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第五、第六の厄災討伐戦・5

おはようございます。

第149話投稿させて頂きます。

評価ポイント・ブックマークありがとうございます。とてもとても励みになります。

楽しんで頂けたら幸いです

『・・・い、き・・・えてる?狗神くーん。起きて~。お~い』


 目を閉じて倒れている俺に向かって誰かが語り掛けて来る。

 記憶にある彼女の口調よりも幾分か軽い口調だが間違いなくここ最近で聞きなれたコハクの声だろう・・・


『う~ん。起きてくれないなぁ・・・時間も無いしどうしよう・・・』


 心底困ったと言った様子のコハクの声を聞いているのも良いが時間が無いと言っているのでゆっくりと目を開く。


『あ、起きてくれた。おはよう。狗神君。やっぱり君が飲んでくれたんだね』


 そう言って普段は余り見ないような笑顔で笑っているコハクに混乱しながら手を出してくる彼女の手を借りて立ち上がる。

 周囲を見渡すと先程まで居た神殿の中じゃなく図書館かと思うほど大量の本と本棚がズラッと並んでいてその中心部分の空間には小さなテーブルにティーセットが置いてある部屋に居る。

 そして何より異質なのはこの部屋の床一面に真っ赤な彼岸花が咲いている事だろう。


『えっと・・・驚いていると思うから手短に説明するね。まず、分かっていると思うけど此処は精神世界みたいな物で現実じゃないんだ。まぁ、私が此処にいるし部屋も違うから予想は付いていると思うけど・・・』


 そう言われて何となく納得しながら話を続けるコハクの言葉に耳を傾ける。

 よく見るとコハクの格好も白くゆったりした感じのワンピースで髪も腰に掛かるぐらいで記憶にあるよりもだいぶ長い。


『まさか勇者と魔王がスキルを共有しようとしたらこんな現象が起きるなんて思っても居なかったよ・・・ごめんね』


 ポリポリとバツが悪そうに頬を掻きながらコハクが謝って来る。

 どうやら彼女にとってもこの状況は予想外だったようだ。


「取り敢えず何となく状況は分かった。一つだけ聞きたいんだけど良い?」

『良いよ。何?』


 首を傾げて俺に先を促すコハクの顔を見ながら俺は先程から少しだけ気に為っている事を彼女に聞いてみる。


「なんか普段と少しだけ雰囲気が違くない?」


 俺の言葉に目の前のコハクは眼をぱちくりとしながら口を開く。

 こういう表情からも普段の彼女と違うので何だか新鮮な雰囲気だ。


『・・・こんな現状で気になる事ってそこなんだね・・・私はもっとプランCを黙っていた事について聞かれるのかと思っていたよ。えっとね。手っ取り早く言うと此処は精神世界みたいな物って言ったよね。で、私はあの子(コハク)のかなり深い所に居る人格みたいな物でね。君が見ている私より些か本質に近い存在なんだよ。違和感が有るのなら別の名前で呼ぶ?』

「あ、いや、大丈夫」


 コハクの提案に少しだけ動揺しながら答える。

 ・・・コハクの本質ってこんなに明るいの?

 そんな俺の返答に彼女は可愛らしく首を傾げると話を続ける。


『そう?それなら良いけど。じゃあ、私の本質についての話は置いといて・・・そろそろ本題に入ろうか?真面目に時間も無い事だしね』


 コハクの言葉にもう少しだけ質問をしたいと思ったが本気で時間が無いらしく彼女は真面目な顔で話をしだす。


『さて、大抵の事は手紙に書いて有った通りだから省くけどなんか質問は有る?』


 その言葉に手紙を読んでいた時に感じた疑問を素直に口にする。


「なんでもう一体の本体が憤怒の国に居ると思ったんだ?敵の動きなんて予想できないだろ?」

『あ~、それね・・・単純な話だよ。もしも、私がガマズミだったとして何処に大切な片割れを隠すかを徹底的にシュミレーションしただけだよ。結果、第五の厄災の居る憤怒の国に隠すのが安全と思ってね。もっと言えば不意を突いて飛び出してフェルや小父様達に攻撃させてから増殖すれば厄介極まりないからね。以上の点をもって私は奴らが憤怒の国に隠れていると予想を立てたんだよ。他には何か有る?』


 コハクの言葉に更に疑問に思った事を聞いてみる。


「俺達がガマズミの片割れを見つけたからと言って倒してしまって問題はないのか?もう一体はまだルファルデ法国に居るだろ?同時に殺さなきゃ増殖するだけじゃないのか?」

『うん、それは問題無いよ。結界魔法である《アイスコフィン》と《シールコフィン》を発動させる前にあの子はガマズミの首を刎ねて殺してから封印処置を施している。奴の片割れにはアイツが死んだって事が伝わったまま止まっているはずだよ』


 ガマズミの片割れを倒すことに問題無いと答えたコハクに俺は最後の質問をする。


「俺達がもし、第六の厄災の片割れを倒せたとしてすぐに結界は解除する事が出来るのか?メアニアさん達に連絡を入れた方が良いか?」

『そうだね。倒した時点でメアニア達に連絡を入れてくれれば彼女達が結界を解除してくれるからそうして貰えると助かるかな。自分で壊すのは面倒だろうしね』


 そんな会話の後、コハクは一つ頷き、話を変える。


『さて、話はこんな物かな。そろそろ目覚める時間だね』


 そう言いながらコハクはテーブルの方に歩いて行き、置いてあった花瓶に活けられていた白い彼岸花を花瓶から引き抜き手に取って俺の居る場所に戻って来る。


『はい。じゃあ、これを君に託すね。』


 そう言って差し出された花を受け取るとコハクは微笑みを浮かべたまま言葉を続ける。


『君からも何か私に渡して貰えるかな?多分それで薬の効果の発動条件を満たすと思うから・・・』


 そう言うコハクに俺は服の第二ボタンを引きちぎり彼女に手渡す。

 ボタンを手渡すと彼女は笑いながら受け取り口を開く。


『ふふ、ありがとう。狗神君、何度も本当に申し訳ないけどお願いね。言っておくけど無理はしないでね。あの子の為に無事に戻って来てね』


 そう言ってボタンを両手で包んで可愛らしく笑うコハクの顔を見てここに来てずっと感じていた疑問が明確な形に為って行く。

 ・・・本当にコハクか?

