学校からの刺客
こんにちは、だいぶ暖かくなりましたが、それと同時に花粉がたくさん飛び始めました。皆様も花粉症にはお気を付けください。
第16話投稿させていただきます。楽しんでいただけたら幸いです。
チュンチュンという鳥の声とともに窓から差し込む日の光で目が覚める。
「…生きてる」
驚きながらベッドから起き上がり自分の体を確認する。右腕と背中に痛みは残っているものの他の傷はきれいになくなっている。
「最後のイビルベアの一撃で死にかけていたはずだけど…一体誰が?」
自分が最後どんな状態だったかなんてわからないけど、恐らく普通のポーションじゃ、此処まで回復しなかっただろう。一体誰がどんな目的でどんな対価を要求されるのか見当もつかない。
まぁ、今はそのことを考えていても仕方ない。その誰かが来た時に対処していこう。
さて、今は目が覚めた私を見て怒っているのが半分、嬉しそうにしているのが半分といった顔をしている母親にどう声を掛ければいいのやら…
「お母さん、おはよう」
とりあえずお母さんの方を向きながら笑顔で朝の挨拶をすることにした。
ええ、怒られましたとも、挨拶が返ってきた後にお母さんは泣き出し、その後に両親から延々とお説教を喰らいましたとも。
まぁ、危険な魔物相手に一人で立ち向かえば怒られて当然だよね。
私の目が覚めたのを聞いてユユ達もお見舞いに来てくれた。全員無事で本当に良かった。
それにしても、私が熊と戦ってから三日も立っていたとは…
その割には、熊の死に方について皆から質問が無い。私は、生き残るために皆に言っていない属性の魔法を多用したはずなのにそのことに一切触れてこない。
多分、両親やユユ達の話に出てきた魔法学校の教師が関係しているのだろう。
そうなると非常にまずい事になる。前回、スカウトに来た先生には、私は魔法の提案をしただけで大した魔法も使えないただの村娘でさらに阿保の子を装って断ったのだ。
しかし、今回スカウトに来た先生には、強力な攻撃魔法を見られてしまったのだ。
おまけにどういう方法か分からないが体の治療や命を助けて貰っているという借りもある。
「さて、どうしたものか…」
頬杖を突きながら今後の事について考えていると部屋のドアが軽くノックされる。
「コハク、今、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
考え事をしながらお母さんに軽く返事をするとドアが開きお母さんは見知らぬ若い男の人と私の部屋に入って来た。
「えっ…お母さんその人は誰?ひょっとして私とお父さんは捨てられるの?」
件の先生だと分かり早速ワザと阿保っぽい馬鹿な質問をする。これで強力な魔法は使えるけど阿保な子だと思って貰えれば御の字だ。
「そんなわけないでしょ!馬鹿なこと言っていると母の愛が飛ぶわよ!」
ちょっとお母さん!?怪我人にそれは罰が重くない!?ほら、隣の人も笑いを堪えているよ!?
そんな突っ込みを心の中で入れていると隣の男の人がクスクス笑いながら口を開いた。
「すみません。お母さん、紹介していただいても良いですか?」
「あぁ!ごめんなさい!先生。コハク、こちらの方はイリア魔法騎士学校で先生をされている。イクス先生よ。あなたの事を助けてくださった方よ。」
「ありがとうございました」
お母さんから説明を聞き、ペコリっと頭を下げながらお礼を言う。
くそ…思っていたより来るのが早い…
「いえいえ、お元気そうで良かったです。お母さん、申し訳ありませんが少し彼女と二人だけでお話をさせて貰っても良いでしょうか?」
イクスさんからお願いされお母さんは「それでは、ごゆっくり。後でお茶をお持ちしますね」と言って部屋から出て行った。
「さて、少し失礼しますよ。驚いて騒がないでくださいね。」
二人になり学校への勧誘が始まると思っていた私をひょいっと持ち上げ後ろを向かせるといきなり寝間着の上を捲りだした。
「ぴゃっ!ムグ!?」
「静かにしてください。」
驚いて叫びそうになる私の口を塞ぎ背中を見てブツブツと何かを言っている。
「ふむ、やはり背中の傷は残りましたか…。三日立てばもしやと思いましたが、さすがにあのポーションでも他の傷を治すのに力を使ってしまって骨折と背中の傷の完治は無理だったようですね。面白いデータが取れました」
一通り観察した後で捲っていた寝間着の上着を戻し、口からも手を離す。
文句を言おうとする私に涼しい笑顔を向けながら口を開いてきた。
「いやぁ、いきなりすみませんでした。此方も研究中の薬を使ったのでつい我を忘れてしまいました。私に幼女趣味はありませんから安心して下さい。」
ちょっ!!!今、サラっと危ない発言しなかった!?研究中の薬!?怖いわ!!
