合言葉
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第189話投稿させて頂きます。
楽しんで頂けたら幸いです。
「黄昏の国、国主。黄昏の魔王。トワ様ご来場‼」
帝城に着くと先触れを出していたとは言え予想していたよりあっさりといつも通りにいつも謁見の間として使っている王者の間へと通されて私の中の疑惑はどんどん色濃くなって行く。
王者の間にはいつも通り肘掛けに腕を乗せ、頬杖をついているディランが皇帝の証である煌びやかな衣装に身を包んで座っている。
そんな彼に私は遠目から眼を使いステータスを覗き見てその結果に予想通りだったとはいえ密かに拳を握る。
☆
種族:人間 名前:ディラン・ファラリクス・グラディア 性別:男 年齢:43 Lv.76 拳Lv.66 魔法Lv.35 状態:死亡・アンデット 特記:グラディア帝国元皇帝・傀儡状態 所属:グラディア帝国
☆
「やぁ、ディラン。久しいね」
彼の状態を見て沸き上がる怒りを抑えながら彼に声を掛けると彼は私のよく知る彼のままで返事を返してくる。
「おぉ、トワ。久しいではないか?どうした?もっとこっちに来たらどうだ?」
本当に何処までもいつも通りの彼の態度にこんな茶番を用意した奴に内心で腹を立てながら万が一の可能性として彼の策の可能性も有るので私は平静を保ちながら至って平坦な声で彼と取り決めた合言葉を口にする。
「いや、此処で良いよ。それより今日はテルルのステーキと白パン。キャベッタと季節の野菜サラダ。ブドーの果実水は用意していないのか?」
「いきなり何を言っているんだ?腹でも減っているのか?」
想像通りの相手の反応にやはり彼の計略では無かったと確信しながらやっぱり私と彼との間の合言葉を知らなかったらこういう反応して来るよなぁ・・・っと思ってしまう。
因みに彼と決めた取り決めで彼が用意した何かしらの策なら彼からの答えは「そこに麦酒が入るだろう」という答えが返って来る。
そんな事を考えながら私は仮面の下でディランのフリをしている奴を睨みながらワントーン低い声で問いかける
「お前は誰だ?」
「トワよ。誰だとはどういう意味だ?笑えぬぞ?予は予だ。グラディア帝国の唯一無二の皇帝ディラン・ファラリクス・グラディアだ」
私の問いかけにあくまで自分はディランだと主張する相手に私は盛大に溜息を吐いて見せてから口を開く。
「臭い三文芝居はいい加減にやめろ。さっき、僕が言った言葉はディランとの間で決めていた合言葉だ。もし、お前がディラン本人か代理人だというのなら先程の合言葉の正しい返しを言ってみろ」
そう挑発してやると余裕そうな笑みを浮かべていたディランの顔が怒りに染まっていく。
そう、それ、今のがディラン本人なら彼は笑いながら「冗談も分からんのか?本気になっちゃって恥ずかし(笑)」と言って私の事を小馬鹿にして来るはずだ。
ディランを操っている何者かが悔しそうにディランの体を使って何かを言おうとした瞬間、部屋の中にパチパチとこちらを馬鹿にしたような拍手が響く。
音の鳴る方に仮面の下で睨む様に視線を向けるとディランと同じ様な服装に身を包んだ若い男がニヤニヤとした笑みを浮かべながら此方に向かって口を開く。
「いやぁ、見事、見事。元皇帝である父を使って貴公に強襲しようとしたが流石と言うべきか見事に躱したようだなぁ~。流石、生前父が友と認めた強者よの」
ニヤニヤとそんな事を言いながら玉座まで近づいて行くとディランの遺体が玉座から退き男が偉そうにドカッと玉座に座る。
「ブルタイン。もう父上の死体は下げてよい。予が対応するさっさとその忌まわしい死体を下げろ」
「は、ハイ‼直ちに下らせます‼」
