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おはようございます。
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また、誤字脱字報告。真にありがとうございました。
第197話投稿させて頂きます。
今回も立花 葵の視点です。
楽しんで頂けたら幸いです。
「それで、私にお話とは・・・?」
立ち話もなんなので部屋の中に入って貰い部屋に備え付けられているテーブルにメイドさん以外の全員が座った所で私は湊瀬さんにお話の内容を訊いてみる。
さっきの魔王さんの話を聞いて疑念を抱いて来てくれたのかもしれない。もしかしたら説得しなくても力を貸してもらえるかもしれない等と言いう淡い期待を込めて訊いてみると湊瀬さんはメイドさんからお茶を受け取り、「ありがとうございます。リイナさん」とお礼を言った後で私の質問に答える。
因みにメイドさんは椅子に座った全員の前にお茶とお菓子を置いたら一礼をして部屋から出て行ってしまった。
「えっとね。最初に言っておくと大した用事は無くって単純に立花さんとお話してみたかったの」
笑顔でそう言う湊瀬さんに少しだけ残念に思いながら私も笑顔で湊瀬さんの言葉に返事を返す。
「気に掛けてくれてありがとうございます。いきなり此処に連れて来られて不安だったのでお話できる人間が居てすごく安心します」
私の言葉に一瞬、湊瀬さんと早乙女さんの笑顔が引き攣り小さい女の子からは鋭く睨まれた気がしたが改めて見るとそんな事は無かったので恐らく気のせいだろう。
そんな少しの違和感は有ったがその後は何事も無く無難な話題でお茶会は進んで行き、良い時間になったので湊瀬さん達は彼女達の部屋へと戻る事になった。
———今はまだ話題に出す時じゃない。今は二人と仲良くなる事を考えよう。取り敢えず明日も約束を取り付けておかないと・・・
そんな事を考えながら皆が席を立ったタイミングで湊瀬さんに向けて声を掛ける。
「あ、あの‼明日もお話して貰っても良いですか?」
「うん‼また同じ時間ぐらいに来るね‼」
私がそう言うと湊瀬さんはにこりと笑って明日来てくれる事を約束してくれた。
その事に少しだけホッとしてから部屋を出て行く三人に手を振り、私は部屋の窓から外を見てみる。
随分と話していた様で外は日が落ち、街全体が夕闇に包まれている。
・・・夜の風景は帝国と似てるなぁ・・・
別に帝国を故郷みたいに思っている訳じゃないけどそれでも約一年に近い年月をあの国で暮らしていたのだ。多少の愛着も親しい人達も居るのだ。
「絶対に協力して貰うんだから・・・」
窓の外を見ながらそう呟いた所でドアがノックされメイドさんが夕食を運んで来てくれたのを受け取る。
その際にもう一度、ユタ君の容態を訊いてみると今度は先程と違い今度は容態が一先ず安定したとの返答が返って来た。
一先ずユタ君は大丈夫そうな事に安堵しつつ食事を受け取り、食事を摂ってもう一度シャワーを浴びた後に少しだけ小説を読み、その日は就寝する事にした。
色々有った所為で私は思った以上にふかふかなベッドに潜り込むと数分としない内に深い眠りに入って行った。
「そう言えばお二人はここに来てどれぐらいになるんですか?」
昨日と同じぐらいの時間に来てくれた二人とお茶をしながら私は何でもない事のように装いながら二人に質問をする。因みに小さい女の子は今日は別の人達と一緒にいると言った様で今日は来ていない。
湊瀬さんと早乙女さんはティーカップを持ったまま顔を見合わせ少しだけ考える様に顔を顰めた後で口を開く。
「うーん。この世界に来てからそろそろ一年ぐらい?魔族側の国や黄昏の国に来てからは5ヶ月ぐらいかな~」
——やっぱり湊瀬さん達もこの世界に来て一年ぐらいなんだ・・・この世界に来たのが一年ぐらいで更に魔族の国に来てから5ヶ月なら余りこの国に思い入れは無いかもしれない。
多少上がった味方になってくれる確率に内心で喜びながら私はいよいよ本題に入る。
「あの、湊瀬さん、早乙女さん。一つ相談したい事が有るんですけど・・・」
「うん?なあに?」
「どうしたの?」
私の言葉に早乙女さんは口に含んでいたスコーンを飲み込みながら湊瀬さんはカップから口を離しながら問い返してくれる。
ジッとこちらを見る二人を見返しながら私は意を決して続く言葉を口にする。
