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おはようございます。
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また、誤字脱字報告。真にありがとうございました。
第196話投稿させて頂きます。
今回は立花 葵の視点です。
時間軸はコハクと言い合った直ぐ後です。
楽しんで頂けたら幸いです。
「お前と話していても時間の無駄だ。次の魔王会議の後に正式な決定を連絡する。本日は解散だ。皆、ゆっくり体を休めてくれ。リイナ。そこの客人にも監視を付けて一部屋用意してやってくれ」
魔王さんの決めた方針にどうしても納得出来なくて一言言ってしまい私は酷く後悔した。
帝国を見捨てると言う彼に助け合う事は大切だと言ったのだが彼は声変わり前なのか高い声で私の言葉を切り捨てて話を終わらせてしまった。
確かに彼にアルバルト様がした事を考えると私のお願いは確かに酷い言い草かもしれないし彼等から死者が出る事だって思わなかった訳では無い。
でも、私だって助けたい人達は居る。彼に一方的に帝国の人達を悪く言われる謂れも無いのだ。
少しだけふらつく様に歩いて行く彼は近くに居たさっき見た5人組の男女を避ける様にして部屋から出て行く。
そんな彼に5人組の男女の中の男の人が彼に話し掛けようとしていたけど魔王さんはさっさと部屋から出て行ってしまう。
あからさまに気落ちしている男の人を見ていると近くに虎の耳があるメイドさんが声を掛けて来る。
「お部屋までご案内致します。どうぞこちらへ」
無表情で私に対して警戒の色を濃く出しながらも丁寧な対応で私の事を部屋へと案内してくれる。
廊下を歩きながら私はここに来てから引き離されてしまったユタ君の事を目の前を歩くメイドさんに駄目元で訊いてみる。
「あ、あの‼私と一緒に此処に来た男の子は今、どの様な状態なんですか?此処に来て直ぐにメイドさんの一人に何処かに連れていかれてしまったんですけど・・・ユタ君、大怪我をしているんです。彼の容態だけでも教えて貰えませんか?」
ユタ君が今どんな扱いを受けているのか想像が出来ずに目の前のメイドさんに確認を取る。
メイドさんは一瞬、私の方を目だけでいると前を向いたまま淡々とした口調で私の問いに答える。
「申し訳ありませんが、その問いは現在、わたくしの方に情報は入っておりません。ただ、客様のお連れになった子供は魔王様の御命令で医療室にて医師により本格的な治療を受けております。魔王様の施した応急処置が適切だった為、命は助かると思われます」
「・・・良かった」
そう呟いた私に目の前のメイドさんは何か言いたげな顔をしていたが特に何かを言う事も無く歩き続け、何かの部屋の前で止まると無表情で私の方を見て口を開く。
「こちらがお客様に使って頂く部屋でございます。部屋の前に見張りが居ることはご了承ください。部屋にはシャワールームと着替えもございますのでご利用ください。また、何かございましたら見張りに声を掛けて頂ければ手の空いている者が対応いたします」
「あ、はい・・・」
そう言って綺麗な礼をして部屋の前から離れて行くメイドさんに返事をしてから私は部屋の前で立って居る人達の脇を抜け、部屋のドアを開けて中に入る。
「うわぁ・・・広い・・・」
割り当てられた部屋を見て私は思わずポロリと驚きの声を漏らす。
帝国で与えられた部屋も広かったのだがこの部屋は帝国で使っていた部屋よりもはるかに広かったのだ。
部屋にはシャワーも付いているらしく壁で区切られたスペースが見える。
先程部屋を用意してくれたはずなのに服等の生活必需品が一通り揃えてベッドの上に置かれている。
・・・流石に武器に為りそうな物は無いよね。
用意されている必需品の中に武器に為りそうな物がない事を残念に思いながら私はひとまずシャワーを浴びる事にして着替えとフワフワのタオルを血が付かない様に持ってシャワールームと思われる場所のドアを開ける。
ドアを開けると何処かのホテルかとツッコミを入れたくなるようなユニットバスが設置されており蛇口を捻ると温かいお湯が流れ出した。
やけに近代的な設備に驚きながら一先ずお風呂に入って私は血を洗い流し、用意されていた肌触りの良い服に袖を通す。
シャワーを浴びて着替えた後に部屋の中を探索している途中で先程のメイドさんが昼食を持って来てくれたので受け取り、私は恐る恐る渡された昼食に口を付ける。
・・・毒は入ってないみたい・・・と言うか普通に美味しい・・・
若干、失礼かもと思ったが毒が入っていない事にホッとしながら匙を動かして食事を食べ進める
食事を食べ終えた所で今度はテーブルに置かれている本に目をやる。どうやら小説の様だ。
・・・魔族の本なんて置かれていても私は帝国語と大陸共通言語しか教えて貰っていないんだけどなぁ・・・
内心で少しだけ文句を言いながら本を読んでみると意外な事に大陸共通語で書かれている事が分かる中身は帝国以外で人気の冒険小説らしい。
取り敢えずは必要ないのでベッドに座りながら先程の広間やサロンの様な場所で見た人達の事を考える。
———種族的には人間だったよね?魔王さんとは知り合いみたいだったけどひょっとしたらアルバルト様から聞いていた勇者さん達かもしれない。それなら説得の仕方によっては私達の事を助けてくれるかも‼
そんな事を考えていると部屋の向こうから見張りとして配置された魔族の人達と誰か女の子が話している声がボソボソと聞こえて来る。
・・・誰と見張りさんが喋ってるんだろう?
