待ち人来ず
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第187話投稿させて頂きます。
楽しんで頂けたら幸いです。
「よぉ、ねぇちゃんみねぇ顔だな。待ち合わせか?さっきから見てたんだが相手にはすっぽかされちまったみてぇだな。どうだ?《雷電》の二つ名を持つ俺がいる《アレキサンドライト》パーティ、《ライメイ》が一緒に飲んでやろうか?」
ワイワイと賑やかな店内の声を肴にしながら此処に来た時のお決まりになっているブドーの果実水を飲みながら料理をつまんでいると何やらチャラそうな集団がニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべながら話しかけて来る。
「いえ、もう帰る所なのでお構いなく」
待っていた相手ではなかったので若干がっかりしながらそう答えると相手は私の態度が気に入らなかったのか少し声を荒げて答えて来る。
「ざけんな‼俺達が声を掛けてやってんだぞ。良いから俺らと来いよ‼」
相手を威圧するような声と同時に私の右腕を掴もうとして来る男の手を席から立ち上がって逆に掴み。捻り上げてテーブルに押さえつける。
私の思わぬ反撃にパーティメンバーも手を捻り上げられた相手も目を白黒させている。
そんな相手に向けて私は少々ドスを効かせた声音で脅しかける。
「たかだか《アレキサンドライト》クラスの雑魚が私の許可無く私に触れるな。5秒やる優しく言ってやっている間に回れ右して消え失せろ」
内心でまともな《アレキサンドライト》クラスの冒険者達に謝りながら男をテーブルから離してパーティメンバーの方に突き飛ばしてやると相手は一瞬ポカーンとした顔になりながらもその顔は徐々に怒りに染まって行き突き飛ばした奴から順に武器に手を掛ける。
「てめぇ・・・このアマ。調子に乗るなよ‼」
「遅いよ。もう使い物にならない」
逆上しながら武器を抜こうとした相手に冷たい声音でそう言うとその言葉と同時に武器と防具がただのゴミへと変わり地面に落ちる
「いつ武器を抜いたんだよ・・・」
《カグツチ》を抜いていた私の姿を見て呆然とした様子でそう言う輩に私は冷たい視線を向けながら再度口を開く。
「最後通告だ。失せろ」
低い声で脅してやると相手のパーティの一人が私の眼と頭髪を見てハッとした顔になり絞るように声を出す。
「朱色の長剣に銀の頭髪・・・まさかアンタ。七魔境の総覇者。最年少 《エメラルド》クラス到達者の銀姫か⁉」
今更になって私の正体に思い至ったのか他の連中もサッと顔を青くして後ずさる。
「し・・・失礼しました‼」
二つ名が《雷電》だとか名乗っていたリーダー格の男の言葉と同時にパーティメンバー全員が迅速に店の外へと逃げだして行く。
・・・すごい。逃げ足だけはパーティネームと二つ名の如く雷みたいに早い。
「おお、すげぇな逃げ足だけは一丁前だな。譲ちゃん。大丈夫か?助けに入れなくて悪かったな」
相手の逃げ足に些か呆然としながら剣を仕舞っていると後ろの方から私の事を心配してヴァッシュさんが声を掛けてくれる。
一つ息を吐いて気持ちを落ち着けてからヴァッシュさんに向き直り口を開く。
「いえ、アレくらいどうとでもなりましたから・・・騒がしくしてすみません」
「前にもこんな事が何回か有ったなぁ~美人の宿命だねぇ~。前はディンの野郎が間に入ってたなぁ~。譲ちゃんにもそろそろ守ってくれる奴がいるんじゃねぇのか?誰かいい奴いないのか?」
「ハハハ・・・悲しい事に居ないですね・・・」
ヴァッシュさんの言葉に一瞬、彼の事を思い浮かべながらすぐに打ち消し乾いた笑いと共に特定の人はいないと否定する。
全く、自分で彼の事を振っておいて何をムシの良い事を考えて居るのか・・・
私の言葉に何故か周りで飲みながら話を聞いていた男性冒険者が色めき立ったがそんな彼等を無視してヴァッシュさんが何とも言えない顔で頭を掻きながら口を開く。
「まぁ、そこいらの男どもじゃあ嬢ちゃんに守られる側になっちまうか・・・それにしてもディンの野郎は何時も呼びもしないのに来るくせして何で今日に限って来ないかねぇ・・・」
「まぁ、毎回約束している訳では無いのでディンさんも都合が悪い日ぐらい有りますよ」
私の相手に関して適当に納得した所で今度は私の待ち人が来ない事に関して不満を感じたらしく今度は渋面を作り文句を言うヴァッシュさんに笑顔で答えながら内心でこの国の皇帝であるディランの事を心配する。
理由は簡単で私が帝国を訪れる事がディランに伝わった時点で彼とは一度この店で個人としての話をしてから国としての話をする用に決めていた。
相手は皇帝、私は魔王として会うので中々話がスムーズにいかない事も有るので事前に打ち合わせをする為だ。
そんな彼が今日はこの店に来なかった。恐らく帝城で何か有ったのだろう・・・
そんな考えを頭の中で纏めながらこれまた事前に決めていた待ち合わせの限界時間になったので荷物を手に持ちヴァッシュさんに声を掛ける。
「ディンさんに会えなかったのは残念ですがお店も混んできましたので私はそろそろ御暇しますね。ヴァッシュさんの元気そうな顔が見れて良かったです」
「おう。そうかい。帰り道気を付けるんだぞ」
「はーい」
そんな会話を終えて代金を支払い。私は出口へと向かって歩く。玄関のドアに手を掛けようとして私はふと動きを止めヴァッシュさんに改めて声を掛ける。
「ヴァッシュさん。帝国を出て他の国にお店を出す気は無いですか?」
「何だいきなり?」
唐突な私の言葉にヴァッシュさんは面食らった様に目を丸くして問返してくる。
その問いに私は少しだけ考えてから返事をする。
「あ、いえ。ひょっとしたらこの国少し大変な事になるかもしれないので・・・」
皇帝に何か有ったかもしれないからなどとは絶対に言えないので我ながら何とも歯切れの悪い回答に内心苦笑しながら答えるとヴァッシュさんは何かを察してくれたのか深いとは突っ込まずに返事をくれる。
「大変な事が有ろうと腐ってもこの国が俺の故郷だからな別の国に店を出す気はねぇな」
「そうですか、変な事を言ってすみませんでした。また来ますね。ご馳走様でした」
「おう‼また御贔屓に‼」
笑顔でそう答えたヴァッシュさんに私も笑顔で返し、ドアを開けて私は自分の商会に指示を出す為に店を出て帰路に着いた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ちいただければ幸いです。