 そんな疑問が沸々と沸き上がって来て聞こうとすると彼女は先手を打つように口を開く。


『さて、じゃあ、そろそろお別れだね。お帰りは彼方の扉からどうぞ』


 有無を言わせぬ口調でそう言う彼女に促されて出口だと言われた扉を潜る前に意を決して彼女の方を向き、口を開く。


「君は・・・————『あの子の事をどうかお願いね』————」


 全てを言い終わらない内に彼女はその顔に微笑みを浮かべたままそう言うと扉のドアを閉めてしまった。

 バタンという音が辺りに響くのと同時に俺の意識は再び途切れた。




「お、起きたか?」


 ゆっくりと目を開けると俺が起きた事に気が付いた乾が近くに来て顔を覗き込む。


「大丈夫か?いきなり倒れたから皆驚いたぞ?」


 そう言いながら視線は何故か俺の左目に向いている。

 一体なんだと言うのだろうか?

 そんな乾に俺は思わず顔を顰めながらポツリと呟く。


「・・・むさい男のドアップ」

「うし、てめぇ、表に出やがれ。その喧嘩買ってやる」

(倒れて漸く起きた第一声がそれか・・・マジで殴るぞ)


「⁉」


 乾の言葉の後にいきなり別言葉が見え思わず目を見開き固まってしまう。


「・・・お前、眼の色どうした?」

(目の色が変わっている)

「は?俺の眼なんか変なのか?」


 俺に向かって怒ったような態度を取っていた乾が俺の眼を見て不思議そうな声を上げるのでポカンとしながら聞き返すと近くに有った手鏡を差し出してくる。

 訝しみながら鏡を覗くとその瞳の色に思わず声を上げる。


「なんだよ・・・これ・・・?」


 俺の瞳の色は普段見慣れた黒色ではなく片方だけが紫色に為っている。

 些か呆然としながら鏡を覗いているとドアが開き、早乙女さんが入って来る。

 俺が起きているのを見てほっとしてくれたのか笑みを作り話し掛けて来る。


「狗神先輩、起きたんですね?大丈夫ですか?」

(え?なになに?ちょっと席を外していたらなんか面白い事になっているんですけど‼いいわぁ、あの距離、やっぱり先輩たちは優×和登かしら?薄い本も厚くなるわぁ~)

「‼‼‼‼‼」


 早乙女さんの言っている事と見える言葉の落差にさらに混乱しながら思わず頭を抱えてしまいそうになる。

 君はそんなキャラだったのか・・・

 僅かな頭痛を感じていると横から袖を引っ張られる。

 振り向くとそこにはコハクによく似た少女の容姿をしているネージュが小さな手に片眼鏡(モノクル)を乗せて差し出しながら声を掛けて来る。


「勇者、これを戦闘になる前まで着けていた方が良いって主が言ってた」

(主とスキルをきょうゆう?してるから苦労するらしいよ)


 言われた事とネージュの思っている事で今のこの現象と瞳の色に納得がいった。

 そう言えば確かコハクは相手の考えてることが見えるんだったか・・・彼女は自分でオンオフを切り替えられるみたいだけど俺には無理みたいだな・・・そのスキルを使って敵の本体を見分けようとしているのにうっかりしていた・・・


「ありがとう。ネージュ」


 ネージュにお礼を言って片眼鏡を受け取り、着けると恐らく眼の力を封印する力が有ったのか見えていた言葉が一気に消えてなくなる。

 片眼鏡(モノクル)を装着した所で乾と早乙女さんに声を掛けられる。


「本当に大丈夫か?」

「具合が悪いならすぐに言ってくださいね」

「あぁ、大丈夫だよ。どうやら無事にコハクとスキルが共有できた証拠が出たみたいで少しだけ戸惑っただけだよ」


 そう言うと二人は些か心配そうな視線を向けて来るが納得してくれたらしい。

 早乙女さんの心の内は見なかった事にしよう・・・

 そう心で密かに誓ったところで再びドアが開き、戌夜と湊瀬さんが入って来たのでそのまま今後の行動と俺の現状を話合う。

 一通り話を終えた後でメアニアさんに話をし、暁の国に向かう。

 フェル達には戌夜が予め連絡を入れてくれたらしい。・・・出来る後輩だよ.


「それでは行ってきます」

「うむ、よろしく頼むの」


 見送りに来てくれたメアニアさんに代表して声を掛け、俺はコハクに教えて貰った《リング・オブ・トワイライト》の起動ワードを呟く。


「コリドーオープン」


 その言葉と共に見覚えの有る黒い穴のような道が開く。

 乾、早乙女さん、湊瀬さん、戌夜、俺の順でその穴に入り俺達は憤怒の国に向かった。


此処までの読了ありがとうございます。

次回もごゆるりとお待ち頂けたら幸いです。

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