言えてなかった謝罪とお礼
おはようございます。
第205話投稿させて頂きます。
良いね。ありがとうございました。とても励みになります。
今回も葵の視点になります。
楽しんで頂ければ幸いです
「ふう、結構歩いたね。疲れていないかい?」
「あ、はい。大丈夫です。正直、帝国で訓練をさせられていた時に比べれば全然元気です‼」
カーナさんのお店から出て結構歩いた所に有るカフェの椅子に座りながらハクさんが私に疲れていないかを訊いてくれる。
答えながら両手を持ち上げ元気であることをアピールすると彼はフッと口元に笑みを浮かべる。
「それなら良かったよ。結構歩き回ったから心配だったんだ」
そう言いながら店員さんが注文を取りに来て幾つかの料理とコーヒーと私用に紅茶を頼んでくれる。
コーヒーはこの世界でも意外とポピュラーな物らしく帝国でもよく愛飲されていた。
少しして店員さんが持って来てくれたコーヒーと紅茶をお礼を言いながら受け取り、そのコーヒーにハクさんは角砂糖を3つ程入れミルクを注ぐ。
「甘いの好きなんですか?」
何だか彼の行動が意外で思わずそう聞いてみると彼は目をパチパチと目を瞬かせて少しだけ言いづらそうに口を開く。
・・・あれ?何か変な事訊いたかな?
「うん・・・まぁ・・・好きか嫌いかで訊かれれば好きだけど一番の理由は飲めないんだ・・・ブラックだと・・・」
「ぷっ」
「・・・笑う事無いじゃないか」
何だか可愛い理由に思わず笑いが漏れてしまうとハクさんは少しだけ拗ねた様に文句を言う。
そんな彼に私は何だか本当に可笑しくなってしまい笑いながら彼に謝罪をする。
「ぷ・・・あははは・・・ご、ごめんなさい。だって・・・あんなに怖いと思っていたのに・・・」
初めて会った時のハクさんは戦闘後というのも有ったのかもしれないが殺気立っていてとても怖い人だと思っていた。
だけど今の彼は全くそんな事無く私達と同じ様に反応し答えてくれるのだ。
失礼な事を沢山言ったりしたのに普通に接してくれる事が何だか嬉しくって思わず笑ってしまった。
「さて、一通り笑ったところで話は変わるけど大丈夫かな?」
一通りそんな事で笑い合った後に先程までの穏やかな雰囲気から少しだけ引き締まった空気を醸し出し、問いかけて来る。
「はい」
ハクさんの雰囲気に私も些か緊張しながら返事をするとハクさんはふと表情を和らげて口を開く。
「緊張しなくて良いよ。訊きたい事は町を歩く前と歩いた後で僕等の印象がどう変わったのかを訊いてみたいと思ったんだ。少し意地悪な言い方になるけどまだ僕達は同じ『人』だとは思えないかな?」
ハクさんの言葉に自分で言った事とは言えドキリとし、思わず目を伏せてしまう。
言い訳になってしまうけどあの時は何も知らなくて魔族は魔物と違わない物だと教えられてきたので何も考えずにあんな事を言ったが今日、街を歩いて見た人達は私達と何も変わらなかった・・・今だからこそ言えるけど私は本当に無知だった・・・
そんな今までの失礼な態度を思い出し、私は申し訳なく思いながらハクさんの問いに答える。
「いいえ。この国に住んでいる方を見て魔族の方達も私達と何も変わらないと思いました・・・ハクさん。帝国でも黄昏の国に連れて来て下さった直後にも失礼な態度を取って申し訳ありませんでした。そして、ユタ君を助けてくれてありがとうございました」
向かいに座る彼の目を見て謝罪の言葉と共に頭を下げるとハクさんは私の謝罪に少しだけ驚いた様な顔をした後で笑みを浮かべると口を開く。
後で湊瀬さんや早乙女さん。リューンさんやお世話をして貰っていた人達にも謝らなくっちゃ・・・許してくれるかな・・・
「立花さんの認識を広げる手伝いが出来て良かったよ。僕の方こそ最初の時に嫌な物の言い方をして申し訳なかった」
「そ、そんな。ハクさんが謝る事は何もありませんよ‼」
そう言って頭を下げるハクさんにそう言うと彼は顔を上げて口を開く。
「いや、僕も言い過ぎたし、君も間違いを正してくれたんだ。そう言う人間には敬意を示さなければいけない」
ハクさんはそう言って頭を上げると言葉続ける。