玉座に座った男は近くにいた男に声を掛けるとディランの遺体は先程見せていた表情がスッと消えフラフラと奥の方へと消えて行く。
そんなディランの遺体を忌々しそうに睨んだ後、男は取り繕ったような笑みを浮かべて私に話しかけて来る。
「フン。死んでもなお、忌々しい親父だ。予が玉座に着く際にも予の兵を半分以上も殺しよった。老いた者はさっさと次の世代に交代すればよいと其方も思わぬか?黄昏の魔王よ」
初対面の相手に対して名乗りもしない男に対し警戒しながら私はゆっくりと口を開く。
「老害と言われるような人間が上に居るのならばその意見には賛成だ。だが、初対面の者に対して名乗りも無ければ最低限の礼儀もわきまえていない者がそれを言うのは片腹が痛いな」
私の言葉を聞くと男はわざとらしく納得したような顔を見せると大げさな動作をしながら再び口を開いて自己紹介を始める。
「おぉ・・・それは申し訳ない。予とした事が準備していた余興が其方によって潰されてすっかり忘れていた。一度しか言わんのでよく記憶しておくが良い。予の名前はアルバルト・ヒューズ・グラディア。グラディア帝国第7代目皇帝にてこの大陸全てを治める者だ。ああ、其方が自己紹介をする必要は無いぞ大陸の覇者になる予はその他の事も良く知っている。予と同じ先代殺しの黄昏の魔王よ」
「その事を誰から聞いた?」
自己紹介と共に素っ頓狂な事を言って来た男に些か呆れそうになっていると私の事について語りだした男に思わず低い声が出てしまう。
私が先代を殺して魔王に為ったという事は黄昏の国の重鎮達や魔王達の間でしか知られていない事だ。それをこんな初対面の男が知っているという事は私達の中に裏切り者が居るという事になる。
私の反応が期待通りの物だったのか男は自分が優位に立ったと思いニヤニヤと笑いながら口を開く。
「そんな事は予の手足となって働くのならいくらでも教えてやろう。此処には厄災共と戦う為の打ち合わせに来たのだろう?一つだけ言っておく。予は父と同じ様に貴様らと同等の同盟関係を結ぶつもりは無い。我らの様な高貴な血筋の者達を助けたければ予の軍門に下れ。下らぬならここで死ね」
限りなく頭の悪い事を言って来る男に敵地であるにもかかわらず呆れていると周囲を武装した兵士達に囲まれる。
よく見ると兵士の中に嫉妬の国で見た転移者たちも混ざっている。
彼等とアルバルトの抜いた剣を見て私はここでの最後の質問を口にする。
「お前達に下る気は無いよ。最後の質問だ。これぐらい答えろ。その剣《冥蛇剣オロチ》だな?嫉妬の国を襲撃したのはお前の配下の者で間違いないな」
私が問うとアルバルトは《オロチ》を肩に担ぎニヤリと笑い答える。
「もちろん。予の精鋭達だ。使わない武器に意味は無いからな。予が有効活用してやろうという物だ。話は終わりだな?皆の者‼殺さない程度に痛めつけ立場を教えてやれ‼」
その言葉と同時に林葉達を含んだ全員が武器を抜き襲い掛かって来る。
その連中を玉座のある場所から見下ろしながらニヤニヤしている男に向けて私はアイテムボックスから武器を取り出しながら口を開く。
「そうか・・・」
その言葉と同時にアイテムボックスから取り出した武器を一振りすると襲い掛かって来た兵士達が吹き飛び壁に叩きつけられる。
流石にそんな光景は予想していなかったのか男は驚いた様な顔を私に向けて来る。
そんな男に向けて私は《シナツヒコ》を向けながら言葉を続ける。
「ならば、ディランの事も含めて僕が君達に手加減をする理由は何処にもないな」
その言葉に呼応する様に取り出した《タケミカヅチ》《シナツヒコ》の刃が開き、周囲に雷と暴風が巻き上がった。
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