回は其方の力添えに感謝している。何せ、我が師の要望通りに魔王の会議を遅らせてくれたのだからな」
コハクが去ってから早5日、城に有る自身の部屋にてアルバルトはソファーにだらしなく寝そべりながら執務もせずに通信機相手と話をしている。
「たく、どっちでも良い用事を理由に会議を遅らせるのに俺様がどれほど苦労したと思ってんだ。見返りはちゃんと頂くぜ」
「解っておる。事が起こった後は其方が魔族の国を統治すれば良いだろう?予が人間の国を其方が魔族の国を互いに協力して発展させて行こうではないか」
「はっ、今はそれで納得してやんよ」
通信の相手は今回、魔族間での会議を先延ばした報酬を強請って来るので取り敢えず適当な答えを返せば間抜けな相手はそれで納得した様に偉そうな態度でふてぶてしく答えて来る。
相手の態度に多少、腹の立ったアルバルトは腹立ち紛れさせる為に通信の相手・・・強欲の魔王グリド・ロイドに少し前に聞いた事を口元に意地の悪い笑みを浮かべて口にする。
「それにしても其方、大丈夫なのか?聞いた話によれば黄昏の魔王に魂を縛る誓約を結ばされているのだろう?協力者に死なれると予も些か困るのだが?」
「はっ、俺は用事が有るから会議を先に延ばして欲しいと言っただけだ。誰の邪魔にもなってねぇし、他国に攻め込むのも俺が命令する訳じゃねぇからな。あいつの誓約書にも引っ掛からねぇんだよ。素直にアイツの言う事なんざぁ聞いて堪るかってんだよ」
案外、普通に帰って来た返答に内心面白くないと思いつつアルバルトは返って来る答えを予想しながら話題を変えるためにグリドと連絡を取り合ってから何度もしていた質問を再びする。
「成程・・・あぁ、そうだ。質問がてらにもう一つ答えてはくれないか?予の城に土足で入り込んだ件の黄昏の魔王。いい加減、奴の正体を教えて欲しいのだが?」
「あぁ~、わりぃがそいつは答えられねぇ。アイツが勝手にバレるんなら関係ねぇが俺がアイツの姿や性別を喋るのは魔王同士の誓約に引っ掛かる。そんな下らねぇ死に方だきゃあしたくねぇ」
予想通りの答えに内心で舌打ちをしていると今度はグリドの方から質問を投げかけられる。
「んな事より。アンタの方は大丈夫なのかよ?こっちの魔王会議の日はアンタの所で厄災の野郎が襲来する日だろ?そっちに言われてその日に為る様に調整したが次の日にゃ、全滅してんじゃねぇのか?」
今度は通信機から聞こえて来た意地の悪そうな声にアルバルトは苛立ちを隠すようにフンと息を吐きグリドの問いに答える。
「心配いらん。我が師がその日で良いと言ったのだ。詳細は訊いて居らんが我が師が言うのだ。問題など何もない。それに死ぬは所詮、下賤な民だ。いくら死のうと予は何も困らん」
「へーへ―。結構な言い分だな。アンタが大丈夫だと言うんなら俺からは何にもねぇよ。んじゃ、そろそろ切るぜぇ。こっちで何か有ったらまた連絡してやんよ。じゃあな」
アルバルトの答えに些か呆れた様な反応を見せたグリドはもう話すことは何も無くなったと言う様に一方的に通信を切る。
一方的に切れた通信機がもう誰にも通じていない事を確認してからアルバルト苛立たし気にポツリと声を漏らす。
「ふん。所詮、魔王とは名ばかりの有象無象か・・・」
高貴な身である自分に対し敬いも何も無い下賤でゲスな魔王にイライラしながらテーブル置いていた好物のリコリス商会のカンボのタルトをフォークで切り、口に含む。
「フム、下賤な獣人を使っていたり、予が専属にしてやると言ったのを店長と言う奴が断ったり、未だに美しいと噂の会頭に予を合わせなかったりするがやはりこの商会のスイーツは美味い。権力を使ってあの店に手を出させ失くしていた無能な父も居なくなった事だし、予が王に為ったのだから力尽くで手に入れるとするか」
グリドの態度を好物のスイーツで癒しながら力尽くでリコリス商会を手に入れる事を考えていると部屋のドアをノックされる。
「入れ‼」
ノックに答え入室を許可すると外から幼馴染で宰相にした男と師であるエリスが入って来る。
「お疲れ様でございます。我が君」
「やっほ~♪ちゃんと仕事して・・・してないねぇ~♪この国、トップが無能で終わったわ♪」
仰々しく一礼して来る幼馴染の宰相と辛らつな言葉と共に自分に対して全く敬った様子を見せない師であるエリスが入室してくる。
自分のだらけきった姿を見たエリスの言葉にノロノロと起き上がりながら口を開く。
「そうは言うが我が敬愛する師よ。いい加減、何をするつもりなのかを教えてくれなければ、予も動きようが無いのだが?それに我が師も何もしていないでないか」
エリスの言い様にムッとしながらエリスの言葉に反論するとエリスは「はぁ~」っと溜息を吐いて呆れた様にアルバルトを見る。
何時もみたいに歌う様な感じでは無くガチ目な溜息に少々気後れしているとエリスが口を開く。
「あのさぁ、僕が言っているのは厄災の対策や魔族の対応だけじゃないよ。国の運営の事を言っているのさ。上が無能だと国が回らない。国が回らないと君が見下している国民の生活が苦しくなる。国民の生活が苦しくなると一周回って君の生活が苦しくなるんだよ?まぁ、世の中には国民の収入が上がっていないのに税金や値上げをしまくって国民を苦しめる無能で馬鹿な連中が居るんだけどね。それと僕はちゃんと仕事をしているさ。これから仕上げに入るけどね♪」
