魔王さんとの街歩き・1
おはようございます。
第203話投稿させて頂きます。
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今回は葵の視点になります。
楽しんで頂ければ幸いです
「ふむ。やはりまだ僕達と握手をする気にはなれないか・・・」
魔王さんの素顔?に驚き、思考停止していると少しだけ残念そうな声が聞こえて来てふと我に返る。
いやだっててっきりいつもの黒いコートにフードを被った姿で来ると思ったんだもん。ビックリしてもしょうがないでしょう。てか、湊瀬さん達にしてもこの城で働いている人達にしてもこっちの国に居る人達、何気に美形な人が多くない?
そんな事を考えながら慌てて彼の手を握り返し私も自己紹介をする。
「挨拶が遅くなり申し訳ありません。帝国で保管されていた女神の贈り物、光冥盾《ラファエル》に選ばれた者で立花 葵と言います。もっと早くにご挨拶をしなければいけなかったのにすみません・・・よろしくお願いします」
昨日、リューンさんに言われた事を思い出し、私は今更ながらに魔王さんに自分の名前を告げる。
私が自己紹介をしながら挨拶を返すと魔王さんは今までの私の態度を聞いていたのか少しだけ驚いた様な顔をしたが直ぐに少しだけ笑みを浮かべて口を開く。
「こちらこそよろしく。ゆっくり話をする機会も取れなかったんだ。気にする必要は無いよ。このままゆっくり話をするのも良いけど馬車を待たせているから話の続きは馬車の中でしようか?」
そう促され私は待機していた馬車へと乗り込む。
街へ行く道中は魔王さん・・・トワさんと適度に話しながらだったので退屈せずに街に着く事が出来た。
密かに驚いたのは彼が私や湊瀬さん達と同い年だという事だった。
「わぁ~」
馬でしばらく移動して降りた先は賑やかな市場の近くで思わず歓声を上げてしまう。
帝国の市場も賑わっていたがこの国の市場はそれよりももっと活気が有って賑やかなイメージを受ける。
「まずは市場を見て周ろうか?」
そう言うとトワさんは屋台や露店の並ぶ方向へと歩いて行く。
その彼の後を急いで追いかけながら疑問を口にする。
「あの‼なんで私を此処に連れ出したんですか?」
相当と彼は歩く速度を落とすことなく淡々とした様子で答えてくれる。
「君の考え方を否定するつもりは無いけど君が僕達を人として見られないのは僕達の事をよく知らないだろうからね。一方の事情しか知らなくて視野が狭いのはとても残念な事だ。君を帝国に帰す前に街を歩いてこの国に暮らす人達の営みを見て貰って君が言う人と僕達がどう違うかを比べて貰おうと思ったんだ。」
彼の言葉は自業自得とは言えぐさりと私の胸に刺さる。
確かに私は湊瀬さん達にトワさん達魔族を人とは見れないと告げてしまった・・・恐らく、彼女達に話した事が巡りに巡ってトワさんの耳に入ったのだろ・・・
彼の言葉に思わず下を向いてしまいそうになっていると彼は話を続ける。
「あぁ、勘違いしないで欲しいのだけど責めている訳では無いよ?ただ、この街巡りで少しだけ君の視野が広がってくれれば良いと思ったんだ」
「・・・ありがとうございます」
恐らく気を使ってそう言ってくれた彼に私は唯々お礼を言いながら歩く事しか出来なかった。
「本当にすごい・・・」
少ししてちょっとだけ落ち込んだ気持ちのまま市場に足を踏み入れると周囲の光景に落ち込んだ気持ちが浮上する。
食べ物屋さんのお店やアクセサリーを取り扱っているお店などが並んでおり、帝国では見た事の無いような物が並んでいるお店からは賑やかな雰囲気が伝わって来る。
「よお‼ハク‼久しぶりだな‼元気にしてたか?うちの焼き串喰っていけ‼」
キョロキョロと辺りを見回しながらトワさんの後を付いて歩いて居ると不意に近くの屋台の一つ目のおじさんが声を掛けて来て思わずビクッと肩を震わしてしまう。
大きな声に驚いていると前を歩いて居たトワさんが笑みを浮かべて一つ目のおじさんに返事をする。
「マイクさん。お久しぶりです。腰はもう大丈夫なんですか?」
「おう‼オメェさんから貰った塗り薬で完全完治よ‼その礼だ‼串焼き持ってけ‼」
どうしても串焼きをトワさんに渡したいらしいおじさんにトワさんは笑みを崩さずに返事を返す。
「では、お言葉に甘えます。お金を払うのでもう一本貰えますか?」
「ああん?俺がそんなケチな真似するわけねぇだろ‼20本ぐらい纏めてもってけ‼金は要らねぇ」
「ハハ・・・ありがとうございます」
そう言って美味しそうなお肉の付いた串焼きを20本程まとめて紙の袋に入れてトワさんに渡す。
その量の多さに流石に苦笑いを浮かべながら紙袋を受け取ってお礼を言いながら屋台から離れる。
離れた後もトワさんは彼方此方から『ハク』と呼ばれて呼び止められて様々な物を様々な種族の人達からお礼と言って渡されていた。
そんな光景に前に帝国で見たディラン前皇帝陛下の側近だった騎士様の姿や帝国の街の人達の姿を重ねていると両手一杯に持っていた荷物を何時の間にか最初に渡された串焼きの袋だけにしたトワさんから声を掛けられる。
「はい、まずはお一つどうぞ」
そう言って渡された串焼きを受け取りながら私はここに来てから疑問に思った事を彼に訊いてみる。
「あ、ありがとうございます。あの・・・何で皆さんトワさんの事をハクって呼ぶんですか?あと、皆さんトワさんにとてもフレンドリーですよね?」
アルバルト様だったら絶対に切って捨てられている様な態度を取る彼等に疑問を持ち尋ねるとトワさんは食べ終わった串を別の紙袋に入れ二本目の串焼きを袋から取り出しながら答えてくれる。
え・・・もう一本食べ終わったの⁉
「あぁ、彼等は僕が魔王だという事は知らないし、名乗っておいて本当に申し訳ない事だけど『トワ』という名前は僕が魔王として動いている時の名だからね。此処では気ままな城勤めの『ハク』と名乗っているんだ。因みに白状するとこの顔も声も性別もこれが本当の姿とは限らない。ただ、勘違いしないで欲しいのは君の事を信頼して居ないという訳では無くて僕の個人的事情という事を憶えておいてもらいたい。あ、それと此処で僕の事を呼ぶ時には皆と同じ様に『ハク』と呼んで貰えるととても助かる」
「あ、はい・・・」
そう言った彼に私はあぁ、やっぱり素顔と本名じゃないんだぁ・・・彼にも色々有るんだなぁ・・・っと考えながら串焼きを見る。
お城で出たご飯にも毒なんかは入っていなかったしそもそも、一番毒に気を付けなければいけないであろう隣を歩く人物がパクパクと串焼きを消費していく。
すごい・・・もう5本目だ・・・
そんな事を考えながら私もお肉と野菜(ジャガイモっぽい何か?もしくは本当にジャガイモ)の刺さった串に齧りつきながら突如として始まった魔王さんとの街歩きを続ける。
因みに串焼きは塩気がちょうどいい塩梅でとても美味しかったです。
此処までの読了ありがとうございました。
次回も葵視点です。
ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




