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おはようございます。

ブックマーク・評価ポイント・いいね。ありがとうございました。とても励みになります。

また、誤字脱字報告。真にありがとうございました。

第192話投稿させて頂きます。

☆は三人称視点です。

楽しんで頂けたら幸いです。

「我が師よ。予の邪魔をするとはどういう事かな?」


 突然現れたエリス・ケールにアルバルトは更に苛立ちを募らせた様子で問いかける。


「あは♪僕が何かをするのにいちいち君に教えてあげる義理は無いよ♪ただ敢えて言わせて貰うのなら僕は君に剣を教える時に言ったよね♪子供を殺す様な事はどんなことが有っても許さないって」


 意外な言葉の最後の部分を何時もの様に楽し気ではなく冷たい声音でアルバルトに向かって言いながらエリス・ケールは乱暴に漆黒の長剣で《オロチ》の刃を弾き、アルバルトをニコニコとした顔で見ながらまだ子供の傷口を抑えているアオイに向かって声を掛ける。


「葵ちゃん♪その子を抱えて直ぐにトワ・・・魔王の所まで行くと良いよ♪多分、あの子ならポーションを持っているだろうからね♪アルバルトは僕が抑えておいてあげるから行きな♪」


 切り掛かって来るアルバルトを片手で相手にしながらアオイに対してはいつも通りに明るく楽し気な声音で何故か私の方に逃げろと助言をしている。

 エリス・ケールの意図を測りかねていると今度は私の方に向けて声を掛けて来る。


「トワ♪僕の行動に疑問を抱くのも分かるけど今だけは僕に協力してくれないかな♪取り敢えず彼等を匿ってよ♪君だって子供が死ぬのは本意じゃないだろ?」


 的確に私にとって痛い所を突いて来るエリス・ケールの言葉に動けないでいる間にもアオイが切られた子供を抱いて私の事を警戒しながら私の方に走って来る。

 ええい‼もう訳分らん状態になっているんだ‼こうなったら敵でも何でも利用してやんよ‼

 半ば自棄になりながら近づいてきたアオイに向かって急いで指示を飛ばす。正直、あまり時間が無いかもしれない。


「そこに寝かせて傷口の部分の布を引きちぎれ‼」


 アイテムボックスに《タケミカヅチ》と《シナツヒコ》しまってから手持ちのポーションを取り出し、そう指示するとアオイは一瞬、私の指示に従っても良い物かと考えたみたいだが他に選択肢も無いので直ぐに床に寝かせて子供が纏っている襤褸の服の引き裂かれた部分を千切り傷口をしっかりと露出させると今にも泣きそうな顔で私に喋りかけて来る。


「お願いします。友達なんです。調子の良い事を言っているとは分かっています。ですがユタ君を助けてください‼」


 喋っている内に泣き出してしまったアオの脇を抜け子供の傷の具合を確かめる。

 出血が多く、傷が深いな・・・ポーションの経口摂取は不可、本格的な治療は機材が必要。一先ず応急処置で傷口を塞ぐしかないな・・・

 傷口等を見て判断したのと同時に右手でポーションの蓋を弾き、少年の傷口にポーションをかける。


「うぅ・・・」


 傷が塞がる痛みで呻く少年を見て更に二本、三本とポーションを傷口にかけていく。

 一先ず少年の出血が治まった所でエリス・ケールとアルバルトの戦闘に目を向けると二人はこちらに視線を向ける事もなく切り合いを続けている。正確には必死になって切り付けているのはアルバルトでエリス・ケールは余裕な顔で捌いているだけだ。

 そんな二人から目を離し、アオイと少年を見て何か仕掛けられていないかを探る。

 意外な事に一通り探ってみたが特に何かが仕掛けられている事も無く、私は不審に思いながらもアオイに声を掛ける。


「一先ず、今現在の命の危機は脱した。彼をしっかりと治療するには施設が必要だ。真に不本意だが今から僕の国に連れて行く。君も一緒に来い‼」

「え⁉此処から出るんですか⁉でも、どうやって・・・それに貴方の国に行くって・・・」

「悪いが言い合いをしている時間は無い。その子を死なせたくないのなら素直に従え」


 一方的にそう言い、先程撃ち抜かれた左手に着けている《リング・オブ・トワイライト》の起動ワードを口にする。


「コリドーオープン」

「え⁉えっ⁉何これ⁉何処から⁉」


 いきなり出て来た黒い穴・・・回廊に驚いたのかアオイが悲鳴に近い声を上げる。

 ビクビクしながら回廊を見ているアオイに応急処置をした子供を抱えさせ右手で服の襟を苦しくない程度に掴み持ち上げる。


「え?な、何するんですか⁉」

「中に入ったら僕が来るまで少し待て。勝手に歩き回るなよ」


 私の行動に驚くアオイに又もや一方的に話しかけてアオイを持っている手をゆっくりと回廊に向けて揺らし始める。


「子供はしっかり抱えておけ、絶対に落とすなよ」


 私の言葉にこれから起きる事を悟ったのかアオイの顔がサッと青ざめ、慌てた様子で口を開く。


「ちょ‼ちょっと待ってください‼まだ心の準・・・「済まんが時間が無い。じゃ、向こうで待って居ろ」」


 アオイの言葉を途中で遮り、悲鳴を上げるアオイを回廊に投げ込む。

 その光景の一部始終をアルバルトの剣を捌きながら見ていたのか遠くの方からエリス・ケールが「うっわ♪鬼♪」っと言っている。うっせ。私は鬼じゃなくて魔王だ。

 そんなやり取りを声に出さすにやり私は二人の戦闘を見ながらエリス・ケールに聞こえない小さな声で呟く。


「礼だけは言っておく。だが、借りだとは思わない。次に会った時はまた敵同士だ」


 今の私だけでは子供を助ける事は出来ても彼等を連れて脱出する事は出来なかった。エリス・ケールが居たから安全に迅速に脱出する事が出来る。

 それだけはエリス・ケールに感謝しながら呟くと悔しい思いを胸に秘めながら私も回廊へと飛び込み帝国を後にした


 ☆


 黄昏の魔王が空間に開いた黒い穴の中に入って行くのを横目で確認してからエリスはいい加減この下らない切り合いを終わらせる為に靴裏に付いている陣をコンコンと床で叩き陣を起動するワードを口にする。


