何してるのあの子・2
おはようございます。
第201話投稿させて頂きます。
楽しんで頂ければ幸いです
狗神君を招き入れ、隠し部屋の扉を開けると狗神君は少しだけ驚いた様な嬉しそうな声音で「おお~」と言っていた。
部屋の中にヴァネッサとネージュが居ない事を確認しながらいつもより少しだけ幼い様子の彼を少しだけ微笑ましく思い笑みを浮かべてしまう。
部屋の中に入り、ヴァネッサが置いて行ったケトルのお湯がまだ熱い事を確認してからお茶の準備をする。
・・・てか、ヴァネッサの奴、態々新しいお湯やなんかを用意してタイミングを見て置いて行ったな。
細かい気遣いをしてくれた彼女に内心でお礼を言いながら狗神君に椅子を勧めてティーカップを彼に手渡し自分もベッドに腰掛ける。
お互いに向かい合いまずはゆっくりお茶を飲み一息吐いてから私はゆっくりと話を切り出す。
「私から君に会いに行かなくちゃいけなかったのにこんな形で話す事になってごめんね」
「いや、気にする事無いよ。逃げずに話をしようと思ってくれた事が素直に嬉しいよ」
「う・・・それに関してもごめんなさい」
少しだけこちらを揶揄う様な口調に私はベッドに座ったまま狗神君に頭を下げる。
彼の言う通り私はこの一月、隠し部屋に隠れながら彼等を見付けたら逃げ回るという大変失礼な事をしまくったのだしっかり謝らなければこれから話をする資格は無いだろう。
そんな事を考えて居ると狗神君は私の顔を覗き込みながら口を開く。
「告白した手前、俺が言えた立場じゃないけど出来るだけなら前の様に接して欲しいよ。避けられるのは流石に傷つく・・・」
「うん。善処します・・・」
私がそう答えると狗神君は「うん」と言い頷くと少しだけ顔色を曇らせ言葉を続ける。
「なぁ、コハク。今回、俺達を帝国に連れて行かなかった理由って俺と会うのが気まずかったってだけなのか?」
「どういう事?」
彼の言っている事の意味がよく解らず詳しく聞こうと訊ねると狗神君は少しだけ言い難そうにしながらポツリと答えてくれる。
「いや、俺達が足手纏いだと思われてないかと少し心配に「そんな事無いよ‼」」
狗神君の言葉に被せる様に彼の言おうとしていた事を否定し、言葉を続ける。
「君達が居なかったら私は自分の村を見捨てていたし、第五、第六の厄災との戦いの時だって皆が危険を顧みずフェル達の所に行ってくれなければ第五の厄災は倒せなかった。今回、皆を連れて行かなかったのだって私がヘタレだったのも有るけど帝国貴族の連中は勇者を自分の家系に取り入れる為に手段を択ばない。そんな連中に皆を引き合わせたくなかったという私の我儘だよ。決して皆が足手纏いだと思ったわけじゃない」
私がそう言うと狗神君はホッとしたように表情を和らげ口を開く。
「そっか、少し安心した」
少しという部分に引っ掛からなくも無いがおかしな話に振り回されなくなったのなら良かった。
そんな事をも居ながら私からも一つ狗神君に質問を投げかける。
「うん。私からも一つ質問が有るんだけど良いかな?」
「俺で答えられる事なら」
「君達にそんな余計な憶測を吹聴してくれたのは何処のどいつかな?」
私がそう問いかけると狗神君は言葉を詰まらせ私から目を逸らす。
眼を使って彼を見てやればそこにはアルの顔が浮かんでいる。
———あのヤロー余計な事を言って皆に嫌な思いをさせやがったな・・・
何も答えない彼から無理矢理答えを引き出すと私は顔に笑みを浮かべ、アイテムボックスから何時ものコートを引き出して着込む。
やっぱり魔王として動くならこの格好なんだよね
私が唐突にコートを着込んでいると狗神君が驚いた様に声を出す。
「ちょっ‼」コハク‼コートを着込んでどこに行くの⁉」
「うん?今から余計な事を言ったアルを締めてこようかと思ってね」
笑顔でそう言う私に狗神君は少しだけ慌てた様に口を開く。
「コハク。俺達は大丈夫だから・・・・」
「狗神君。私は彼の雇い主として間違いを正さないといけないんだよ」
