人間の定義
おはようございます。
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また、誤字脱字報告。真にありがとうございました。
すみません。予約投稿の時間間違えていました。遅くなりましたが第199話投稿させて頂きます。
今回は葵の視点です。
「えっと・・・どちら様ですか?」
ドアの前に立つ初めて見る女性に私がそう問いかけると女性は私の事を一瞥してからスカートの裾を少しだけ持ち上げ俗に言うカーテシート言う綺麗なお辞儀をする。
正直、見た目が漫画とかで見る悪役令嬢の様な雰囲気なのでいきなり嫌味でも言われるかと思ってしまったが少し拍子抜けをしてしまう
「お初にお目に掛かります。わたくし、グランデ公爵の息女でリューン・ルルティナ・グランデと申します。以後、お見知りおきを」
「あ、えっと。はい。よろしくお願いします。あの・・・それで何の御用でしょう・・・?」
いきなりの公爵令嬢の登場で私は些か警戒しながら目の前の女性に用件を訊ねる。
今までこの国の上位貴族なんて言うのが此処に来た事が無かったのにいきなり訪ねて来たのである警戒して当然だろう。
彼女の様子を窺っていると彼女は一瞬だけ冷たい視線を私に向けてから扇子で口元を覆い隠して私の質問に答える。
「いえ、トワ様があなたの事をお客人として連れて来てから勇者様方に貴女のお話し相手をお任せしっぱなしで我が国は誰もお相手なさっていないとお聞きしたので僭越ながら一緒にお茶でも如何かと思いましてお誘いに参りましたの」
扇子で口元を隠したままにこりと笑って体を少しだけずらした彼女の後ろには数日前の湊瀬さんの時と同じ様に此処まで案内してくれたメイドさんがティーセットの乗ったワゴンの取手を持って立って居る。
気のせいか湊瀬さん達と一緒にいた時より顔色が悪いようにも見える。
「入っても宜しいかしら?」
「あ、えっと、どうぞ」
彼女の何とも言えない圧に負け、私は借りている部屋に彼女とメイドさんを通す。
お茶の支度が終わるとメイドさんは何時もの様にそそくさと部屋から出て行ってしまうがいつもと違って心なしか私に同情の視線を送って来たような気がした。
初めて見る相手と話をするのは緊張するけどでも、相手は公爵令嬢と言っていた確か貴族の地位において王様の次に高い地位のはずだ。味方に付ければ魔王さんに進言して助けてくれるかもしれない。
そんな期待を込めて私は相手がカップから口を離すのを見てから話を始める。
「この紅茶、美味しいですよね。この国で採れたものなんですか?」
湊瀬さん達の時には失敗してしまったがまずはどうでも良い話をして相手の警戒を解く。
そんな気持ちを込めながら相手に話題を振ると彼女はカップをソーサーに置きニコリと笑みを浮かべて口を開く。
「この紅茶は暁の国の特産品の一つですよ。これはダージリンという品種のセカンドフラッシュですね」
「へぇ~、そうなんですかぁ・・・」
聞いた事のある紅茶の名前にこんな所でも栽培されているのかと内心で驚きながら相手の言葉に相槌を打つと今度は相手の方が口を開く
「さて、本来ならこう言う腹の探り合いみたいな行為を繰り返しますが、人間以下の虫に向かっては全くの無駄なので本題に入りましょうか?」
「なっ⁉酷いこと言わないでください‼私は人間です‼訂正して下さい‼」
いきなり虫だと目の前の相手に言われて私は思わずカッと頭に血が上り思わず声を荒げてダンっと机を叩き立ち上がりながら反論してしまう。
睨みつける私の事など全然気にした様子も無く再びカップに口を付けてお茶を一口飲んでから口を開く。
「いいえ。貴女は人間じゃないわ。確かに種族的には人族人科の人間種でしょうけどそれは只単にその人科の人間種が主に人間と呼ばれているだけで貴女達だけが人間という訳じゃないわ。貴女は貴女達が下に見ている魔族や亜人達よりさらにその下の虫以下よ」
「なっ⁉」
「私はね。人間という者の定義は最低限、自己紹介と挨拶が出来て謝罪とお礼が言えて相手の事を尊重できる者の事を言うと思っているの。でも、貴女達はどう?助けてくれと言う癖に手を差し伸べて助けてくれた相手にお礼を言わず相手の事を見下し馬鹿にしてあまつさえ名乗りすらしないじゃない。それで助けて欲しいとかちゃんちゃら可笑しいわ。もう一度礼儀を学び直して来たらどうかしら?」
「み、見下してなんていません‼」
相手の言葉に少しだけドキリとしながら否定すると目の前の彼女は真っ直ぐに私の目を見て私の言葉を更に否定する。
「いいえ。見下しているわ。貴女、ここに来てから勇者様を除いたこの城の子達に御礼の一つでも言った?魔王様に怪我をさせたことを謝った?貴女が連れて来た子供の治療のお礼を言った?何一つ言っていないわよね?するべき礼も謝意もせず。与えられた物を当然という顔で唯々享受する。そんな者なんて虫以下で十分よ。もちろん。貴女だけでなく帝国で胡坐をかいている馬鹿共全員ね」
虫扱いされて再び頭に血が上り反論しようとすると私の事をキッと睨んでくる。
恐らく帝国で訓練した私の方がお嬢様として育った彼女より強いとは思うが彼女の威圧感に気圧されて口を噤んでいると溜息を一つ吐き続けて彼女が口を開く。
「これだけ言われても何も言い返せないなんて情けないわね。その程度の覚悟しか持たない虫がこれ以上私達の大切なあの方に重荷を背負わせないで‼あの方は顔には出さないけど何時だって悩み、考えて、苦しんで背負いながら答えを出しているの。あの方は今回の件だって背負わなくて良いのに背負うわ。その相手があんた達虫以下の人間だってね・・・」
それだけ言うと彼女はゆっくりと席を立つ。
「これ以上勇者様方を使って魔王様に陳情したり助けを請わないで。言いたい事はそれだけよ」
彼女がそう言い終えたのとほぼ同時にノックも無く部屋のドアが開かれ誰かが部屋へと入って来る。
誰かが入って来るのと同時に立ち上がった彼女へと向けて声を掛ける。
「リューン。何をしているんだい?」
些か無機質に思える声の方を向くとそこには以前見た黒コートの人と最初の日に談話室みたいな場所で最初に見た黒髪の男性が立って居た。
目の前の女性の顔はその声に些か顔を青褪めさせていた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回は久しぶりにコハクの視点なる予定です。
ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




