回廊から響く悲鳴
おはようございます。
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また、誤字脱字報告。真にありがとうございました。
第194話投稿させて頂きます。
楽しんで頂けたら幸いです。
「なにあの人⁉すっごい腹立つーーーーーー‼‼‼」
リューンが有ると名乗った男を引き摺って少ししてから唐突に早乙女さんが地団駄を踏みながら大きな声で先程の男に態度に文句を言う。
まぁ、アルと言っていた男の言っている事も早乙女さんの言っている事もどちらも分かる・・・
「まぁ、アルって奴の言い分も分からなくもないな・・・自分等の主人が命がけの場所に言っている時にカードなんてやってたら文句も言われると思う。あっちが全部正しいとは言えないが俺達も反省する点はちゃんと反省した方が良い」
乾が概ね俺と同じ意見を口に出して言う。ただな乾・・・俺が思っていても口に出して言わなかったのはちゃんと意味が有るんだよ・・・
そんな事を思いながら乾の言葉を聞いていた小さな人影に眼をやると彼女は目に見えてシュンとして下を向いてしまう。
そんなネージュを湊瀬さんが抱き上げ、頭を撫でて宥めながら乾に非難の視線を向ける。
その視線に気がつき乾がしまったという顔をして急いで釈明する
「あ~、ああは言ったがネージュの所為とは言ってねぇからな?お前だってコハクが居なくて寂しい思いしてんのは俺らだって分かってるからな・・・」
そう言ってコイツにしては珍しくオロオロとしながら言葉を続けている。
そう言えばコイツって何だかんだで子供が好きなんだっけ?いや、如何わしい意味じゃなくて純粋にな。龍とは言え人の姿のネージュにしょんぼりされると流石にこたえるらしい・・・
そんな乾の珍行動を見て早乙女さんもようやく腹の虫が少し治まったのかサロンの椅子に皆が座り、そのまま何もするわけでも無く時間だけが過ぎて行く。
ネージュが月夜を持ったまま湊瀬さんに腕の中でうつらうつらとし始めた頃にサロンのドアが控えめにノックされ、返事をするとドアが開き、メイド長とヴァネッサさんがティーセットやお菓子をワゴンに乗せて現れる。
二人は先程のリューンさんと同じ様に一分の隙も無い綺麗な礼をするとゆっくりと口を開く。
「皆様、先程はアルが失礼を致しました。お茶を用意したのでお召し上がりください」
そのメイド長の言葉でヴァネッサさんがお茶の入ったカップを俺達の前に置いてくれる。
メイド長達に礼を言ってからお茶に口に付け、一息ついた後にメイド長に現在の状況を確認してみるとメイド長は少し困った様な顔で答えてくれる。
「誠に申し訳ございません。現在、我々も情報の精査の最中です。ただ、非常に宜しくない状況であると考えられます。魔王様がお戻りになれば詳しい状況が分かりますのでもう少々お待ちください」
そう言ってお辞儀をするメイド長にお礼を言い。再びカップに口を付ける。
結局、コハクが戻るまでは詳しい情報は解らずじまいか・・・
そんなままならない状況に歯噛みをしながら過ごしていると唐突に状況が動き出す。
お茶を飲んで少ししてメイド達がティーセットを片付けてくれている時に《リング・オブ・トワイライト》から見覚えの有る回廊が開く。
「・・・ぁ」
驚き回廊を見ていると何やら声が聞こえて来て唐突に回廊から誰かが飛び出して来る・・・と言うか吹き飛んで来る。
「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
何者かは盛大な悲鳴を上げながら回廊から飛び出した勢いのままサロンの中を机や椅子を巻き込んで転がって行く。
その惨状を見たメイド長とヴァネッサさんが一気に警戒モードに入り、恐らく武器を隠している場所に手を触れる。メイド長の顔が一瞬、鬼の様な形相になった事は見なかった事にしよう・・・
回廊から飛び出した人物に警戒しながら目を向けるとその人物は血塗れで同じく血塗れの少年を抱き抱えている。
少年の方はちらりと見た感じではこの世界の人間の様だが、少女の方はよく見なくても顔立ちが日本人の様に見える。
少女の方は直ぐに目を開けると少しだけぼんやりと辺りを見回した後で直ぐに腕の抱き抱えている子供に声を掛ける。
「イッタ~、あの人乱暴すぎですよ・・・そうだ‼ユタ君、大丈夫⁉」
抱き抱えている子供は、意識は無いが小さく呻き声を上げたので生きている事は確認出来た。
その様子に安堵したのか小さく息を吐き今度は俺達の方に不思議そうな視線を向ける
「ここは・・・それに貴方達は?」
その疑問に答える前に回廊からもう一つの影が今度は飛び出してくる事無くゆっくりと現れ、回廊が音もなく消える。
所々、ボロボロではあるが取り敢えず無事そうなコハクの姿に内心ホッとしているとコハクは一瞬だけ俺の方を見て気まずそうにしてからメイド長に声を掛け、指示を出す。
「メイド長、急いでアル達を謁見の間に召喚しろ。それと各魔王に緊急の魔王会議の通達を頼む。ヴァネッサ、彼女が抱えている少年を急いで緊急医療室へ。他の皆は僕と一緒に謁見の間へ来てくれ。アオイ、詳しい説明は後でする、今は僕達に付いて来い」
何が何だか分からない内に矢継ぎ早に指示を出すコハクにいち早くメイド長とヴァネッサさんが動く。
メイド長がさっきの指示通りにさっきの男達を謁見の間へと呼びに行き、ヴァネッサさんが少女から子供を受け取ろうと近づいて行く。
当然、少女は最初、抵抗しようとするがコハクが冷たく「その子を殺したいのか?」と問うと渋々と言った様子でヴァネッサさんに子供を預けた。
そんなやり取りが有った後、広い謁見の間へと移動してしばらくすると呼ばれていたさっきの男達も此方に合流する。
心なしかさっきのアルと呼ばれていた男の生傷が増えているような気がする。
全員が揃った事を確認するとコハクはゆっくりと喋り始める。
帝国の皇帝が変わった事や帝国で何が有ったのか、アオイと呼ばれていた子の事やエリスと呼ばれる人物の事など一通りの内容を喋り終えた後でコハクは一息つくと全員の顔を見回して再び口を開く。
「結論を言う。黄昏の国は第七の厄災戦を一時放棄する・・・」
驚きの言葉に全員が息を吞むとコハクは更に言葉を続ける。
「帝国には滅びて貰う」
冷たくそう言うコハクの手が小さく震えていた事にこの時の俺は気がつくことが出来なかった。
此処までの読了ありがとうございました。
次回コハク視点に戻ります。
ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




