閑話:平穏の裏の不穏
こんばんは、第19話投稿させていただきます。
こんかいは閑話です。楽しんでいただけたら幸いです
「ひ、ひぃ、く、来るなぁ‼」
「~♪~♪」
そんな事を言いながら本棚の間を走って逃げていく獣人の男の後を私は鼻歌交じりに追いかける。その途中で右手に握っている剣を一振りし、刀身に着いた血を振り落とす。
「あはははは♪なっさけないなぁ♪それでも魔王候補者の一人なの♪」
情けなく逃げていくその男にそんな声を掛けながら奥へ奥へと追い詰めて行く。
「はい♪残念♪行き止まりでしたぁ~♪」
とうとう行き止まりに追い込まれた男に楽しげに声を掛けると泣きながら命乞いをしてきた。
「た、頼む。この本はアンタに渡すから頼むから命だけは助けてくれ‼」
そんな、情けないことを叫びながら男は持っていた本を私に差し出してきた。
「え~、此処に来てせっかく手に入れた魔導書を手放しちゃうの~?それじゃあ、君の事を庇って死んだ守り人達が浮かばれないよ?」
「命あっての物種だ!頼むからこれで見逃してくれ‼」
「それじゃあ、この本は有難く貰って行くよ♪」
「じゃあ・・・」
私が本を受け取ったことにより見逃してもらえると思った男が安堵の言葉を漏らそうとしたのを遮るように言葉を続ける。
「でも、君がこの本の魔法をもう使えるようになっているかもしれないよね?不安要素はやっぱり排除しておかないとね♪」
「え・・・?」
「はぁ、やーっぱり大したことなかった♪」
足元に転がる肉塊を蹴飛ばしながら本に火を着けて投げ捨てると不意にこの場に似つかわしくない気の抜けた男の声が聞こえて来た。
「あ~、嬢ちゃん。ちょっと聞きたいんだけどそこで肉塊になっているのは、うちの候補者でさっき燃やした本は魔導書かい?」
声がした方に振り向くと二本の剣に二羽の烏の紋章が書かれた仮面を着けた男がそこに立っていた。
あは♪やぁっと当たりが釣れた♪
「うん♪そうだよ♪そういう貴方は黄昏の魔王だよね?探していたから出てきてくれて助かったよ♪」
肉塊を軽く踏みながら今度は仮面の男に確認をする。
分かっていても確認は大切だよね♪
「あ~、嬢ちゃんの予想通りだし色々と聞きたいことも有るが、とりあえずその足をそいつから退けてやっちゃあくれねぇかい?」
「あれ?この死体顔馴染みだった?」
「いんや、別に後継者候補ってだけでまだ知り合いでもなかったし、顔も知らない奴だけど、弔ってやるのにそんなにバラバラじゃあ可哀想だし、何も死体をそこまで痛めつけなくても良いんじゃないかと思ってな、つーわけだから退けてやってくれや」
頭を掻きながらどうという風でも無い感じで話し続けてはいるけど、全く隙を見せることなくその手は常に腰に掛かっている剣の柄を握っている。
しょうがない、多分くれないと思うけど手に入れたい物も有るし此処は素直に足を退けてあげるか♪
「良いよ♪その代わりに僕のお願いも聞いてくれる?」
「あ~、可愛い女の子のお願いだからおじさんも聞いてあげたいけど、それも内容次第だなぁ~」
「あは♪内容は簡単だよ♪貴方が魔王になった時に先代から継承したものが欲しいんだ♪今も大切そうに首から下げているそれがね♪」
服に隠れた部分を指差しながら楽しそうに質問に答えると特に驚いた様子も見せずにあくまでマイペースに返事を返して来た。
「はぁ~、悪いねぇ嬢ちゃん。こいつは俺の後継者になる奴に渡さないといけねぇのさ。嬢ちゃんが後継者だったら喜んで渡したんだけどな、違うんだろう?」
「残念ながら貴方の後継者じゃ無いね♪」
「はぁ~、やっぱりそうだよなぁ。」
男は特にがっかりした様子も無く頭を掻いている。
「あ♪そうだついでに答えてよ♪なんで竜種の貴方が人の形何てとっているの?元の姿の方が楽でしょ?」
特に聞く事ではないけど、まぁ、好奇心は大切だよね♪
「まぁ、元の姿の方が楽ちゃあ楽だわな。でも、執務をこなしたり人と接するのはこの姿の方が良いんだわ。これが俺が人の姿をとっている理由かねぇ。それにしても、俺の元の姿の事やこれが何処に有るか分かるなんて随分良い目をしているんだな、いや…良すぎるのか。その目どうやって手に入れた?」
「フフ♪やだなぁ♪この目はこっちに来てからずっと持ってるスキルの一つだよ♪誰かを殺して手に入れたものじゃないよ♪」
おぉ♪怖い怖い♪言葉にいきなり殺気が混ぜられた♪この人やっぱり油断できないや♪
「さて♪じゃあ、交渉は決裂したって事で剣を抜きなよ♪どうせこのまま僕を逃がしてくれる気はないんでしょ?」
右手の剣をくるりと回して剣先を男に向けながら少し挑発気味に言う。
「はぁ~、あのなぁ、嬢ちゃんおじさんこう見えて結構年なのよ。いくら可愛い娘のお誘いでもあんまり激しい事はしたくないのよ。おとなしく捕まっちゃあくれないかい?」
「あはは♪ソレ普通にセクハラだよ♪それにおとなしく捕まる気も無いよ♪」
「はぁ~、だよなぁ~結局やるしかないか」
怠そうにしながら腰から朱色の刀身と銀色の刀身の二本の剣を抜き構える。
「言っとくが死んでも恨むなよ。嬢ちゃんは強すぎるから手加減なんて出来ねぇ、本気で行かせてもらう。」
「あは♪忠告どうも~♪そっちこそ死んでも恨まないでね♪」
最後の言葉を交わし私達はお互いに向かって駆けだした。
次回はコハクに戻ります。
ごゆるりとお待ちいただけたら幸いです




