入学して増えたのは剣術レベルと青痣
こんばんは、第20話投稿させていただきます。
楽しんでいただけたら幸いです
穏やかな午後の陽射しが射しこむ広々とした部屋にパラパラと本を捲る音が響く。
「遅い…また研究に夢中になってるな…」
部屋の隅に大量に置かれている本の上に先程まで読んでいた本を乗せまた別の本を取りながらポツリと呟く。
私だって宿題や読みたい本が有って暇ではないのだから本当にいい加減にしてほしい。
そんな事を思っているとバタバタと走ってくる音が聞こえて来た。
「いやぁ、すみません。ついつい、また研究に夢中になってしまいました。」
がちゃ、っとドアを開け、そんなことを言いながらにこやかに入ってくる師匠を半眼になりながら文句も言う。
「そのセリフ、今月に入って15回目です。もっと言えば私が学校に入ってから60回目です。いい加減約束した時間に来る努力をしてください!私だって暇じゃないです!」
私がこの学校に入学してかもう3ヶ月が経つというのにこの男は一回も約束した稽古の時間に現れたことが無いのだ。
「細かいですねぇ、そんなに細かいと禿げてしまいますよ。」
「私の髪を心配するなら約束した時間に来てください!」
「改善できるように善処しますよ。さぁ、準備をしましょう。」
「はぁ~、お願いしますよ…。で?今日は剣術ですか?格闘術ですか?」
この学校は午前中に授業が終わり午後からは師匠になった先生や兄弟子達との稽古や研究の時間が設けられている。
魔法科に入学した私は当然新しい魔法の研究を目の前の師匠と行うと思っていたのだが、ところがどっこい入学してから一度だけ師匠が考えた魔法を見せて貰ったりしただけでそれ以降は魔法の研究ではなく、なぜか剣術や格闘術の稽古をしている。
一応予想は付いているけど試しに聞いてみようかなぁ…
「そうですねぇ。今日は格闘術の稽古にしましょう。」
「了解です。あ、そうだ師匠、一応予想は付いているんですけど、私は魔法科に入学したのに何で剣術や格闘術の稽古ばかりやらされているんですか?」
「あぁ、それは簡単な話ですよ。もし、仮に決闘などで魔法の使用を禁止されたらどうやって戦いますか?肉弾戦しかないでしょう?」
まあ、そうですよねぇ。それしかないですよねぇ。分かっていたけど聞いてみてすっきりしたから良かった。
「質問はもう無いですか?では、構えてください。稽古を始めますよ」
そう言って師匠は広い場所に行き準備を始めた。
この先生、魔術師のくせに剣術も格闘術も滅茶苦茶強いのだ。今日は絶対に一撃加えてやる‼
「…で、一撃も…加えることが出来ずに…今日もボコボコにされてしまったと…」
「ハイ…とても恥ずかしいお話ですが…」
「別に…恥ずかしがる事は無い…あれが…おかしいだけ…」
数時間後、私は第一保健室と呼ばれている所で師匠との稽古で出来た怪我の治療をして貰いながら治癒魔法使いの先生と話をしていた。
この先生はレイン・カーフィン先生と言って貴族で師匠とは幼馴染らしい。奴と幼馴染…大変そうだぁ…
ちなみにこの第一保健室は治癒魔法使いのレイン先生が優秀なのでちょっとした傷ならすぐに治ってしまうが、怪我をしたら皆は二階にある第二保健室に行ってしまうので人が居ないので私のお気に入りの場所でもあるのだ。
なぜ、人が居ないのかと言うとこの先生は恐ろしいほど無表情な上に口数も少ないため皆怖がってしまうらしい。実際は、優しく丁寧に診てくれるので私はこの先生が結構好きだ。
「それに…イクスも…呑み込みが早く…色々…応用した戦い方をしてくるって…喜んでいた…」
「え゛、あの変人が私の事を褒めたんですか?…怖っ!」
「うん…褒めていた…あれでも人の事はよく見ているから…」
おぉ~、さすが幼馴染!師匠の事をよくわかっている。
そんな事を考えていると先生が静かに注意してくれた。
「でも…女の子なのだから…もっと…怪我には…気を付けた方が良い…。私から…イクスに言っておこうか…?」
毎回ボコボコにされている私の治療をしてくれているからか相当心配してくれているようだ…本当に優しい先生だなぁ。
「ありがとうございます。でも、師匠も酷い怪我にならないように細心の注意をしてくれているみたいですし、もう少し頑張ってみます。」
心配させて申し訳ないけど私ももう少し勉強してみたいと思ってしまっているのだ。魔法使いなのに…
「…なら…良いけど…絶対に…無理をしては…駄目よ…」
「はい、無理をしないでもう駄目だと思う前に相談させていただきます。」
私の無理をしないという言葉を聞いて少しホッとした様子で言葉を続けた。
「約束よ…、これで…今日の怪我の…治療は…終わったわ…。今日は…もう…部屋に戻るだけ…?」
「ありがとうございます。はい、後は部屋で他の先生からの宿題をしたり、本でも読んで過ごすつもりです。」
「疑問だった…のだけど…あの量の本…一体…どのぐらいの…ぺースで…読んでいるの…?」
「全部で大体一時間ぐらいですかね?速読出来ますし、今まで読んだ本の内容も全部覚えていますよ」
あぁ、そういえば此処に来てかなりの量の本を借りたなぁ…。毎回借りる量が多いから結構怪訝な顔をされているんだよなぁ~
「そう…なの…教えてくれて…ありがとう。話は…変わるけど…一人部屋で…寂しくは…無いの?」
「そうですね。別に寂しくは無いです。むしろ自由気ままに過ごせて結構快適ですね」
この学校の寮の部屋割りはちょっと特殊で同じ先生の下で学んでいる子達が同じ部屋になる。お互いの先生の許可が有れば他の子とも同部屋になれるらしい。
ちなみに私の師匠は全然弟子を取らない。よって私は、現在気ままな一人部屋なのだ。
それが理由か分からないけど現在の私に友達は居ない。まぁ、師匠が師匠だし、入学してから少しした時に他の先生の挑発に乗ってしまい。
皆の想定以上の威力の魔法を使っちゃったのも原因の一つなんだろうなぁ…
「一人が…気楽なのも…わかるけど…友達は…居た方が…良い」
私が一人でいるのも気にしてくれていたようで控えめに言ってくれた。
「ありがとうございます。でも、幼馴染のテトも時々来ますし、仲良くなれるチャンスが有れば頑張ってみます。」
先生が頷いたのを見てから座っていた椅子から立ち出口に向かう。
「先生、ありがとうございました。また、怪我をしたらよろしくお願いします」
「本当は…怪我をしないのが…一番良い…」
まぁ、本当にそうなんですけどねぇ…
ドアの前で先生の方を向きペコリと頭を下げ、私は気ままな自分の部屋に戻ったのであった。
やっと学校編に入れました\(^o^)/
魔王になるまであともうちょっとです