「まぁ、安全は保障出来ますし、研究と言っても一般のポーションとどれぐらい回復能力が違うのか、我々でも作れるかぐらいのなんですけどね。」
あ、研究って量産できるかとかなんだ…。てか、我々でもってそのポーションの出所は何処なのよ・・・?
「さて、話は変わりますが先日の熊を殺した魔法はお見事でした」
口調はそのままに少し真面目な声音になりながら急に本題に入って来る。
「確実に相手を殺す事のみに特化した魔法というのは、なかなかお目にかかれないのでとても興奮してしまいました。」
怖・・・殺し方見て興奮するとか危ない人すぎる・・・通じないと思うけど此処は子供の振りプラス阿保の子の真似事で切り抜けよう。くそ、いきなりの襲来で対策が何にも出来なかったのが痛い。熊より厄介だ。
「え~?コハク、子供だから殺すことに特化した魔法なんて使えないよ?魔法だって全然うまくないし、この間来た他の先生もコハクが魔法使うところ見たらなんかがっかりしながら帰って行ったよ?」
精一杯、阿保の子ぽく状況が分からない風を装い、自分の事も名前呼びにして返事をする。
ぶっちゃけ、自分を名前呼びにするとか、かなりキツイ。これを続けたら私の方が持たない。頼むからこれで残念な子認定してくれないかなぁ・・・
などと思っていると目の前の先生がいきなり笑い出す。
何?なんか笑えるようなこと言ったっけ?
「いやいや、すみません。前もって皆さんから聞いていた喋り方と全然違うものですから笑いが堪えられませんでした。」
・・・は?前もって皆から聞いていた?私の事を?阿保の子の振りが効かないとは思っていたけど皆から話を聞いてるとは思わなかった。
思わず。( ゜д゜)ポカーンっという顔で先生を見ていると非常に楽しそうに説明をしてくれた。
「貴方が起きるのまで3日間も時間が有ったので事前に村の皆さんにお話を伺っていたのですよ。皆さん揃って子供っぽくないところが有ると仰っていたので非常に無理して子供っぽく阿保っぽく答えていたのが可笑しくって笑ってしまいました。以上の理由で私にその様な誤魔化しは効きませんので普通に喋ってもらっても良いですか?」
くそ、3日という時間をフル活用してとことん私の事を調べてたのか…
キツイ思いした分だけ損した…
「チッ、やっぱり無駄でしたか、阿保っぽくして損しました。」
「フフ、やっと素でお話ししてくれる気になりましたか、聞いていた通り些か子供らしくないですね。」
「人の素を見て子供らしくないとは失礼じゃないですか?人の事をこっそりと調べたりして先生もどちらかと言うと先生らしく有りませんよね?」
ニコッと可愛らしく笑いながら子供らしくないと言われたお返しをする。
お互いに皮肉を言いながら私達は不気味に笑い合うのだった。
次回もまだ勧誘は続きますので楽しんでいただけたら幸いです。