錬成(アルケミージング)♪」

「小癪なぁ‼ぐぬぅ‼」


 エリスが何かを仕掛けて来ると考えたアルバルトは距離を詰めようとするがその前に床の石材が物凄い勢いで伸び、アルバルトの顎を打つ。


錬成(アルケミージング)♪」


 アルバルトが石柱に顎を打たれ蹲った隙にエリスは作った石柱に更に変化を加えアルバルトの手足と《オロチ》を拘束する。


「ぐっ‼物質の形状変化・・・錬金術か・・・」

「あは♪よく勉強しているね♪百点満点ではないけど正解だよ♪さぁ♪僕の勝ちだ♪下らない戦いは終わりにしようか?」


 アルバルトが自分の使った術を当てた事を褒めつつエリスは戦闘終了を明言するがアルバルトは拘束されたままエリスを睨みアルバルトは恨み言を口にする。


「予の邪魔をしておいて一方的に戦闘終了を宣言するか‼一体何を考えて居るのだ‼答えよ!エリス‼」


 ギャアギャアと叫ぶアルバルトにエリスは溜息を一つ吐くと顔を近づけ小さな子供に言い聞かせるように口を開く。


「良いよ♪お馬鹿な君に教えてあげる♪まず、第一に僕が君の邪魔をしたのは君が僕の言いつけを守らずに子供を殺そうとしたからだ♪前にも言ったよね?子供を殺す事だけは許さないってだから邪魔をしたんだ♪第二に君が仕掛けた余興は先代皇帝と黄昏の魔王を戦わせる事だったみたいだけど失敗して全然面白くなかった♪あのままだったらいくら葵が使えていても君達は負け確定だったよ♪」


 遠くに落ちている《ラファエル》を横目で見ながらエリスはちょろちょろとアルバルトの周りを回りながら言葉を続ける。


「第三に僕には僕のプランが有ってね♪その為に色々利用する事にしたんだよ♪」

「師のプラン?それは一体?」

「君より面白い余興だよん♪今はまだ秘密♪」


 エリスの自分のプランという所に興味を持ったのかアルバルトは睨むのを止めエリスに問いかけるがエリスは楽しそうにしながらはぐらかす。

 不満そうにしているアルバルトに笑いながらエリスは話を続ける。


「以上の点で君の事を邪魔した訳だけどやっぱり一番の原因は子供を利用した上で殺そうとした事だという事は憶えておいてね♪さぁ、僕の話は以上だけどどうする?まだぼくと戦うかい?言っとくけど次は可愛い弟子と言えど殺すよ♪」


 エリスの言葉にアルバルトは歯を噛みしめ悔しそうな顔をするが数秒後には息を吐き諦めた様に口を開く。


「わかった。もう争うつもりは無い。我が師よ。拘束を解いてもらえないか?」

「オッケー♪」


 そう言うとエリスはあっさりとアルバルトを拘束していた床を元に戻す。


 拘束を解いて切り掛かられる心配をしていないのはエリスにはそれを余裕で捌く自信がある事を知っているアルバルトは渦巻く感情を押し殺し目の前の師に質問をする。


「感謝する・・・ところで師よ。質問ばかりで申し訳ないのだが一つだけ教えてくれ。何故、予が幼いころから子供だけは殺さぬように言うのだ?それ以外なら貴女は沢山殺していよう?」


 アルバルトの問いにエリスは一瞬だけいつもの笑顔を引きつらせたが直ぐにいつもの笑顔に戻りアルバルトの問いに答える。


「残念♪それも秘密だよん♪」

「秘密ばかりではないか・・・」

「あは♪女は秘密が多ければ多い程美しくなる者なんだよ♪さ、この戦いでずっと気を失って居た役立たず達を起こしてさっさと次のお祭りの準備をしよう♪」

「次の祭りの準備と言っても戦力として使う魔族共は逃げられしまったではないか。予定では魔王を打ち倒し、その身柄を人質に使ってやる予定だったではないか・・・」

「あは♪そんな強制的に働かせようとばかり考えて居るから君は何時まで経ってもひよっ子なんだよ♪相手からぜひともやらせてくれって言わせる方法なんて幾らでもあるのさ♪解ったらさっさと彼等を起こしに行きなよ♪」


 不満そうなアルバルトへ向けて軽くそう語り、アルバルトを遠くへ押しやるとエリスはトワが最後に言った言葉を思い出す。


『礼だけは言っておく。だが、借りだとは思わない。次に会った時はまた敵同士だ』

「あは♪もちろん君に貸しだなんて思っていないよ♪むしろ僕はやっと君に借りを返す事が出来たんだ♪」


 そう言いながらエリスは愛おしそうに胸元に着けている四つ葉型のブローチを優しく触り、言葉を続ける。


「次に会う時は正真正銘全力で殺しに行くさ♪」


 遠くで恨みがましくこちらを見ているアルバルトに気がついて居ながら誰にも聞こえない声でそう呟くとエリスも他の人間達を起こすために歩き始めた。


此処までの読了ありがとうございました。

次回は和登視点になる予定です。

ごゆるりとお待ちいただければ幸いです。

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