ドアの前で聞き耳を立てていると向こう側の声が途切れ途切れだが聞こえて来る。
「しか・・・・お二人だ・・・魔王さ・・・駄目・・・メイドちょ・・・許可を・・・」
「えぇ、・・・そう言わ・・・思った・・・・メイド長からきょ・・・貰いました」
「ネージュが証人‼・・・証龍?」
「はぁ・・・わかり・・・」
「ありが・・・います」
「お気を付け・・・さい」
「はい‼」
あまり大きな声では喋っていないのか途切れ途切れでしか聞こえないがどうやら扉の向こうの人達は私と話がしたいらしい。
ドアの前でしゃがみながらそんな事を考えているとドアが開き私に向かって迫って来る。
「ふぎゃあ‼」
ドアが顔面に当たり、我ながら情けない声を上げながらその場に尻餅をついてしまう。
「いったぁ~」
「ごめんなさい‼大丈夫ですか⁉」
声を上げる私に目の前の先ほど見た5人組の女の子が驚いた様子で謝りながら手を差し出して来る。
よく見ると彼女の後ろに銀髪の小さい女の子と手を繋いだもう一人の女の子や見張りの魔族の人達も驚いた様子で此方を見ている。
「あ‼大丈夫です‼」
手を差し出してくれた女の子の手を握り慌てて返事をしながら立ち上がると手を貸してくれた女の子がホッとした様子で口を開く。
「怪我は大丈夫?・・・何でドアの前に居たの?」
怪我が無いかを心配しながら何故ドアの真ん前に居たのかを訊かれて私は多少気まずくなりながら答える。
「えっと・・・怪我は大丈夫です。ドアの前に居たのは誰かが話をしているのが聞こえたので何を話しているのか気になって・・・それでドアの前に居ました・・・」
若干、囚人のような気持になりながらドアの前に居た理由を話すと目の前の女の子が少しだけ申し訳なさそうに口を開く。
「あ、そうなんだ・・・大きな声で喋ってごめんね。貴女とお茶のついでにちょっとお話がしたかったから護衛の人達と話をしてたんだぁ・・・少し時間貰っても良いかな?」
そう言ってちょっとだけ体をずらした彼女の後ろには相変わらずの無表情で私を此処まで連れて来たメイドさんがカートにティーセットやお菓子を乗せて立って居る
そんな彼女を見てから私は目の前の女の子に答える。
「えっと・・・時間は大丈夫です。ただ、貴女は誰ですか?」
先ほど見ていたので顔は知っているが名前は知らないので今更ながらそんな質問をすると女の子は「たはは」と言う様な言葉が出てきそうな顔をした後で私の問いに答える。
まぁ、恐らくだけど彼女ともう一人の子はアルバルト様の言っていた勇者なのだろうが・・・
「あ、うん。名前を教えて無かったよねぇ~。私の名前は湊瀬 夢菜って言います。この世界で風の勇者に選ばれた地球の人間です」
湊瀬さんの言葉に続いて後ろの女の子も早乙女 光さんだと名乗ってくれたので私もお返しに挨拶をする。
わざわざ地球の人間だと言ったのは恐らく私を安心させる為だろう。
「えっと。立花 葵と言います。帝国で保管されていた女神の贈り物、光冥盾《ラファエル》に選ばれた者です」
一通り挨拶を済ませ笑顔で挨拶をしながら私は内心で接触したかった人達が来てくれた事を喜びつつ、彼女達をどうやって味方に付けるかを考えながら差し出された右手を握り返した。
此処までの読了ありがとうございました。
次回も葵の視点です。
ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