「魔王さんに帝国を助ける様に一緒にお願いして貰えませんか?帝国にも良い人たちは沢山居るんです」
そう訴えかける私に湊瀬さんと早乙女さんは何とも言えない顔をし、口を開く。
「ごめんね。立花さん。私達はこ・・・黄昏の魔王さんの決定に異を唱えるつもりはないんだよ。私達が今、生きているのは此処の人達のお陰だし、何より私達は名前も顔も知らない人達の為にこの国の人達に犠牲になってなんて言えないよ」
「それに黄昏の魔王が帰ってきた時、随分とボロボロだったよね?アレって立花さんの言うアルバルトって言うのが攻撃してきた証拠でしょ?あくまで私の意見だけど大切な友人を傷つけた相手に対して助けてあげる義理は無いと思っているし、私は黄昏の魔王の意見に賛成だよ。貴女が帝国の人達が大切なように私達はこの国の人達の方が大切なの。悪いけど立花さんのお願いは聞いてあげられない」
私の言った事に対して湊瀬さんは穏やかに早乙女さんは若干怒った様子で拒否の意を示す。
そんな二人の言葉に少しだけ焦りながら私は言葉を続ける。
「た、確かにアルバルト様がした許されない事でした。けど、それで他の人達迄見捨てる様な事はして欲しくないんです。だって、同じ人間でしょう?」
「う~ん。同じ人間ねぇ~」
私の同じ人間という言葉に何かが引っ掛かったのか湊瀬さんはのんびりだが苦虫を噛みつぶしたような顔で言葉を続ける。
「唐突だけど立花さんは黄昏の魔王さんの言った『助けた相手が同じ人間だった時だけ』って言う言葉をどういう意味でとらえたか教えて貰っても良い?」
「え?同じ人間って言うんですから私達みたいな姿の人の事ですよね・・・」
唐突なその質問に私は思わず顔を顰めながら答えると早乙女さんは溜息を吐き、湊瀬さんは残念そうな顔をして口を開く。
「じゃあ、その『人間』に亜人さんや獣人さん、魔族の人って入ると思う?」
「え?すみません。入らないと思います」
亜人、獣人、魔族は姿形が違うし何よりこの世界独自の種族だ。帝国で習った事でも人間とは私達の様な種族の事で有り、亜人、獣人、魔族は人間には入らない物だと教わった。
その事を念頭に入れ答えると早乙女さんが不機嫌な事を隠そうともせずに口を開く。
私は何か怒らせたのだろうか?
「黄昏の魔王が同じ人間じゃないって言っていたのは貴女が助けたい帝国の人間の事だよ。その理由は黄昏の魔王の様子を見れば一目瞭然だったよ。あの子は元々帝国を助けるつもりだったんだ。だけど、そんなあの子にアルバルトは攻撃して挙句の果てに善意を踏みにじって全てを台無しにしたんだ。私達は帝国の事はよく知らないけど誰かに同じ様な教育をしている。似たような国を知っている。そう言う国の国民は大抵その国の王と同じ様な思考を持っているんだよ。帝国はそのアルバルト所為でつい最近代替わりをしたみたいだけど別の国の人達の様子や貴女の黄昏の国の人達に対する態度を見ていたら昔から碌な国じゃないって大体予想が付くよ」
段々と怒りがにじみ出て来て居る様な早乙女さんを見て湊瀬さんはフゥーと静かに息を吐くと早乙女さんに向けて声を掛ける。
「ひかちゃん。ちょっと落ち着こう?立花さんの考え方は最初の時の私達と一緒だよ?ごめんね。立花さん。私もちょっと冷静じゃなかった。今日はこれぐらいにしようか?明日もまた来るね」
湊瀬さんは早乙女さんを窘めると話を中断して席を立ち。明日も来る事を約束して部屋から出て行ってしまった。
何が原因で怒らせてしまったのか私は彼女達が出て行った扉をただ見ている事しか出来なかった。
湊瀬さんと早乙女さんと険悪な空気になってしまった翌日、湊瀬さんは今日も来てくれると言っていたが正直気が重い・・・
———私の意見の何が間違っているんだろう・・・?誰も教えてくれないのにあんな態度取られても良いじゃない・・・
ベッドに寝っ転がりながら無言で文句を垂れているとコンコンっと部屋のドアがノックされる。
湊瀬さん達が来たのかと思いドアを開けるとそこにはここに来てから見た事の無い。黒髪を綺麗に纏めて藍色のドレスに身を包んだ少しだけ冷たそうな印象の女性が無表情で立って居た。
此処までの読了ありがとうございました。
次回はメイド長の視点です。
ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