アルの所に行くのを止めようと彼に笑顔でそう伝えると隠し部屋のドアが開く音がしてメイド長が顔を出し、コートを着ている私と私を前にあわあわとしている狗神君を見て目を丸くする。
「あ、メイド長。おはよう。昨日はありがとう」
目を丸くしている珍しいメイド長を見ながら昨日のお礼と朝の挨拶をするとメイド長は思考を切り替えたのか私と狗神君を見ながら口を開く。
「おはようございます。コハク様、イヌガミ様。ところでコハク様、なぜその恰好をしているのですか?」
驚いた顔を何処かに投げ捨てて私と狗神君に挨拶を返してくる。狗神君の事は恐らくヴァネッサに聞いていた様で突っ込んでは来ない。
そんなメイド長は笑顔のまま、声のトーンを一つ落として私の格好について言及をして来る。
私は少しだけヤバイと思いながらメイド長に答える。
「いや~、アルが余計な事をしたらしいから少し締めに行こうかと思ってね」
私の言葉にメイド長は溜息を一つ吐き、言葉を続ける。
「はぁ~、今日はお休みになると聞いていたんですけどねぇ・・・アルの事も後でご相談しようかと思っていましたが丁度良かったのかもしれません」
「丁度いい?」
色々言いたい事は有るが全て飲み込んでくれたらしいメイド長に話の続きを促すとメイド長は珍しく疲れた様子で報告を始める。
「実を言うと昨日、ミナセ様とサオトメ様とお客様の間に少々トラブルが発生したらしくその事でリューンがお客様の所に行きました。悪役令嬢という者になって来ると言っていましたので余り穏やかな話にはならないかもと思い。お休み中の所申し訳ないと思いましたが万が一を考えコハク様に出て頂こうかと思って参りました」
「何やってんのあの子?」
申し訳なさそうに私を見ながら報告してくるメイド長に私は素っ頓狂な声を上げてしまう。
昨日の記憶が正しければ私はリューンに彼女に優しくしてあげて欲しいと伝えたはずなのだがなぜそれが悪役令嬢になるなんて事に繋がるのだろうか・・・
「わかった。直ぐに客人の部屋に行こう。狗神君はどうする?」
「何かの役に立つかもしれないし、俺も一緒に行くよ」
思わず私も頭を抱えながら狗神君に訊ねると付いて来てくれると言うので頷きメイド長に続いて隠し部屋を出てアオイに貸し与えている部屋へと向かう
部屋に行く途中で夢菜さんと光さんがアオイの部屋に向かって一緒に歩いて居たので合流し、一緒に部屋へと向かう。
部屋の前まで来ると微妙な顔をして立って居た見張りの二人が驚いた顔をして一斉に臣下の礼をするので手で楽にしていいと促し中の様子を探る。
「これ以・・・勇者・・魔・・・陳情したり・・・・。・・・事は・・・だけよ」
耳を澄ますと途切れ途切れになりながらもリューンの苛立っている様な声が聞こえて来る。
あっ、これはやばいなっと思い私はノックも無く取手に手を掛け部屋のドアを開ける。
「リューン。何をしているんだい?」
私の姿を見てリューンは顔を青褪めさせるが直ぐにハッとした様に外の二人と同じ様に臣下の礼をする。
「リューン、楽にしていいよ」
リューンに声を掛け、臣下の礼を解かせ彼女の顔を見る。
リューンは少しバツが悪いのか珍しく狼狽えた様な顔をしている。
・・・取り敢えず外に出て話をするのが最善かな?
リューンが何かを言う前に彼女の手を握り、部屋にいるアオイについでに明日の予定を伝える。
「騒がせてすまなかったね。それと急な事で申し訳ないが明日は少し僕に付き合ってくれ。少し外を歩こう」
呆然としているアオイにそう告げてリューンを連れて部屋の外に出る夢菜さんと光さんが入れ替わりで部屋の中に入って行くので後の事は申し訳ないけど彼女達に任せる。
途中で付いて来てくれた狗神君と別れ、リューンを回収した私はメイド長に頼んで謹慎中になっているらしいアルを謁見の間に連れて来てくれるように頼む。
さて、一体どんな罰を下すのが妥当なのかなぁ・・・
些か元気のないリューンの手を握りながら今回の件の妥当な落としどころを模索しながら私はゆっくりと謁見の間へと向けて歩を進めた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