最後だけいつも通りのテンションでそう言うとエリスはアイテムボックスから何か赤黒い液体の入った瓶と何かの牙の様な物を取り出し、机の上へと置く。
牙を置かれた木の机は置かれた所からシュウシュウと黒い煙を出して腐って行き、繊細な細工を消していく。
それを嫌そうな顔で見ているアルバルトにエリスは何時もの口調に戻り、声を掛けて来る。
「あ♪猛毒だから触ったら駄目だよ♪」
「な⁉エリス様‼猛毒を我が君の前に持って来るとはどう言うおつもりか‼」
猛毒と聞いた途端に宰相がエリスに抗議を申し立てるがエリスはまるっとそれを無視してアイテムボックスからさらに金属を取り出し、それら全てをあらかじめ書いていたらしい錬金術で使う陣の上へと置いて行く。
「錬成♪」
パチパチと青い雷に似た光が起きる。光が治まると陣の上には先程まで有った赤黒い液体や牙、金属などが消え、一本の色合いの不気味な黒い短剣が生成されている。
「うん♪良い出来だね♪」
エリスは一言だけそう言うと何かを見る様にジッと不気味な黒い刀身を見た後で右手に嵌めていた白い石がはめ込まれているブレスレットに短剣を近づける。
ブレスレットが何かの収納能力を持っていたのか黒い短剣はその輪郭をぼやけさせ、アルバルト達の目の前から消えてしまう。
「うん♪これで準備完了♪後は魔族側の会議の日を待つだけだね」
エリスに質問をしようとアルバルトが口を開きかけるとそれより先にエリスがアルバルトに向けて口を開く。
「あ♪質問は受け付けないよん♪それより宰相君が君に報告が有るみたいだから早く聞いてあげなよ♪」
自分が宰相の報告を遅れさせた要因でも有るはずなのにそんな事は一切感じさせない様にいつも通りの飄々とした顔でそう言われアルバルトは更に不機嫌な顔になる。
「我が君、報告をしても宜しいですか?」
そんなアルバルトの様子を見て宰相が恐る恐る報告を始める。これから報告する事は最悪、アルバルトを更に怒らせる事になるからだ。
「構わん話せ」
明らかに不機嫌なアルバルトから許しが出たのでまずは民の様子や騎士団の様子等、当たり障りのない報告から始める。
「騎士共と転移者たちにはそのまま訓練を続けさせろ。魔王一人にあそこまでやられては実際の戦闘の時に不安でしょうがない。それで?他にお前が何か言い難い事が有るのだろう?さっさと言え」
主人から催促されてしまったので宰相は意を決してこの日アルバルトが一番起こるであろう話題を口にする。
「我が君お気に入りのカンボのタルトを販売しているリコリス商会ですが・・・ポーション等の発注をする為に使いの物を送った所・・・理由は解りませんが全店が閉店している事を確認致しました」
「何だと⁉」
問題の店が閉店していると聞いた途端、先程までだらりと寝そべっていたアルバルトがガタンと音を立てて立ち上がる。
「なら‼予の好物のタルトはどうなる⁉閉店しているのならあの商会が雇っていた菓子職人を何としてでも連れて来い‼」
店が潰れたのなら作らせるために職人を雇えばいい。破格の賃金で雇う事も視野に入れているアルバルトに宰相の男は更に縮こまって言葉続ける。
「それが・・・我が君がそう仰ると思い。職人や雇っていた者を探したのですが誰一人として見つけられなかったのです・・・」
「何だと⁉では、予のタルトはどうなる?もうストックも少ないのだぞ‼下らない事で予の楽しみが消えるなど許される事ではないぞ‼」
完全にブチギレて辺り構わず怒鳴り散らすアルバルトに宰相の男はあたふたとしてしまう。
宰相の隣で見ていたエリスは「この期に及んで好物の心配かよ♪」っと呆れ顔でアルバルトを見て溜息を一つ吐くとしょうがなく代案を提出してやる。
「じゃあさ♪君達はクラシア王国にでも出張に行ってきなよ♪大陸共通通貨は一応持っているんだし、用事を済ませるついでにクラシア王国にあるそのお店で君の好物をありったけ買って来て保存しておけばしばらくは困らないだろ♪簡単に行き来出来るアイテムを数個分けてあげるからさ♪」
最近までクラシア王国に身を寄せていた関係からエリスは件の店がクラシアにも有る事を知っていたのでそう提案するとアルバルトは怪訝な顔でエリスの事を見る。
「使いの物に行かせればいいだろう?予が直接クラシアに出向く理由などない‼」
エリスの提案をブチギレながら否定すると目が笑っていない笑みを浮かべながらエリスは言葉を続ける。
「有るよ♪用事はクラシア王国が保有している勇者の貸し出しを要請しに行くんだ。勇者を貸し出させる手前、新皇帝である君が行くのが一番スムーズなのさ♪宰相と二人、国のツートップが出向けばクラシア王国も無視はできないし、君が好きなタルトも好きなだけ買えるよ♪一石二鳥じゃないか♪」
「・・・確かに、ついでに勝手に店を閉めた商会に文句を言ってくれるわ‼」
エリスが丁寧に説明してやるとアルバルトはやっと納得が行ったという顔を知ってエリスの提案を飲む。
「コック‼メイド共に旅支度の用意をさせろ‼」
「は、はい‼」
やっとの事でやる気を出したアルバルトは宰相の名前を呼び旅支度を命じる。
その近くではエリスが「宰相ってそんな名前だったんだぁ♪」と密かに戸惑っていたのは誰も知らなかった。
此処までの読了ありがとうございました。
次回はコハク視点です。
ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




