あぁ、そうだった・・・
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第182話投稿させて頂きます。
楽しんで頂ければ幸いです。
ゆっくりと意識が戻って来て肌に触れる柔らかく触り心地の良い布の感触で自分が無事に回収された事を確認してゆっくりと目を開ける。
目を開けるとここ数日で見慣れた天井が目に入り内心でホッとしながらベッドから身を起こすと近くに待機していたのかリューンが急いで近づいて来て声を掛けて来る。
「コハク様‼目が覚めましたか‼」
何時もの飄々とした様子は鳴りを潜めて心底心配していると言った様子のリューンを見て少しだけ申し訳なく思いがら私は頷き、現状の把握を始める。
「おはよう。リューン。心配かけてごめんね。早速だけど今はどういう状態?私はどれぐらい寝ていたの?」
「海底神殿に出向いてから二日ほどですよ。お水が入っているので飲んでください。状況報告は魔王様の体調が大丈夫なら他の皆さんとした方が良いと思いますんで私からは何も無いです」
「わかった。ありがとう。直ぐに着替えるから皆にはその旨を伝えて来てくれる?」
リューンに確認を取ろうとすると彼女は私が起きたので今から事の顛末を皆で話すというのでリューンに皆への言伝を頼むと彼女は微妙な顔で待ったをかけて来る。
「コハク様、取り敢えずお風呂に入って来た方が良いですよ。嫉妬の魔王様に許可を取って湯は入れて有りますのでとにかくお風呂に入りましょう。一応、体は拭いて有りますけど海水でべたつきますでしょう?そんな格好だと狗神様にも嫌われますよ?」
「な、なんでそこで狗神君が出て来るのさ‼でも、確かに何となく体が気持ち悪いから有難くお湯は頂戴するよ」
「かしこまり、すぐに用意します」
リューンの言葉を聞き先にお風呂に入らせてもらう旨を伝えると彼女はニッコリと良い笑みを浮かべて何時もの返事をして湯浴みの支度をしに行ってくれる。ヴァネッサとルージェの二人は恐らく他の人達の所だろう。
そんな事を考えて居る内にリューンが湯浴みの支度を整えてくれて私はお風呂に入った後、皆と今回の騒動の話し合いをする事になった。
しばらくして夕食を摂りながらの会議を終えて解散になった後、私は人気のない海辺まで足を運び、《クラミツハ》のテストを行いながら会議の内容も含めて今日有った事を思い出す。
結論から言うと先日の事件は私達が担当した海底神殿以外は大した被害は無く無事に納めたらしい。
対して海底神殿は女神の贈り物を奪われた挙句に海底神殿もボロボロという散々な結果になったが相手が相手なだけにレヴィさんは私達に賠償を求めなかった。
「得られた成果は私の持つ贈り物の使い方だけか・・・割に合わないな・・・」
私が気を失っていた為にポーションが使えずに巻かれた包帯を見ながら《クラミツハ》で彼女の様に与える血を制限して海水を操って見るとやはり問題無く彼女と同じ様に使うことが出来る。
その光景を見ながら何で急にこんな事が出来るようになったのかと私は一つ小さく溜息を吐く。
実を言うと彼女との戦いの時に使った《タケミカヅチ》と《シナツヒコ》は今までは能力を使うと剣自体が著しく脆くなるという特性が有ったのだが、彼女との戦いでは能力を使っても《クラミツハ》と《オカミノカミ》の一撃を防ぐ事が出来た。
「あ、コハク。こんな所に居たのか。てか、何やっているんだ?」
一度見ただけで出来る様になる様な事ではない事に首を捻りながら練習をしていると唐突に後ろから声を掛けられる。
彼の声に一瞬ドキリとしながら振り返るとそこには私が操っている海水に目を丸くして驚いている狗神君が立って居る。
そんな彼の様子に私はクスリと笑いながら彼に挨拶をして今やっている事を説明する
「や、こんばんは狗神君。今はちょっと実験中なんだよ。何か用事だった?」
首を傾げてそんな事を訊けば彼は少しだけ言いづらそうにした後で意を決したような顔になると口を開く。
「少しだけ話せないかな?ちょっとコハクに言いたい事が有るんだ」
「うん。大丈夫だよ。そこに座ろうか?」
彼の言葉にそう言えば戦いに行く前に終わったら話をしようと言っていた事を思い出し、《クラミツハ》を使った練習を止めて近くのベンチを指差し答えると彼はホッとした様な笑みを浮かべて口を開く。
「ありがとう。悪いな」
「行く前に話をしようって約束もしたしね」
そう言って二人でベンチまで移動して隣り合わせで座る。
この間のデートの事やこの世界での事など他愛のない話を二人でしてまったりとしていると狗神君は唐突に空を見上げて息を一つ吐くと再び意を決したように表情を引き締めると空を見上げながら口を開く。
「今夜は月が綺麗だな」
その言葉を彼が呟いた瞬間、穏やかに流れていた空気が一瞬に緊張に包まれるような感覚に襲われる。
つい最近までの私なら「そうだね」という言葉だけで済ましてしまっていただろうが夢菜さんや光さんによって無駄に自分の気持ちを自覚してしまった後だとその言葉は別の意味を持ってしまう。
正直、他国の王様と話すよりさっきの言葉の意味を聞く方が緊張してしまう。勘違いだったら恥ずかしいし、当たっていても恥ずかしい・・・
そんな事を考えながら今度は私が意を決して横で緊張した様子の狗神君を見ながら恐る恐る彼の真意を知る為に口を開く。
「えっと・・・そう言う事を言うと私じゃなかったら勘違いされちゃうよ?」
間違っていても良いように少しだけおどけた様に彼にそう言うと狗神君は真剣な表情のまま私の言葉に答えてくれる。
「勘違いされるように言ってる。それにコハク以外にこんな風に言わない」
予想に反してそんな事を言われて私の頭は真っ白になってしまいそのまま固まっていると狗神君が少々言いづらそうに口を開く。
「えっと・・・それでコハクの返事を聞きたいんだけど・・・」
その言葉に何とか意識を此方に戻す。
正直に言うと彼の言ってくれた言葉はすごく嬉しい。
言い様の無い幸福感に思わず顔が緩みそうになるのを必死で我慢しながら私はアミルさんの助言通りに自分の気持ちを彼に伝えようと真剣な表情を作り、彼の方を見る。
その瞬間、先程までの幸福感は消え私は目の前の光景に顔を青ざめさせる。
目の前には先程まで真剣な顔をしてこちらを見ていた彼では無く血に濡れて首から上の無い彼が座っており周囲には無数の死体が転がっており、私の両手はいつの間にか彼と周囲に転がった死体の血で濡れている。
「コハク?」
その凄惨な光景に動けないでいると何処からともなく心配そうに私を呼ぶ声が聞こえて来てハッとして顔をもう一度狗神君を見るとそこには心配そうに私を見つめる彼の顔が有る。
「大丈夫か?」
「あ・・・うん。大丈夫だよ」
心底心配そうにそう尋ねて来る彼に答えて私は顔を伏せ、先程の光景をもう一度思い浮かべる。
あぁ、そうだった・・・私の手は無数の人間の血で汚れているんだった・・・
海底神殿で戦った彼女の言葉も思い出し、私は一度目を瞑る。
これからは今までの様に彼と接する事が出来なくなるかもしれないなぁ・・・
そんな事を考えた後で私は意を決して目を開けると彼の顔を見て先程の告白の返事を伝える為にゆっくりと口を開いた。
此処までの読了ありがとうございました。
次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。