「人は間違いを正せる生き物なのに帝国の連中は数千年に渡って本当に進歩が無いんだ。僕の何代か前の魔王は帝国を救援した際に後ろから攻撃されて命を落としたらしい。連中は今回も僕達をどさくさに紛れて攻撃し、武器や物資を奪う事を計画していた。君の持っていた《ラファエル》もそうやって奪われた物の一つで当時の黄昏の魔王の持ち物だったんだ」
多少は私の事を信頼してくれたのか黄昏の国と帝国との間柄が物凄く悪いという事を教えてくれながらハクさんはカフェオレで口を潤し、話を続ける。
「僕が帝国を手伝おうと思ったのは友人のディランが真面目な人間で信頼できると思ったからなんだ。ディランは帝国の皇帝の中でも賢帝と呼ばれる程の人物だったんだ。だけど周りの貴族連中は長年の悪習に染まり切っている連中ばかりでディランの政策は全て潰されていたんだよ。少し前のこの国の様にね」
「え?でも、ハクさんが直接動いているからでしょうけどこの国は今凄く安定しているように見えますけど・・・」
ハクさんの言葉に疑問を抱き質問してみると彼は少しだけ言いづらそうな顔をして答えてくれる。
「この国も先代から僕に変わる少しの間に先祖が魔王だという事で高位貴族地位についていた連中に酷く荒らされていたんだよ。僕がこうして動くのは現在の黄昏の国には貴族会・・・この国ではサポート機関と呼ばれている連中を僕が魔王に為って少ししてから全員を処刑したからなんだ。僕の手によってね」
そう言ってハクさんは再びカップに口を付けるとカフェオレ一口飲み、再び口を開く。
「まぁ、要するに人間も魔族も良い人も居れば悪い人も居るって事だよ。さっ、料理も来た事だし、暗い話は終わりにしよう」
ハクさんがそう言うのとほぼ同時店員さんが頼んだ料理を持って来てくれる。
私の前にはオムライスと揚げ物のワンプレート、ハクさんの前には揚げた鳥の挟んであるサンドウィッチと恐らくこの世界で見たテルルという牛の様な動物のステーキが置かれる。
・・・カフェなのにステーキが有るんだ。ハクさんが食べるのかな?
そんなどちらでもいい事を考えていると私の視線に気が付いいたのかハクさんが口を開く。
「あぁ、これは僕が食べる訳じゃないよ。多分、そろそろ来るんじゃないかな」
彼がそう言ったのと同時に空を何かの影が横切り何かはそのままハクさんの肩へと止まる。
「やあ、ネージュ。よく来たね」
「クゥルルルル」
そう言って肩に乗った小さな小竜の顎をハクさんが撫でてあげると小竜は何か不満を訴える様に小さく喉を鳴らしながら手に持っていた紙を差し出す。
「置いて行くなって?よく寝ていたし、君だってよく置いて行くでしょ?あまり怒らないでよ。こうして手紙も持って来てくれたし、こうやってステーキも食べれるから良いだろう?」
「ギャウ‼」
そう言いながら細切りにしたステーキの一枚をフォークで小竜の口元に持って行ってあげると小竜はそれでも何か文句を言いながらステーキに齧り付く。
「・・・かわいい」
正直、ガラスに続いて爬虫類等の動物も好きな(友達には嫌そうな顔をされるので秘密にしている)私はアグアグとステーキを咀嚼する小竜をじっと見つめてしまう。
小竜はそんな私に気が付いているのだろうがちらりと私の方を見たが直ぐに私の事を無視してお肉を食べる事に集中する。
・・・もしかして嫌われてる?
自分のした事なので自業自得なのだが無視されてしまって密かにショックを受けていると小竜から受け取った手紙を読んでいたハクさんが口を開く。
「立花さん。早めに食べて午後の街巡りを止めて直ぐに城に戻ろう」
「え?どうしたんですか?」
いきなりそう言われて驚いて訊くとハクさんが顔に笑みを浮かべて答えてくれる。
「君と一緒に国に連れて来た男の子が意識を取り戻した」
その言葉に私は思わず声を上げて喜びそうになった。
此処までの読了ありがとうございました。
次回は久しぶりにコハク視点です。
ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




